“待機児童ゼロ”の自治体にも存在する「潜在的待機児童」…掛け声だけでなく、現実に目を向けた制度の議論を
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 就任会見で菅総理が「昨年の待機児童者数は調査開始以来、最少の1万2000人だった。今後、保育サービスを拡充し、この問題に終止符を打っていきたい」と述べ、引き続き対策に取り組むことを明言した待機児童問題。

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 厚生労働省の調べによれば、今年4月時点での待機児童数は前年比で4000人以上減り過去最少を更新したが、それでも全国で1万2439人が確認されており、政府の掲げる「2020年度末に待機児童ゼロにする」には程遠いのが現状だ。

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 そんな中にあって待機児童ゼロを達成した自治体の一つが東京・世田谷区だ。保坂展人区長によれば、区では国有地の活用や地主の資産運用に詳しい人材を登用するなどして保育園の用地を確保、前年に“全国ワースト1位”の470人から一転、ゼロを達成したという。

 しかし、そんな世田谷区にも“待機児童”がいるという。一体どういうことなのだろうか。

■「20園近くに対して申請を行った。でも1次選考も2次選考も落ちてしまった」

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 現在2歳の子どもを育てる世田谷区在住の山田さん(仮名)。フルタイムで働く共働き世帯で親と同居はしていない。出産後、育休を取得していたが、この春からは保育園に入れようと50園以上を見学、20の園に対して入園申請をするも“全落ち”した。
 
 世田谷区では子どもの両親の就労・休職の状況や出産、災害での被災などを勘案し、家庭の“指数”として選考基準としている。山田さんの場合も決してポイントは低くないと考えられるが、保活ライターの飯田陽子氏は「大きなマンションの建設で人口が増えたり、たまたま兄姉のいる子どもが多く、親が上のお子さんと同じ保育園に通わせようとしたりということで競争率が上がる、“入りにくい地域”というものがどこかで必ず出てくる」と説明する。

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 その後、山田さんの子どもは空きの出た認証保育園に入園することができたが、受け入れは2歳までのため、転園を視野に“保活”を継続している。幼稚園ではフルタイムで働くことは難しく、園庭で走り回って欲しいという思いもあり、庭のついた認可保育園に入れるのが理想だ。

■「地域の保育園全体の質を向上させ、保育格差を是正する必要がある」

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 山田さんの子どものように、希望する保育園の内定が得られなかったものの、国や自治体の定義で待機児童とカウントされなかったケースは「潜在的待機児童」と呼ばれている。一時的に認可外保育園などに預けた場合や、「自宅から30分未満(2キロ以内)の保育園に欠員があるのに入らなかった場合などが該当する。世田谷区でも「育休延長」目当てのケースの除外などをしているため、今年4月時点で773人の潜在的待機児童がいるとされている。

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 飯田氏は「育休中に雇用保険から支払われる育児休業給付金というものがあるが、受給延長のためには保育園に落ちたことの証明が必要になる。そのため、あえて人気のある保育園に申し込みをし、証明をもらうための活動をされている方も各地にいる。世田谷区ではその点も考慮して、去年からはチェックを入れるだけで、選考が最後になるようにした。すばらしい制度だと感動した」と話す。

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 一方、保育事業者だという視聴者からは「待機児童を解消すると経営が厳しくなる。なぜなら地域によって空きが発生して採算が合わなくなる。また保育士不足も懸念される。待機児童の解消は園児の募集、保育士の採用、定員割れの補償など、同時に進めていく必要がある」との声も届いた。

 「ここ数年の傾向だが、保護者が保育園を選ぶようになり、偏りも生じている。ハコを作るのも大事だが、保育士の待遇を改善し、保育の質を上げてもらうことも必要だ」(飯田氏)。

■「あくまでも制度の問題」「誰かが言い続けなければいけない」

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 エッセイストの紫原明子氏は「“みんなで子どもを大事にしようね”みたいな話ではなく、制度の問題だ」と指摘する。

 「“いま妊娠したの?”“また産んだの”と言われるなど、子どもを産んだ女性と産んでいない女性の間の確執もある。父親の育休義務化も議論されているが、取得した人の分の仕事をする人たちのことも含め、個人の努力に委ねている部分が大きすぎる。育休延長にしても、そもそも入りにくいという前提があるから延長せざるを得なかったり、4月入園に合わせるために取得を繰り上げる人もいる。効果があるかどうかは分からないが、“保育園に入れなかったので助けてください”と、地元議会の議員に泣きついたというのもよく聞く話だ」。

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 慶應大学特別招聘教授の夏野剛氏は、自身の経験から「政治家と議論をしたとき、“5年後には…”と言われて腹が立ったことがある。しかし子どもは成長するもの。親も“困っている“と言い続けることはできず、“あの頃は大変だったけど…”と諦めてしまいがちだ。そして、新しく子育てを始めた親が“状況が変わってない”と訴える、その繰り返しだ。問題を継承し、誰かがずっと言い続けていかないというところが難しい。そして、数字に基づいた議論をしなければならない」と話した。

■保育園の新設にも携わった乙武氏「規制緩和による小規模保育、保育士の待遇改善も必要」

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 作家の乙武洋匡氏は「財政面から考えても、ここまで待機児童を減らした世田谷区の努力はひとまず褒めてあげないといけないと思う。ただ、“待機児童ゼロ”とはいうものの、やはり同じ世田谷区であってもエリアによって山田さんのようなケースが出てくるということであれば、改善の余地も大きいと感じるし、都心部では広い土地を確保するのが難しい。そこの規制を緩めて、小規模保育でもできるようなシステムにすることも必要だ」と話した上で、次のように指摘した。

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 「保育園のための予算の半分は国が負担し、残りの半分を都道府県と市区町村が負担する仕組みになっているが、市区町村の財政が厳しくなれば、待機児童解消のため取り組みにも影響する。保育園を作ったは良いが、子どもの数が減少した場合、今度は無駄だと自治体が批判されてしまう。ハコを増やしても、そこで働く人を確保するという問題も出てくる。以前から言われてきたが、保育士の賃金はまだまだ非常に低く、長く安心して働けるようなレベルにはなっていないところも多い。国の比率を増やすにしても、何かの予算を減らさなければならないので、踏み込んだ議論になりにくい」。(ABEMA/『ABEMA Prime』より)

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