科学者で作る国の特別機関「日本学術会議」が新たな会員として推薦した候補者105人のうち、6人の任命を菅総理が拒否した。推薦した人が任命されないのは初めてで、波紋が広がっている。
任命されなかった6人はかつて、政府の方針に批判的な立場を取っていた。このうちの1人、東京慈恵会医科大学の小澤隆一教授は安倍政権時の2015年、国会で集団的自衛権を認める安保法制について、「このような欠陥法案を成立させることは、政治の責任の放棄のそしりを免れないでしょう」と違憲の立場で見解を述べていた。また、立命館大学大学院法務研究科の松宮孝明教授は2017年、いわゆる共謀罪について反対意見を表明していた。
今回、任命を拒否されたうち3人は、学術会議の会長あてに文書を提出。「内閣総理大臣からは理由など一切の説明がありません」「学問の自由の重大な侵害」として強く抗議し、任命拒否の撤回を求めるよう訴えている。
野党は2日、任命されなかった教授3人にヒアリングを行った。松宮教授は、今回の判断が与える影響について次のように語った。
「学者が忖度するということはもちろんあるが、この問題における被害者は日本の学術によって恩恵を受ける人々全体である。任命されなかった我々自身は被害者だという風には全然考えていない。日本の学術がきちんとこれから伸びていけるか、日本および世界の人々に恩恵を与える、成果を還元することができるかという影響が一番大きいだろうと考えている」
今回の問題について、一番影響を受けるのは私たち国民であると指摘。さらに会員選考のプロセスからみても、総理が任命を拒否する権利はないと主張している。
「学術会議の会員の選び方は、会員自身が次の会員を推薦する。推薦のプロセスというのは、会員であったり連携会員から意見を出し合って、専門家仲間の評価の中で『この人がいい』と決めている。その評価によって推薦された名簿に基づいて内閣総理大臣は任命する。実は法の精神からすれば、内閣総理大臣は任命権はあるが、任命拒否権は事実上ない」
そして、同じく任命されなかった早稲田大学大学院法務研究科の岡田正則教授は、自分たちはなぜ外されたのか「拒否の理由」について説明してほしいと訴えている。
「きちんと説明していただかないと、社会の在り方、政治の在り方としておかしい。被害者が“自分にどこが落ち度があったのか証明しろ”みたいなことになってしまう。一定の行政処分、特に相手方に対して不利益を及ぼすような処分をする時には、理由をつけなければならない。内閣総理大臣の政治責任、説明責任、行政責任として、果たしてもらう必要がある。ぜひ総理に説明していただきたい」
日本学術会議はきょう総会を行い、梶田隆章会長は拒否したことを明らかにすることなどを求める要望書を出すことを提案した。
6人の立場について、東京工業大学准教授の西田亮介氏は「共通するのは、特定秘密保護法や安保関連法案、共謀罪といずれも安倍政権において政権を揺るがすかもしれないと言われた重要政策に反対していた人物だというところ。そもそも(各人の)専門分野も多岐にわたるが、政府の政策や立場に対して“すべて肯定する”という研究者はほとんどいないはず。とくに専門分野と近い人文社会科学系の研究者の場合、対象に対して批判的な態度や視点を取るのは研究者の基本的な姿勢でもあるので、そういう人は多いと思う」との見方を示す。
また、任命見送りが学問の萎縮や自由の侵害につながるといった声については、「政府の重要政策に賛成しない場合には、研究者として名誉な場である学術会議に参加できないのかということになると、直接間接に一定のプレッシャーを与える可能性がある。他にも、政府は研究者が研究するための科研費という比較的使い勝手のよい競争的資金を持っているが、そこでも政府に賛意を示していない場合に予算が出なくなってしまうのでは、といった案配で将来へのプレッシャーもあるかなと思う」と懸念を示した。
そもそも、政府からの独立機関でありながらなぜ総理が任命するのか。西田氏は「内閣府の中に『特別の機関』として設置されているので、形式的には完全に独立しているとはいい難いところがある」とした上で、「学問の自由を擁護するのは極めて重要な事項。これまでこういった問題に政府はあまり介入してこなかったが、政府が通常柔軟に対応しているような機関でも、政府の方針に対して反対するようであれば容赦なく強いプレッシャーを与えるというのが、新しい菅政権の方針だということが明確に示された」と指摘した。
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