誰がノーベル賞を受賞するのかに注目が集まる「ノーベルウィーク」の真っ只中。一昨年は生理学医学賞で本庶佑・京大名誉教授、昨年は化学賞で吉野彰・旭化成名誉フェローが受賞しており、今年も日本人の受賞に期待がかかる。
・【映像】「新しい分野に挑戦するのができにくくなっている」 深刻化する国内の研究環境
その一方、アメリカや中国と比べ少ない研究開発費や人材の海外流出など、日本の研究には大きな懸念が横たわっている。
2012年に生理学医学賞を受賞した山中伸弥・京大教授は「長期的な研究には期限付きの財源だけでなく、長期的に活用できる資金が必要不可欠」と指摘。自らマラソンに出場するなどし、寄付金を呼びかけている。
また、本庶教授も「基礎研究を計画的に、長期的な展望でサポートして若い人が人生をかけてよかったなと思えるような国になることが重要」として、文科相に基礎研究費増額を要請している。
病理医で科学・技術政策ウォッチャーの榎木英介氏は「研究費を申請し、ようやくもらえるという状況だ。競争も厳しいので、提出する書類にもものすごいエネルギーがかかる。そもそも採択されるかどうかはそれまでの業績も関係しているので、未知の分野、新しい分野への挑戦はしにくい。そういう事情から資金面で安定せず、研究が“自転車操業”になっている」と話す。
「“千のうち三つ”という言い方があるが、ノーベル賞はまさに0を1にするような研究に与えられる。しかし、ゼロをイチにする過程では多くの無駄が出るし、誰が成功するか分からない。そこに投資できるだけの“ゆとり”が、日本にあるかという問題だ。しかし現状では研究室を維持するため、1を10にするような研究、これまでのデータや蓄積があるような手堅い研究を重ねることしかできず、大胆な挑戦がしにくくなってしまっている。また、ノーベル賞は脳が柔らかい若い頃に始めた研究で受賞している人も多い。その時期に日本の若い研究者たちは教授の“小間使い”のようになってしまい、自分で好きなように研究ができないこともある」。
こうしたことから、「残念ながら、日本が科学技術で優れた国であるというのは、もはや言えないのではないか」(梶田隆章・東大教授、2015年に物理学賞)、「日本の大学の状況は危機的で、このままいくと10年後、20年後にはノーベル賞受賞者が出なくなると思う」(大隅良典・東工大教授、2016年に生理学医学賞)と、ノーベル賞受賞者たちも警鐘を鳴らしてきた。
そんな中、研究開発費の伸張が著しいのが中国だ。榎木氏も「なかなか自前で研究ができないと国外に出ていく研究者を世界から集めているという話もある。ノーベル賞は研究を初めて何十年も経ってから受賞に至ることがよくあるので、今後10年後、20年後、30年後には大量の受賞者が出る可能性もあると思う」と話す。
「日本政府としても、若手がじっくり研究に取り組めるよう支援する方針を打ち出してはいるが、その人たちが若くなくなったらどうなるんだ、というところは解決していない。“若いうちはいいかもしれないけれど…”という感じで、飛び込みたくないなという状況は続いている。また、日本はどうしても同じ大学出身者で集まってしまいがち。様々なバックグラウンドを持った人が混ざり合い、切磋琢磨できる環境作りも必要だ」。
ハーバード大出身のお笑いタレント・パックンは「言語の壁も大きいと思う。研究結果は英語で発信されることが多いので、やはり英語圏の研究者が注目されるし、共同研究者や研究費も集まりやすい。例えばアメリカの大学院を支えているのは世界から来た逸材で、特に中国人とインド人が多い。これはアメリカで生まれ育った人の刺激にもなるし、非常にプラスだ。その点、日本語だけでは難しいし、英語がぎこちないこともある。日本政府も留学生を集めようとしているが、アメリカなどが競争相手なので厳しい」と指摘。
「そして、教育全体の問題がある。飛び級ができない。日本は“分厚い中間層”を作るのは上手い国で、落ちこぼれが出てきにくいのも良いことだ。しかし“出る杭は打たれる”という嫌な面があるので、逸材がなかなか飛び出せない。100年に1人の能力を持って生まれて来ても、日本では発見されないかもしれない、伸ばしてもらえないかもしれない、という懸念が大きいということだ」。(ABEMA/『ABEMA Prime』より)
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