スポーツクライミングを題材にしたアニメ「いわかける!- Sport Climbing Girls -」が、10月3日から放送スタートとなった。パズルの天才である女子高生の笠原好(かさはら・このみ)が、とあることからスポーツクライミングの世界に触れ、競技の魅力に引き込まれながら、その才能を開花していくというストーリーだ。漫画・アニメの世界でも、まだ作品例が多くないスポーツクライミングの世界を、アニメで表現するのは40年以上のキャリアを持つアミノテツロ監督。アイドル、スポーツ、ロボット、SFなど、様々なジャンルを手掛けたアミノ監督は、この新題材にどう向き合ったか話を聞いた。
-「いわかける!」という作品に触れた際の印象をお願いします。
アミノテツロ監督(以下、アミノ)
競技自体に興味はあったし、体力があればやりたいなぐらいなことは思っていました。アニメや漫画にしても、スポーツクライミングは題材としては珍しいですよね。ただ、この「登る」という、見た目では地味なものをどうアニメーションにしようかとは思いましたね(笑)
-競技としても流行したのは最近でした。
アミノ
原作を読んでみたら、これがなんとも不思議で、新感覚でした。スポーツクライミングという競技の特殊性があったと思いますが、いろいろな「お試し」がなされている。こういう描き方という新鮮な驚きがありました。野球やプロレスとか、他のスポーツならどうすればいいかわかっていたのですが。今回は今までにないスポーツクライミングの世界で、アニメでどう描けばいいのか、やりながら考えました。
-作品例のない競技をアニメ化したことで苦労した点はどこでしたか。
アミノ
ルールが厳しくて、石や登る場所が決まっている。こういう壁があって、登りますというのでも、描くには厳正なルールがある。真っ先に思ったのは、作画でいつも同じ壁を描くことができないんじゃないのと。だから3Dで決めて、それを基準でやることにしました。それでも相当苦労はしたんですが。
-毎回、壁の形が違っては確かにおかしいですね。
アミノ
ただ、正確にやったらやったで、はたして面白いのかと。そこで漫画を読み直すと、いろいろなことがなされていました。現実にすごく忠実な部分と、漫画として跳ねる部分がありました。原作の石坂リューダイさんも相当苦労したんじゃないでしょうか。その試行錯誤を僕も感じて、自分なりに理解して描き方を考えました。
-スポーツクライミングには「ボルダリング」「リード」「スピード」の3種類があります。
アミノ
これは実際に見なきゃダメだろうと思って、2回ほど大会に行きました。直に見ないとダメなんですよ。3種類の競技、全て見られたんですけど、まあすごかったです(笑)自分でやったら、最初の1手も登れなかったでしょうね。自分の目で見たことで、だいぶ立体感が持てたし、改めて漫画を読んで、またわかることもありました。
-大人が腕1本、指1本で体重を支えるのは圧巻の競技です。
アミノ
見ているだけでもすごいなと思えるんですが、自分がやると考えた時に人間技として、ものすごいものがありますよね。たとえば巷にあるジムでクライミングが出来るところでは、壁にホールドという石がランダムに設置してあります。それを見ていると「ここからここまでは行けるんじゃないか」とイメージできるんですけど、実際の競技を見てみると、ボルダリングは思っている以上にホールドの数が少ない。あれが最初の驚きでした。身長近く離れているところもあって、あれをどう登るんだろうと見ていたら、ちゃんと登る。衝撃でしたね。
-「リード」「スピード」はいかがでしたか。
リードは高さですね(競技では12メートル以上がルール)。そばで見ると高い。あの高さを成熟した体を持った大人が登るんだと思うと、敬意を評しますよね。スピードは「スピード」というくらいで、速い。重力を無視している感じ。ゆるく手前に傾斜しているのに、それでも落ちないし、競技としては非常におもしろいです。
-主人公、笠原好というキャラクターについてはいかがですか。
アミノ
変わった子だったんで、びっくりしました(笑)ゲーム女子がクライミングをするのは構わないけれど、そこのポイントをどう消化するか。ゲームをやっている人は、敵がゲームの中にあるし、ゲームと自分との戦い。そこは壁が敵であるクライミングともつながりがあるかと思いました。
-好はクライミングを始めてから、すぐにコツを掴んでいきました。
アミノ
自分の中で割り切ったのは、好という主人公は、天才というか、なんでもできちゃう子だということです。いきなりやってできてしまうという意味ではなくて、普通の人が2~3カ月かかるところを2~3日でやってしまう、吸収力がすごいという意味です。ゲームなら頂点に立ってしまうし、クライミングもすぐに覚える。世の中の習い事もそうで、人によって覚える速度は違うじゃないですか。楽器でもなかなか覚えられない人が、ある日突然できるようになることがあるし、よく聞く話です。その「ある日突然」が、好はすぐに来るタイプなんだと。作品では、チームメイトの上原隼という努力家の子と対照的なので、そういう風に見ていけばいいのだと思いました。
-作品を通じてゲームの能力をクライミングに活かす描写もあります。
アミノ
クライミングは好が自ら選んでやろうと決めたものでもあるし、ゲームの世界で頂点を極めた子が、クライミングの中にそれを取り込んだところが、相乗効果というか、ますます好自身がのめり込む感じになったのかなと思います。
-クライミングをアニメとして見せる上でのポイントはどこでしたか。
もちろんアニメにすると、登るところが見られるのが一番です。ただルール的なことを追求して、より正確にやろうとするほど逆にアニメっぽくなくなってしまうこともあって、僕の中でもその狭間で揺れ動いていました。まだアニメ界には少ないスポーツクライミングという世界観に対して、僕としてはかなり「お試し」をしたつもりです。新機軸というほどオーバーなものでもないですが、「ちょっと遊んでみました」とか、「ちょっと特徴あるでしょ」というのは意識して散りばめました。自分としては普段やらないことをやってみたところがあります。
-業界歴40年以上のアミノ監督が新しいことに挑戦されるのは楽しいですか。
アミノ
挑戦はオーバーじゃないかとは言いつつ、自分では挑戦したつもりです(笑)だから「どうよ!」みたいな部分は、今回はありました。原作が僕に与えたミッションはかなり高い壁だったので!気持ち的には、ちょっと新しい気持ちで見てもらえるとうれしいかなと思います。
-最後に、好は壁に挑む際に脳内で完璧にシミュレーションしてから臨みます。アミノ監督は、作品に向かう上でどんなタイプですか。
アミノ
僕は「やりながら」のタイプなんで、あんまり構想を練るタイプじゃないですね(笑)。やっていって、その場で浮かんだことを活かしていく感じです。「あっちいこうかな」とか、「こっちでいいや」とか、そのあたりのルートはかなりラフです。ただ、それが正しいかどうか別として、跳ぶことはありますね。ベーシックなものはある程度やっていればできると思うので、逆にいつどうやって跳ぼうかなと考えています。
(C)石坂リューダイ・サイコミ/花宮女子クライミング部応援団