朝鮮労働党創建75周年を迎えた10日、軍事パレードを開催、その模様を生中継した北朝鮮。真夜中のスタートは異例で、「北極星4A」と書かれた新型のSLBM(潜水艦発射弾道ミサイル)や、新型と見られるICBM(大陸間弾道ミサイル)もお披露目された。
しかし、それ以上に異例尽くしだったのが、時折涙ぐむ場面も見せた、金正恩委員長による演説だった。
金委員長は「全人民に熱い感謝と祝賀の挨拶を謹んで捧げる。本心は“ありがとうございます”の一言に尽きる」「一人の悪性ウイルス(新型コロナウイルス)被害者もなく、皆が健康であってくれて、本当にありがとうございます」と、国民に向け敬語を使って呼びかけかと思えば、「天のようで海のようなわが人民のあまりにも厚い信頼を受けるだけで、ただの一度も満足に応えることができず、本当に面目ない。まだ努力と真心が足りず、わが人民は困窮した生活を脱することができずにいる」と、声を震わせて自らの力不足を詫びる場面も。
北朝鮮情勢を研究する日本大学国際関係学部の川口智彦准教授は「演説が始まってすぐに感じたのが、“何が起こったのか”ということだった。これまで何度も金委員長の演説は聞いてきたが、大抵は原稿を見ながら淡々と話していた。それが今回は頭から非常に感情がこもっていた。私は“影武者説”などは絶対に唱えないが、そうであったとしても不思議でないくらい、いつもとは様子が違った。しかも涙声になり、ついには眼鏡を外して涙を拭った。非常に感動的な演説だった」と振り返る。
「100%演技、あるいは100%本心ということはないだろうが、彼の様子を見ていると、少なくとも80%くらいは本心からの言葉だったと思う。それほどコロナ、自然災害、安保理制裁の3つでこの10カ月間、苦しかったということだろう。人民は、声をかければ被災地に行ってボランティアをやってくれる。そういう気持ちが一気に前に立ってこみ上げてきたのだと思う。おじいさんの金日成時代の映画を見ていても、農民と一緒に煙草を吸いながら話をしているエピソードが出てくるし、もともと国民の中に入っていくというスタンスはある。そういう中で、今回は国民に近い指導者を演じたということだと思う。次の演説の機会には、また元の金委員長に戻ることも十分に考えられる」。
お笑いタレントのパックンが「新型コロナウイルスで入院中のトランプ大統領にお見舞いの言葉を寄せたし、その前には自国の軍隊が韓国人を射殺したことについて、文在寅大統領に対して謝った。金正恩委員長の柔らかい部分が見えてきたのではないか」と指摘すると、川口氏は次のような見方を示した。
「今回の演説のうち、核抑止力以外の部分は完全に内向けのメッセージだと思う。普通の指導者になったというのを外向けにアピールしたいという説もあるが、私はそうは思わない。アメリカに親書を贈ったのもトランプ大統領に選挙で勝ってもらわなければ困るからだし、韓国への親書も南との関係改善の文脈からだやはり北朝鮮の経済状況が背景にあると思う。また、内部の権力闘争によるものでもないと思う。妹の金与正さんに一部委譲したという説も流れたが、その後の動きを見ていると。それはなかったと思う。金与正さんが来年の1月に予定されている第8回党大会で設置されるとみられる新しい委員会の役職に就くことがあれば、権力の一部委譲という言い方もできるかもしれない。
一方、今回お披露目された新型ミサイルについてはどのように見ればいいのだろうか。
川口氏は「今回見せた“火星15の改良型”と言われるものについては一度も発射していないので、本当に飛ぶミサイルかどうかも分からない。したがって、“モック”である可能性すらある。それは“北極星4”についても同様だ。やはり内向けには“軍事もちゃんとやっている”と訴えつつ、外向けには“我々はこういうものを持っている”と、特に米国に対して訴えたい。ただし、そこには“持ってはいるが、実験はやっていない。それは約束を守っているからだ”として、トランプ陣営を応援するという意味も込められていると思う。そして、仮にトランプ大統領が再選すれば、米朝問題が動来出す可能性はかなり大きいと私は思っている。その時の交渉材料にする目的もあるだろう」との見方を示していた。(ABEMA/『ABEMA Prime』より)
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