10月11日のRISE・ぴあアリーナMM大会は、団体初の「那須川天心が出場しないビッグマッチ」だった。注目されたのは“ポスト天心”“NEXT天心”の登場だ。伊藤隆代表は「天心vsRISE」というスローガンを打ち出している。天心に勝つ選手、天心に続く選手がRISEから生まれてほしいという思いからだ。
誰が勝つかだけでなく、どんな存在感を示すかもポイントだった今大会で主役になったのは原口健飛だった。8月のRIZINで大雅をKO、絶好調で-63kgトーナメントに臨んだ原口は、1回戦でシュートボクシング&KNOCK OUT王者の西岡蓮太に判定勝ち。決勝では前年の世界トーナメント覇者・白鳥大珠を下した直樹と対戦し、1ラウンドでKO。優勝を果たすとともにメインイベントを見事に締めた。
「身体中が痛いです」
一夜明け会見でそう語った原口。それは両手、両足すべての攻撃がヒットしたことを意味する。三日月蹴り、二段蹴り、ハイキックを着地してそのままバックスピンキックと多彩な攻撃が目立った。二段蹴りで飛び上がり、そのままパンチを放つ場面も。こうしたファイトスタイルに「セオリーはないんです」と言う。
「二段蹴りで飛びながらのパンチとか、その場のひらめきですね。(伊藤)代表に“あれ何?”って言われたんですけど自分でも分からない(笑)。攻撃しながら“ここあいてる!”“いける!”って自然に手が出るんですよ」
西岡戦は「作戦通り」。最初の10秒で「いける」と感じたそうだ。
「手を合わせた瞬間に下がってくれたので。(カウンターを狙って)誘ってるんじゃないなと」
常に圧力をかけて判定勝利。決勝では攻めまくってパンチで倒した。
「やるしかないって感じでしたね。作戦は“いくしかない”で」
1回戦の第1試合、原口との決勝での対戦が期待された白鳥が敗れた。その瞬間、原口はRISE王者としてトーナメントを背負う立場になったと言っていいだろう。
「大珠くんが負けた瞬間に、周りも“お前しかおらんぞ”と。その責任感はめっちゃありましたね。プレッシャーもヤバかった」
負けたらトーナメントが成立しない、一つのミスもできない。そんな重圧の中で原口は闘っていた。決勝戦の前には「トイレで泣いた」という。
「やっぱり、どの試合も負けるのは怖いんですよ。勝ち負けがつくことへの怖さ。試合をするだけならいいんですけど。しかも今回は1日2試合。1回戦が終わって“まだ試合あるやん…”って」
プレッシャーを感じるのも、RISEを背負う責任感があるからこそ。“NEXT天心”争いも当然のように意識していた。
「(NEXT天心は)原口か白鳥かって見られてたじゃないですか。そこは俺しかおらんやろと思ってました」
その一方で、格闘技は「自己満」だとも言う。
「結局は好きでやってるんですよね。お金ほしい、人気がほしいもあるけど、こんな痛いし怖いことは好きじゃなきゃできない。負けてもやり続ける選手がいるのは、みんな好きだからですよ。だから嫌いになったらやめます。嫌いになりたくはないですけどね。格闘技のことはずっと好きでいたいです、ベルトが重くても」
自分は格闘技に助けられたと原口は言う。努力すると強くなれると知った。負けて成長することもある。悩んだ時にはサンドバッグを殴り、試合に勝つことで悩みが消える。
「勝つのが人生で一番嬉しいこと。ずっと格闘技に関わって生きていきたいです」
言葉も闘いぶりも根っからの格闘家。ここからいよいよ、スター街道が本格的に始まることになる。
文/橋本宗洋