紙幣や硬貨と同じ様に使える電子的な通貨、「デジタル通貨」。中国のIT特区、広東省深セン市で大規模な実験が始まった。
「デジタル人民元」の実証実験は深セン市が中国人民銀行と連携して行うもので、抽選で5万人を選び1人あたり200元(約3200円)を配布。選ばれた人はスマートフォンに専用アプリをダウンロードして受け取る仕組みだ。
配布されたデジタル人民元とはどのようなものなのか、抽選に当たった利用者を取材した。
デジタル人民元のアプリを開くと、残高を示す200の数字に、紙幣と同じく毛沢東の肖像画も描かれている。抽選に当たった女性は「すごくうれしかったです。運がいいです。2%の当選率ですから」と話す。
実際の買い物を見てみると、店員が商品をレジに通し、利用者がQRコードを提示。お互い使い慣れていないため少し手間取っているようだが、店員がQRコードを読み取って支払いが完了した。アプリ内の残高もちゃんと減っており、「すごく便利だと思います。WeChatペイとよく似ています」と使い勝手は問題ないようだ。
このデジタル人民元は、深セン市内の決められた地域の商店や飲食店など約3400の店舗で利用できる。現時点では実験ということもあり、他人に譲渡したり自分の銀行口座に振り込んだりすることはできないということだ。
今回の実験について当選者の女性は「先進的、歴史的に名が残る出来事だと思います。今は多くのATMが廃止され、デジタルでの支払いが生活に普及してきたからだと思います。デジタル人民元も大きな流れに沿った必然的なことです。今後はいろんな消費習慣に改善や革新を起こすことになるのでしょう」と語った。
このデジタル人民元について『ABEMAヒルズ』では、現地で取材するテレビ朝日・中国総局長の千々岩森生氏が当選者のスマホを借り、許可を得て実際に決済を試してみた。
試すのは、デジタル人民元に対応していることを表すステッカーが貼られた中国のコンビニ「美宜佳」。商品をレジに通したら、スマホのQRコードを読み取ってもらい、暗証番号を入力するだけだ。残高は即時反映される。千々岩氏は「日本でもいろいろなスマホ決済が出ているが、使い方は似ていてほぼ一緒だと言えると思う」と話す。
主要国の中央銀行がデジタル通貨を発行するのは、中国が初めて。この取り組みが深センで行われたことについては、「テンセントやファーウェイの本社があったりと先端技術が盛んな地域で、やはりこの街からこういう技術も出てきたなという感想。中国内でも非常に話題になっていて、当たった5万人も本当にラッキーで皆さん喜んでいる。今週いっぱいが使用期限なので、さっそく皆さん使い始めている」と説明した。
一方で、海外は危機感を募らせているという。「技術も革新的だが、決済が非常に簡単。これをもって、海外で中国の企業同士、人同士の決済がどんどん広がっていく可能性がある。そうすると、いわゆる“ドル覇権”が徐々に人民元に侵食される可能性があり、アメリカだけでなくG7各国、日本も含めて懸念を持っている」とした。
また、『WIRED』日本版編集長の松島倫明氏も、「これから各国が進めていくと思うが、デジタル通貨の本質は、今まで人が通貨を管理していたが通貨が人を知りだすということ。今僕らが決済サービスを使ったらすでに情報は送られているが、それを管理するのは企業なのか政府なのか。個人の権利や自由に対する価値観が違う政府の通貨に、僕らがどんどん情報を付加していく社会がやってくるということのインパクトは、考えなければいけないと思う」との見方を示した。
(ABEMA/『ABEMAヒルズ』より)
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