「知っている。男同士」「わかる。女の人が女の子好きみたいな」「同性愛者みたいな?」「わかんない」「男性の方?あれ?」
男性と女性、どちらも愛することができる「バイセクシュアル(両性愛)」について街中で聞いてみると、返ってくるこうした声。
同性愛者のゲイやレズビアンと混同していたり、知っている人でも「男女両方って意味がわからない」「バイって、彼氏も彼女も1人ずつ欲しいの?」「節操がない、性欲が強いイメージ」という声が聞かれ、“性に奔放な人”という誤解や間違ったイメージを抱かれているのも現実にある。
実際にバイセクシュアルとはどういう考えを持つ人たちなのか。LGBTの情報発信や当事者コミュニティを運営する会社を立ち上げ、同じ境遇の人達の手助けもしている20歳の濱本智義さん。濱本さんがバイセクシュアルに気付いたのは中学2年生の時だそうで、「同じ部活の同性の友達を好きになったのがきっかけだった。それまで男の子を意識したことはあったが、やはり年齢が若かったのでただの憧れなのか、それとも恋愛感情の一種なのかがわからなくて、その時はなかなか受け入れられなかった」と明かす。
当時LGBTの意味も理解しておらず、湧き上がる恋心と感情に戸惑いもあったという。「世間的には良くないイメージの方が強かったし、テレビに映っている人たちはオネエタレントと言われる女性らしい人が多くて。でも僕の性自認は男性なので、この人たちと一緒かといえばちょっと違うなと思ったり、自分は何者かということをあんまりわかっていなかった」。自身がバイセクシュアルであるとわかるまで時間がかかったという。
とはいえ、今も人によって違う多様な性の在り方に当事者ですら理解が難しいと感じるそうだ。濱本さんは「セクシュアリティの中でも、バイセクシュアルは人それぞれによってもっと違う。僕は男性女性ともに恋愛感情を抱くが、男性にしか性的感情は抱かない。まだ自分のセクシュアリティを探している段階という人もいるし、そういう意味では結構難しいと思う。世間では誰でもいいのではないか、性欲が強いだけなのではないかという性癖の一部として思っている人もいると思うが、そうではなくてセクシュアリティの一つということを強く主張したい」と訴えた。
■“パンセクシュアル”のれーやんさん「ただ好きになった人が好き」
複雑で理解が追いつかないバイセクシュアルの世界。そんな現状を変えようと、YouTubeで配信をする人も登場している。『エルビアンTV』のれーやんさんは「男女のカップルはキスもするし、デートもするし、夜の行為もする。女子同士のカップルも本当に同じで、デートもするし、キスもするし、夜のこともするし、変わらないんだよということを発信している」と話す。
2人の日常をありのままに配信するれーやんさんは現在、同性のパートナーと交際中。自身のセクシュアリティは「パンセクシュアル」だと認識している。「中学生まではバイセクシュアルだと思っていて、高校卒業したくらいでパンセクシュアルかなと自覚し始めた。性別を恋愛指向の中に特に入れず、全ての方を恋愛対象としてみる。ただ好きになった人が好きというセクシュアリティ」。パンセクシュアルとは、バイセクシュアルに近いと言われる性的志向。男性と女性だけでなく、性自認と身体の性が一致しないトランスジェンダーや、性自認が男性にも女性にもあてはまらないXジェンダーなど“全ての性”に恋愛感情を抱くようになったという。
れーやんさんは「恋愛する人が変わるだけで周りの反応がすごく変わる。私が女性と付き合っている時は『自分たちとは違う』『変わっている』『ちょっと理解できない』という人もいるし、逆に男性と付き合ったと報告したら『やはり気の迷いだったのではないか』『一時期のお遊びだったんだね』と何もなかったことにされてしまい、なかなか理解がされにくいところ。知ってほしいというのが一番で、みんなが知ってくれることで制度がないのはおかしいと思ってくれたり、いろんなことに繋がるというのが当事者にとっても大きい。LGBTが何かくらいはもっと知ってもらえたらいいのにと思う」と訴えた。
■LGBTの中でも“疎外感”? 相手の性によって生活の変化も
誤解が多く、理解が少ないバイセクシュアルについて、16日の『ABEMA Prime』は当事者をスタジオに招き、さらに詳しく話を聞いた。
LGBTの支援活動も行っている越智えり子氏(31)は、20歳頃にバイセクシュアルを自認。男女ともに交際を経験しており、現在トランスジェンダー男性と交際している。
バイセクシュアルを自認した経緯について越智氏は、「最初に付き合った人が自身を女性と自認している人で、私も自分のことを女性と自認しているので女性同士の恋愛だと思っていた。当時高校1年生だったが、その時はLGBTという言葉がまだなく、学校で性は多様だなどと学ぶ機会もなかったので、知識がなかった。その後、大学生になってから自身を男性だと自認している人とも付き合うことがあり、“あの時の恋愛の感情はなんだったのか”という戸惑いもあった。その中で、やはり女性の人にも惹かれることがあったので、いわゆる男性も女性も恋愛対象になる私は何者なのか、ともやもやしていた。20歳くらいの時にLGBTという言葉も出てきて、自分は男性も女性も恋愛対象になるバイセクシュアルなのだ、というところで落ち着いた。自分らしさをやっと発見できたという背景がある」と語る。
越智氏は、セクシュアリティや性のあり方は一度決めたら変えられないものではない、決めなくてもいいと訴える。
「私自身はバイセクシュアルとカミングアウトをしたわけだが、今後もしかしたら自分はレズビアンだ、パンセクシュアルだと名乗ることはあると思っている。私が今ここでカミングアウトをしたからといって、相手の人は“じゃああなたはずっとそうなのね”と決めつけるのではなく、本人がどう名乗りたいか、どう表現したいかというところを大事にしてもらうことが大切」
“好きになった人が好きなだけ”というのが越智氏の考えだ。「もちろんすべての人が誰かに恋愛感情を抱くわけでもないし、好きになるという感覚は人によって違うのが前提。私の場合は、もっと近くに行きたい、手を繋ぎたい、相手にとって特別な存在でありたいという気持ちが湧いた時に、この人のことが好きなのだと思う。その人が本当にたまたまそういうセクシュアリティのあり方だっただけなので、“好きになった人が好き”という本当にシンプルにそれだと思っている」と述べた。
一方で、バイセクシュアル単独のコミュニティがほとんどないことやロールモデルがいない(作品などが少ない)こと、交際相手の性によって生活が変わること、「気の迷い」「一時期の遊び」「最後は結婚が認められる異性を選ぶんでしょ?」と言われるなどの悩みがあるという。
ライターでバイセクシュアルの川瀬みちる氏によると、バイセクシュアルはLGBTの中でも“疎外感”を感じるという。同性愛者からは「異性を愛せるなら“仲間”じゃない」、異性愛者からは「両方好きって理解できない」と思われ、どちらのコミュニティでもバイセクシュアルを隠したり、どちらかのふりをすることが多いそうだ。好きだった女性に「私と付き合うなら、二度と男と付き合わないでほしい」と言われたこともあるという。
越智氏は「バイセクシュアルを隠したり、どちらかのふりをすることが多いという点に関しては少しわかりかねる。本人の自己開示の部分だと思うので、例えばこの場だと言えないなと思ったら言わないという選択肢もあると思う」との認識を示した。
■どうつくる?カミングアウトしやすい社会
LGBT総合研究所「LGBT意識行動調査2019」によると、当事者のカミングアウトの実態は「誰にもカミングアウトしていない」が78.8%と多数で、「友人」が14.5%、「家族」が5.2%、「職場関係」が3.0%となっている(複数回答)。
越智氏のカミングアウトは、高校3年生の時に友達に対してだったという。「高校3年生の時に私の父が病気で亡くなった。自分自身の性のあり方、セクシュアリティに悩んでいたし、家族のことでも悩んでいて、大混乱な状態だった。これはもう自分で抱え込むことができないと思った時に、1人の友人にカミングアウトした。なぜその人にカミングアウトをできたかというと、その友達もお父さんを亡くしたという経験があることから、自分の痛みや悲しみに共感してくれたり、理解してくれるかなと。当時はLINEがなかったので長文のメールを送って、友人から返ってきたのは、『あなたはあなただよ』という言葉。それがあったから今があると思う。世の中にはいろんな人がいるよね、相手の違いも含めて大事だよねと、日々の言動から見られるところがあったと思う」と語る。
カミングアウトする必要がある場面はどういった時なのか。越智氏は「そもそもカミングアウトは本人の意思のものなので、決して強制されるものではない」とした上で、「本人がしたいと思った時に、安心に安全にできる環境があることが大事だと思っている。タイミングは私の中では2つあると思っていて、1つ目は目の前にいる相手ともっと信頼関係を築きたい、もっと自分らしくあなたの前でいたいという時。2つ目は命や生活に関わる時。最近の私の例だと、パートナーが夜に高熱を出してしまって、救急車を呼んでパートナーについて話さないといけない時にカミングアウトするというような、命や生活に関わる時は出てくると思う」とした。
カミングアウトと周囲の反応について、LGBTを支援する一般社団法人fair代表理事の松岡宗嗣氏は「信頼している証なので肯定的に受け止めてあげる」「何かに困っていて話してきたのであれば、悩みを聞いてあげる」「第三者へのアウティングはしない、本人に確認すること」を訴える。
最後に越智氏は「今日は当事者として話をさせてもらったが、改めて考えた時に、バイセクシュアルというセクシュアリティは私自身を構成するいろんな要素のひとつでしかないと思っている。LGBTについていろんな学びや気づきがある中で、コミュニケーションをとるのが難しい、どこまで配慮したらいいのかという難しさ、ハードルの高さを感じたと思うが、やはり目の前にいる人はLGBTであろうがなかろうが1人の人であるというところをぜひ知ってもらいたい。その人ときちんと対話を重ねるという部分を大切にしてもらえれば嬉しいと思っている」と語った。
(ABEMA/『ABEMA Prime』より)
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