長期的ビジョンどう描く? “各論メイン”の所信表明演説に見た“菅に菅なし” 元内閣官房副長官・松井孝治氏
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 きのう召集された臨時国会で菅総理が初めて行った所信表明演説。

 およそ25分にわたり政策を淡々と述べ、「“国民のために働く内閣”として改革を実現し、新しい時代を作り上げていく。ご清聴ありがとうございました」と締めくくったその内容について、総裁選を戦った自民党の石破茂元幹事長は「抽象論ではなく、具体論を語るという感じが非常に強かった。それが菅総理のカラーだと思う」とコメント。

・【映像】解説する松井孝治氏

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 一方、野党からは「元気がないことにまず驚いた。それから、自らの言葉で語りかけることはなく、誰かの政策集を読み上げているような所信表明だ」(立憲民主党の福山哲郎幹事長)、「学術会議の“が”の字もない。驚いた」(共産党の志位和夫委員長)といった苦言も。

■印象に残った“簡潔さ”、「巧言令色鮮矣仁」

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 元通産官僚で参議院議員、官房副長官も務めた松井孝治・慶應義塾大学教授は、鳩山元総理の所信表明演説の際(2009年)にはスピーチライターを務めた経験を持つ。鳩山総理の演説は約52分(約1万2800字)と、菅総理(約25分・約7000字)を大きく上回る。

 「私は役人時代にもスピーチライティングをしていたが、通常は1週間くらいで骨格を作る。ただ、その後の各省との調整が大変だ。"これを入れてくれ”とか“そんなことを言われたら困る”と言われる。国会演説はここに手間がかかる。鳩山元総理の所信表明演説は10月に行われたが、7月の衆院解散から8月末までの選挙戦まで、鳩山さんに何を喋ってもらうのか、街頭での出来事をどう演説に入れ込むか、私はずっと仕込んでいた。レトリックは劇作家の平田オリザさんにアドバイスを求めた。選挙戦の最中、不幸なご事情があるおばあちゃんが握手をした鳩山さんの手を離してくれなかったということがあった。そのような印象深い話を入れるというスタイルを取った」。

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 そんな松井氏は過去の演説との比較し、「第2次安倍政権発足時の最初の演説などは“病気を克服した”という話から入ったし、私が書いた鳩山元総理の演説は“自分は何者で、何を成し遂げたいのか”という話や理念を基本に、議員、そしてその後ろにいる国民に語りかけるものを理想にした。私も書いてくれと言われれば、冒頭か結びには秋田から上京して苦労したエピソードや、それを自分の政治にどう活かすかという話を書きたくなると思う。しかし言葉はあっても、その言葉で倒れてしまうということも多い。菅総理は官房長官として安倍前総理のスピーチを見る中で、自分はあえてそういうスタイルは取らないと考えていたのかもしれない。僕が作ろうとしてきた演説とは対照的だし、選挙などを意識して国民を唸らせるような台詞があった方がいいとも思うが。これはこれで潔い。人柄だと思う」とコメント。

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 また、菅総理の演説の“簡潔さ”に注目、「論語」の「巧言令色鮮矣仁」を引いて、「字数や長さで言えば標準的だったが、文章として見たときの印象が非常に簡潔で、“実務的”だ。巧言令色鮮し仁(こうげんれいしょくすくなしじん)というのは巧みな言葉、あるいは飾った言葉には仁が少ないという意味で、政治家は生い立ちや理念、国家・社会論、リーダー論みたいなものを語りたがるが、菅総理には何をやるのかを簡潔に伝え、実行できれば成功だし、できなければダメ、それをやるのが自分だ、という“割り切り”を感じる。“秋田で生まれて、苦労して横浜の地縁・血縁のないところで政治活動をゼロから始めた”という話にしても、ふるさと納税や地方創生の“枕”として据えているのが新鮮だ」と話した。

■苦手な長期的ビジョンを誰が描いていくのか

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 こうした菅総理の言動については、各論ばかりで理念や総論が見えにくいという見方もある。

 その政治思想について松井氏は「はっきり言って、竹中平蔵さん的だ」と表現。「安倍さんには“戦後レジームの脱却”という理念論もあった。例えば2030年、2040年の日本はどうあるべきか。外国の人たちをどうやって迎えていくのかとか、少子高齢化の中で福祉のしんどい部分の負担をいかに分かち合っていくのか。そういう話もして欲しい。しかし菅さんはそうではなく、とにかくアーリー、スモール、サクセス。安倍さんがやってきた、ある種の“落穂”かもしれないが、この3カ月、この半年、この1年で、自分ができることを、どう勝ち取るかということをやる」。

 さらに「“菅に菅なし”、ということだ」として、「“安倍一強”と言われていた安倍さんだが、実は人柄が良く、“困るよなこいつ”などと言いながらも、官僚を飛ばすということはあまりしなかった。その安倍さんには、官僚に対して睨みを利かせる、参謀型、あるいは番頭型の菅さんがいた。その役割を総理が担いすぎてしまうと、怖い感じがしてしまう。そこは総理の下の人が泥を被ってやる仕事だ。まだ1カ月ではあるが、大風呂敷を広げるのではなく、はんこのような小さい成果でもいいから具体的な政策を仕上げていけば、“やるじゃないか”と国民の支持率も下がらずに選挙に突入できるかもしれない。そういう戦略・戦術に出ているのではないか。ただ、来年“もう1期”となった場合、苦手な長期的ビジョンを誰が描いていくのかが課題になると思う」との見方を示した。(ABEMA/『ABEMA Prime』より)

松井孝治氏と所信表明を分析
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