韓国で今年6月、殺人や性犯罪の犯人に関する名前や住所、携帯番号などを晒す“私刑サイト”、「デジタル刑務所」が登場、波紋を広げている。
立ち上げられたきっかけとなったのが「n番部屋事件」だ。女性を脅して撮影したわいせつな映像などが「Telegram」のチャットルームを通じて数十万人に共有された事件で、「デジタル刑務所」の管理者の親戚も被害に遭ったという。
管理者は事件を報じたメディアの記者に一斉にメールを送ったり、SNS上で提供を求めるなどして情報を収集。実に7割の情報がそのようにして集まったものだといい合わせて約150人分の情報が掲載されてきた。
そんな「デジタル刑務所」だが、中にはデマも掲載されていたという。ある医大教授の男性は、「n番部屋」でわいせつな写真を購入したという事実無根の情報を書き込まれ、“死ぬ準備をしろ!お願いだから死んでくれ!”など、1日に100通以上誹謗中傷のメールを受け取ることになってしまった。また、ある大学に通う男子学生も、虚偽の情報が書き込まれたことを苦に自殺した。
キム・ドユンさんも、「デジタル刑務所」被害に遭った一人だ。
キムさんは、2004年に起きた中学生の姉妹が男子高校生44人から性的暴力を受け、金品まで奪われるという悲惨な事件の犯人と同姓同名だったこと、年齢や住まいが近かったことから、無実であるにも関わらず個人情報が晒されることになった。「“性犯罪者”“性暴行犯”という罵声の書き込みが300件以上寄せられた」。自身の情報を削除するよう求めると、管理者は誤りを認め謝罪。情報も削除されたという。
後に管理者は逮捕され、サイトにもアクセスできない状態が続いているが、キムさんへの誹謗中傷は今も続いている。
さらに「犯罪者に対する寛大な処罰に限界を感じ、犯罪者の個人情報を公開して社会的審判を受けさせる」という理念に共感し、「現在の裁判所よりはいい仕事をしている。一度のミスのために存在意義を否定してはならない」「同姓同名の被害者には謝罪と損害賠償をして、今後も確認を徹底しつつ続けてほしい」と、「デジタル刑務所」を支持するネットユーザーもいるようだ。
こうした問題は、他国だけに限った話ではない。日本でも今年5月、新型コロナウイルスに感染した女性の名前や顔写真、さらには全く無関係の飲食店の情報が「勤務先」だとして晒されたことがあった。フリージャーナリストの渋井哲也氏は「まず、どこの誰なのか顔を見てみたい、場合によっては親の顔を見てみたいといった欲求から、自然に名前、顔写真、勤務と発展していく。しかも、それらの情報を載せることでページビューが増える。そうすると、自分のやったことが支持されたという考える人もいるということだと思う」と話す。
また、2011年に滋賀県大津市で起きた男子中学生のいじめ自殺事件では、加害者への“社会的制裁”だとして、自宅の写真が晒された。このとき自宅写真を投稿した女性に取材したという渋井氏は「社会的制裁を加えたいということで個人を特定し、これが自宅だろうということで確認もせず写真を載せたということだった。ただ、本人には“正義感”があり、情報が間違っていれば自分も制裁を受けることになるけれども、それ以上に加害生徒に対しては誰かが制裁を加えなければならない、という気持ちだったようだ」と明かした。
「韓国では実名などをサイトに登録させるようにしたが、それでも誹謗中傷がやまなかったという経緯がある。日本でも誹謗中傷に関して個人情報の発信者請求を迅速にするという議論や表現の自由についての議論が始まっているが、それらを当事者たちも含めてするオープンに議論するベースが必要ではないか」。
ジャーナリストの佐々木俊尚氏は「福島第一原発事故後に『御用学者wiki』というのができて、客観的に情報を発信している専門家に対する誹謗中傷が飛んだ。学者ではないのに僕もリストに入れられた。これも悪いと思ってやっているというよりは、正義感からだ。また、自分たちは東電や経産省などの権力にひどい目に遭わされている弱者であるというな意識もあると思う。そうなってくると、ネットのマナーや道徳、倫理的といった観点から説得するのは非常に困難だ。名誉毀損になるようなものであれば法的な対処も可能だが、表現の自由との兼ね合いもあり、現実的にはなかなか答えが出ていない」と指摘する。
「また、デマだからいけない、というだけではなく、逆に本人だったらいいのかどうかという議論もある。例えば性犯罪者の情報については、ある程度の情報が共有されていてもいいんじゃないかという意見もある。さらに言えば、こういうことはネットが出てくる前から雑誌やワイドショーがさんざんやってきたことでもある。品格ある文芸誌で知られた新潮社で“写真週刊誌の草分け”と言われる『FOCUS』を創刊した名物編集者・斎藤十一は、会議で“人殺しの顔を見たくないのか”と言ったそうだ。それが人間の本質だ。むしろ社会全体の“野次馬根性”をどう抑え込むのかという問題にも繋がってくる。ネットにはアーカイブやコピーが残り続けるという特徴がある。少年犯罪の加害者の名前なども含め、簡単に情報を放り込んではいけないということもきちんと認識すべきだ」。(ABEMA/『ABEMA Prime』より)
この記事の画像一覧■Pick Up
・キー局全落ち!“下剋上“西澤由夏アナの「意外すぎる人生」
・「ABEMA NEWSチャンネル」がアジアで評価された理由
・「ABEMA NEWSチャンネル」知られざる番組制作の舞台裏