世界中が“バイデン政権”に向けて動き出す中、注目されるのがトランプ氏の「敗北宣言」。124年前から続くアメリカの民主主義の慣習だが、トランプ氏が敗北宣言をしなければ途切れることになる。
頑なに敗北を認めないトランプ氏は、選挙の結果に異議を唱える法廷闘争への支持を集めるため、各地で集会を開く方針だという。敗北宣言はいつになるのか、そもそもするのか。まったく先が読めない。
大統領選で負けた側は、勝者に祝意を伝え敗北宣言を行うのが通例だ。
1960年の大統領選で接戦の末、民主党のケネディ上院議員に敗れた共和党のニクソン氏。「このままで推移すれば次の大統領になるのはケネディ氏だろう。彼が大統領になったら、私は全面的に支持する」。
1992年、現職の大統領としてクリントン氏に敗北した共和党のジョージ・H・W・ブッシュ元大統領。「民意は示された。我々は民主主義の制度を尊重する」「総力をあげてクリントン氏のチームと緊密に連携し、円滑な権力の移行を約束する」。
2008年、前大統領のオバマ氏に敗れた共和党のマケイン氏。党派を超え、団結を訴えたスピーチは名演説と呼ばれた。「先ほどオバマ上院議員に連絡をして、祝意を…」と話したところでオバマ氏へのブーイングが起こったが、それを静止。「私を応援してくれた国民にも、オバマ氏を祝福するだけでなく、次期大統領に善意を持って接し、折り合いと妥協点を見出し、違いを乗り越え、緊迫した時代の中でも繁栄と安全を回復し、より良い国を次世代に残せるよう呼びかけたい」。
そして2016年、優勢と言われながらもトランプ大統領に敗れた、民主党のヒラリー・クリントン氏の敗北宣言は印象的なものだった。初の女性大統領誕生へ挑戦を続けたクリントン氏は、女性の社会進出を阻む壁を「ガラスの天井」と表現。「私たちはいまだあの最も高く最も厚い『ガラスの天井』を打ち破ることができていません」と悔しさをにじませたが、「結果を受け入れ、未来を見据えなければならない。ドナルド・トランプ氏が我々の大統領になるのです。我々はオープンな心で、彼に(この国を)牽引するチャンスを与えなくてはならない」。
トランプ大統領が「バイデン氏にアメリカをけん引するチャンスを」と、自らの口で語る日は来るのか。BuzzFeed Japan News副編集長の神庭亮介氏は「敗北宣言はしないと思う。トランプさんがマケインさんのように『違いがあっても、私たちは皆アメリカ人だ』と言い出したら、みんな『嘘つけ』と思うはず。120年続いた伝統なので残念に思う人もいるだろうが、ここで慣例を断ち切ることで、最後の最後まで規格外な大統領であり続けるのではないか」との見方を示す。
トランプ氏が敗北宣言をしないことへの批判については、「マケインさんやヒラリーさんのスピーチは名演説で、私もとても感動した。一方で、リベラル陣営が『みんな潔く負けを認めてきたじゃないか。それに引き替えトランプは…』と上から目線で批判するのには違和感も覚える。過去の敗北宣言を“説教の道具”にして、潔さを押し付けるようなやり方は、かえって分断を助長するのでは」と指摘した。
また、トランプ大統領について「非常に問題の多い人物だが、アメリカ社会が抱える根深い分断の存在をあらわにしたことは、ある意味でひとつの功績。ラストベルトと呼ばれる寂れた工業地帯に暮らす不遇な人々の支持を得て、ドブ板選挙で声なき声をすくい上げた」と指摘。「今回の大統領選が終わったからといって、その分断が魔法のように消えてなくなるわけではない。トランプさんは7千万以上の大量の票を獲得した。バイデンさんは『分断ではなく結束を』と訴えているが、間違ってもそれが分断に対して見て見ぬふりをするようなことになってはいけない。トランプさんが残した宿題である“分断は確かにある”という現実をしっかりと見据え、課題を解決していくことが大切だ」とした。
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