「分断ではなく、団結させる大統領になることを誓います。青でも赤でもない、United Statesの大統領です」。アメリカの大統領選挙で勝利が確実になったことを受け、そう演説で語った民主党のバイデン氏。
・【映像】民主党支持者のパックン「素直に喜べない」発言が波紋..."分断"を生んでいるのはリベラル層?
そんな中、テレビ番組で「うれしいけど、何か複雑。トランプ氏に投票したアメリカ人が7000万人以上もいるのにガッカリ。素直に喜べない」と発言したのが、トランプ大統領を批判する一方、バイデン支持を公言してきたタレントのパックンだ。これに対し、元大阪府知事の橋下徹氏は「このようなリベラル派の考え方がアメリカを分断させる要因だ。なぜトランプが支持されているのか。支持者をバカにせずに真剣に考えるべき」とツイート、論争が起きている。
そこで10日の『ABEMA Prime』ではパックン本人、そして「分断が一層深刻化することはあっても、これが癒えることはまず無い」と主張するnoteが話題を呼んでいる畠山勝太氏(ミシガン州立大学教育大学院博士課程)を招き、この問題について議論した。
■「僕の弟がいけないのは、FOXニュースを見ていること」
パックン:まず、僕はトランプに投票した7100万人のことをバカにしているわけでも、見下しているわけでもない。そういうことをしているのは大統領自身だ。
ワシントン・ポストによれば、大統領は日に50回以上も嘘をついているという。それでも票を入れるということは、大統領は嘘をついてもいいと言っているようなものではないか。あるいは敵国と仲良くし、同盟国を突き放すという外交をやっている。自分の疑惑を調べている捜査官をクビにした。ただ家族というだけで重要なポストに知識も経験もない身内の人を起用する縁故主義。自社に公金を回すような、横領のようなことをやっている。そういうことをしてもいいということで7100万票が集まったと聞けば、ガッカリして当然だと思う。これは民主党支持者なら誰でも同じだと思う。
畠山:パックンさんの思いはよく理解できるし、トランプ大統領には様々な問題もある。ただ、アメリカにはものすごい格差があるし、私が学んでいる大学院にいる黒人女性や指導教官であるインド人女性が最初に指摘したのも、貧困問題だった。そういうところに言及せず、いきなり外交や縁故主義の問題を指摘するあたりが、典型的な民主党支持者の白人男性だと思った。それはパックンさんが悪いというではなく、やはり特権を持っているので問題に気付きづらく、“それは大した問題じゃない、他の人もそう思うだろう”と押し付けがちな傾向があるということだ。
パックン:弟とは口もきかない状態になっている(笑)。彼はワイオミング州で警察官をしているが、いけないのはFOXニュースを見ていることだ。
就任前のトランプ大統領が政界で力を増していた時期、“オバマ大統領はケニア人だ”という嘘を繰り返し、それをFOXニュースは毎日のように取り上げた。あるいは“Death Panel=死の委員会”と揶揄したり、温暖化を嘘だと言ったり、ファクトを共有しない。それでも弟がFOXニュースを見るのは、田舎の伝統的な家庭で暮らし、同性愛者ではなくて異性愛者である本音の気持ちに近いから。それらを全て肯定してくれるFOXニュースは、見ていて間違いなく気持ちがいい。だから僕が“温暖化対策はどうするの?”と聞くと、弟は“温暖化なんか嘘だ”と言う。それでケンカになってしまう。
畠山:私も、あまりにも質が低いしフェイクニュースが多すぎるので、FOXニュースは見ない(笑)。ただ、パックンさんの弟さんの話で重要で、注目しなければいけないと思うのは、なぜFOXニュースを見るようになったのか、ということだと思う。BLM運動ですごく燃え上がっている警察官というバックグラウンドも大きいと思う。そうした部分をスルーして“FOXニュースを見ているから悪い”と言ってしまっていると、共和党支持者を理解するのは難しいのではないか。
■「分断の原因は“リベラル”の側にあった」
佐々木俊尚氏(ジャーナリスト):7100万人全員が陰謀論やトランプ大統領の嘘を信じて投票したわけではないはずだ。また、この分断を招いたのはトランプだと言う人も多いが、少なくとも分断を助長させた人ではあっても、根本の原因はもっと別のところ、つまり90年代以降、“リベラル”といわれる側にあったと思う。
経済的な格差が拡大する中、リベラル派が多文化主義やマイノリティなどの問題に入れ込みすぎて、ラストベルトと呼ばれる地域に住む白人労働者層を包摂しなくなっていってしまった。そこにトランプが出てきて、“俺が支えるぞ”と言ったから、みんなが乗った。いわば民主党やリベラル派に対する失望、絶望から来るトランプ支持だったのだと思う。僕もトランプ大統領はひどい大統領だったと思うが、それを支持せざるを得なかった、繁栄から置いてきぼりにされた人たちのことを看過して、“トランプはけしからん。FOXニュースは嘘ばかり”と上から目線で言っていても、問題は何も解決しないんじゃないか。
パックン:選挙に勝とうとする中で民主党が犯した政策上のミスも間違いなくあるし、僕ががっかりしているのは、政策討論ではなく、人格がどうのこうのということになっていたからだ。ただ、誰が労働者階級のための政策を考えているかといえば、それはお金持ち優遇策を推している共和党ではないと思う。皆保険など福祉の強化、労働組合を守ろうとしているのは民主党だ。
畠山:私は教育政策の分野しか分からないが、民主党、オバマ政権はそこでも失敗をし続けていたと思う。ここでもラストベルトや南部の白人を置いてきぼりにされた。
アメリカの制度は分権的なので、教育政策において最も重要な役割を担うのは州政府だが、リーマンショックで財政が厳しい状況にある中、オバマ政権は補助金をちらつかせて連邦政府がやりたい教育政策をやらせた。しかしオバマ大統領も、例えばシカゴのダンカン教育長官も州知事の経験が無く、ネットワークも理解もないために、大きな反発を生んだ。結局、政権7年目に撤退せざるを得なくなり、退任直前に“連邦政府は州政府に対して教育政策であれやこれや言いません”と言ってしまう結果になった。バイデン氏も州知事の経験がないので、これから同じ失敗を繰り返す可能性もあると思う。
また、アメリカでは学区制が導入されていて、その区域の中での固定資産税が教育予算になる。だから豊かな地域と貧しい地域では教育予算が大きく異っていて、例えばミシガン州内でも地域によって教師の給与に3倍ぐらいの差が生じてしまっている。しかしリベラル派は厳しい家庭の子どもの教育のために固定資産税を払おうとするか、あるいは荒れた子どもたちを自分の子どもと同じ教室に受け入れるかといえば、そうではない。口では貧困対策は大事だと言っていても、追加的な予算配分はオバマ政権下では増えなかったし、問題の背景にある学区制の解体には向かわなかった。
■「“リベラル”と呼ばれるものがリベラルではなくなっている」
畠山氏は、さらにアメリカの“リベラル派”の問題点について指摘する。
畠山:名門私立大学などを見れば、学生たちはすごく勤勉だ。それは彼らの親の平均年収が高く、そういう特権を受けるに値するという教育を受けているからだ。その裏返しが“勤勉じゃないやつはダメだ”という発想だ。
ワシントンD.C.に4年住んでいたが、自分たちと同じような職場で働ける勤勉な黒人やマイノリティは特権に値するから差別するのはおかしいと考える人たちが多かった。一方で、ワシントンD.C.は治安が悪い。それは黒人が集中している非常に貧しい地域があるからだが、“そこにいる黒人たちは勤勉じゃないから”として完全にスルーしていた。なぜ勤勉になれなかったのかといえば、保険制度にあずかれず、まともな教育も受けられてこなかったからだ。頑張るための土台を作れなかったのに、いま頑張れていないからという理由で切り捨ててしまうのはひどいんじゃないかと感じた。
パックン:それは僕が知っているリベラルの考え方ではない。リベラルは教育の機会をみんなに与えよう、公立学校を強化しようとしているし、万が一、そこからこぼれ落ちてしまった時にキャッチし、支えてくれるセーフティネットの強化しようとしてきた。どちらかというとリベラルは貧困層を救おうとしてきたし、オバマ政権も、最初の2年はリーマンショックの対応に追われたが、残り6年はオバマケアを通そうと努力した。しかし上院を握っている共和党が法案を通してくれなかった。だからオバマ政権でできなかったのは、オバマがやろうとしなかったからではない。
むしろ資産の再分配に徹底的に抵抗するのは共和党だ。トランプ大統領の娘婿・クシュナー氏が“頑張らない人のために僕らは頑張れない”と言って、自らの力で上昇することができない黒人に対して厳しい発言をしていたし、それが共和党の考え方だ。
佐々木:本来的な意味でのリベラルはそういうスタンスのはずだが、今はアメリカでも日本でも、“リベラル”と呼ばれるものがリベラルではなくなっていると感じている。
例えばメリトクラシーの問題だ。要するに、アメリカンドリームというものがあるんだ、だから勉強させましょう、頑張ればチャンスを与えよう、というもので、共和党も民主党も同じようなことを言っている。確かにチャンスを与えることは大切だ。しかし、そもそも勉強できるような家庭環境ではなかったり、本を読むような環境がなかったりと、意欲さえも持てずに貧困から伸びることができない子どももいっぱいいる。大人だって、“頑張ればできる”と言われても、“今さら俺は頑張れないよ”という人たちがいるはずだ。そういう人たちにも目を配り、ちゃんと包摂するのがリベラルのはずだ。
それはオバマが、トランプが、という話ではなく、90年代以降の欧米が抱えている問題だ。これを解決しない限り、民主党か共和党か、トランプか反トランプかという議論では済まないと思う。(ABEMA/『ABEMA Prime』より)
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