「個人でキャリアを作らなければいけないというメッセージ」 電通の“個人事業主化”にみる、人生100年時代の働き方
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 「個々人で『これまでとは全く別分野だがずっとやりたかったこと』や『なかなか踏み出せなかった新しい事業』などに取り組むことができる」

 広告代理店大手の電通が発表した、新たな働き方。希望した正社員を個人事業主に切り替え、新たに設立する会社と業務委託契約を結ぶというもの。対象は40歳以上で契約は10年。報酬は固定給+成果報酬で、段階的に成果報酬の比率が増えていくというシステムだ。個人の裁量で複数の部署、グループ内企業との業務契約も可能ということで、現在230人が応募。来年1月から個人事業主に切り替えられるという。

【映像】電通の新たな働き方とは

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 これを受け、インターネット上では「広い意味でリストラなのでは?」「残業し放題になるよ」といった否定の声が数多くあがっているが、実際はどうなのか。

 電通よりも一足先に社員の個人事業主化を取り入れた企業がある。社員食堂の健康メニューなどで知られる健康機器メーカー「タニタ」だ。電通と同じく、希望した正社員が一度退職して個人事業主としてタニタから業務委託を受けるという制度で、2017年に始まった。現在、24人が個人事業主として働いているという。

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 実際に個人事業主になったタニタ元社員からは「収入はかなり増えたが、その分住民税と国民健康保険料の負担がかなり多くなったのは驚きだった」と、会社員時代との違いに驚いたという声。個人事業主になると、社会保険の会社負担分、年金、退職金、福利厚生費などがなくなり、新たに国民年金、健康保険に加入し、所得税や住民税などを自分で処理・申告することになる。

 その一方で、「仕事の幅が広がった」という声も。「首を切られるんじゃないかという不安はあったが、逆にスキルさえ身につければいいという考えもあった」「新しいことを始めたい、自分の成果をきちんと評価してもらいたい人にはお勧めしたい」「仕事や時間は自分の裁量に任される分、社員時代には会わなかった人にも積極的に会い、人脈を広げている」といった声がタニタ元社員からは出ている。

 “人生100年時代”と言われる今、こうした取り組みは働き方の指針となるのか。13日の『ABEMA Prime』では、そのメリット・デメリットについて考えた。

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 電通の取り組みについて、退職研究家の佐野創太氏は「退職を研究している立場と個人事業主として、総論賛成、各論はこのままで本当にいいのかと思う。個人事業主のいい所に光を当て過ぎではないか」と指摘。“闇”の部分について、「個人事業主はいつでも切られる。3、4社の複数のお客さんを持っていて、半年~1年くらい続く見込みのある個人事業主はいい部分を享受できるが、そうではない単発の請負しかやっていない個人事業主はものすごく多い。そういった方からすると、個人事業主は全然いいところばかりではないと言いたいと思う」と話す。

 一方、「50歳がちょうど折り返し地点。社内での活躍の場も失われていく」「40代から学び直し、あるいは新規事業の準備期間を設けることで50代、60代以降も自分の力で活躍していけるようにする」とする電通の説明について、2ちゃんねる創設者のひろゆき(西村博之)氏は反論。「要するに50歳以上を切りたいというのに言い方を変えているだけだ。40歳くらいで希望があると誤解しているうちに会社から切り離して、50歳になったら『仕事がないからお疲れ』と言うために、40歳から10年だけ確保としている。言い方がきれいなだけで、やっていることはひどいなとしか思えない」と持論を展開する。

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 今回の制度では、優秀な人ほど契約を結ぶのか。佐野氏は「上から順に挑戦していくのかなと思う」とした上で、「ひろゆきさんが仰ったように、“リストラ策なんじゃないか”というのは、会社に本音を言われなくても個人は知っておかないといけない。終身雇用や定年退職を保障したくないというより、できない状態になっていることを知った上で、個人はキャリアを作っていかないといけなくなった。そういうメッセージを電通が出してくれたと思うしかない」と説明した。

 電通の取り組みを経営者はどう思うのか。リディラバ代表の安部敏樹氏は「50代以上で生産性が上がってない人たちを抱え続けるほど体力がある会社はそんなに多くない。その人たちを切るには準備も時間も必要で、学び直しをしていかないと不幸なことになる。手前で“今からちゃんと色んなスキルをつけておいて”とメッセージを出して、会社と一緒に60~70歳までパートナーシップを結んでいけるかもしれないし、そうではない時は外に出ていくオプションもあるよ、と。電通の各論の仕組みは悪くはないと思うが、電通ほど給料を払えない会社の場合、さらに低い給料をベースにしてやっていくということが想像される。その先には悲劇が待っている」との見方を示す。

 ウツワ代表のハヤカワ五味氏は「経営者の視点から見ると、気楽な感じでいいなと。社員として雇っている以上、会社都合で辞めさせるというのはなかなか難しい。正直“この人違うな”“こうなってほしいな”と思っても、結局人間は自分に変わる気がないと変化しないので、上から言ったところで変わらない。そういった部分で、一定の距離感を取れたり選択肢を取れるように持っていくのはうまいと思う。ただ、独立したい人やできる人は30代で独立している。自分が会社員というルートを選んでいて、40代で私がその立場だったら、このままぶら下がりたいという気持ちは正直ある」と話した。

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 ここまでの議論を受けて、お笑いコンビ・NON STYLE井上裕介は「50代60代のお荷物感はそんなにあるものなのか。僕はお笑いしか知らないが、50代60代ばかりだ。めちゃくちゃパワーあるし、ない時間を見つけていろいろなことを学んでいるし、先輩方が僕らよりも新しいことをやろうとしている」と疑問を口にする。

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 佐野氏は「お笑い芸人のような一芸に秀でた人たちは、経験年数と給料が比例するところがある。しかし、例えば日本の雇用で多い営業職やマネジメント職、管理職は、20代30代から見ると“何をやっているのか分からない”仕事でもある。営業で、自分はテレアポを頑張っているのに上司や管理職は特に何もしないで時々指示をする、となってくると、10~20年後に自分がそのポジションになった時に何なんだろうと疑問に思ってしまって、20代後半から30代前半が転職市場に出てくるということが起きている」と答えた。

 安倍氏もそういった意識を問題視し、「専門職と総合職で、なんとなく総合職が偉いという人事体系を高度経済成長期に作ってしまったと思っている。例えばエンジニアでも“35歳限界説”などが昔から言われているが、その上限は上がってきているし、ちゃんとスキルを磨いている人は仕事ができる。そういう意味で、“なんとなくマネジメントにいかないといけない”という考えが不幸にしている気がする。マネジメントが苦手な20代が、50歳になってうまくなることはあまりないので、20代のうまい人が50歳の専門職を使えばいい。専門職には専門職の価値があり、給与にしても会社により必要かどうかでしかない。マネジメントより専門職の方が給与が高いということはどんどん起きてくると思う。“なんとなくマネジメントが偉い”“上にいったらそういうものだ”という感覚をいかに払拭できるか」と述べた。

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 こうした中、視聴者から「独立してもやっていける」という声が寄せられたテレビ朝日平石直之アナウンサーは「私は今組織でしかできないことにやりがいを感じている。先々どうなるかはわからないが、組織を生かして仕事をするのはありだととても思っている。ただ、ぶら下がっているだけでは生きていけないという危機感はある」と話す。

 これに安倍氏は「シニアに近づいている人のマネジメントやその人たちの先の人生をどうよくしていくかという相談を企業から受ける。平石さんが40代でそう思うのと同じように、50代の人たちはもっと感じている。『俺らは会社に中ぶらりん?』『若い人や経営からコソコソ言われている?』『かといって特にやりたいこともない』と。まずやるべきことは、やりたいことを見つけていくプロセスだと思う」と指摘。

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 平石アナも賛同し、「だからこそ、会社に縛り付けすぎてはいけない。副業をOKにするなど自由にやらせてあげる部分がないと、よりしがみついてしまう。そういう意味では、選択肢が増えてきていい傾向が出てきているのでは」と述べた。

 佐野氏が提唱しているのが、65歳以降は“セルフ終身雇用”を目指せという考え方だ。「個人事業主で残っていける人は、1社に依存せずに3社4社と安定的に持っている。会社がくれたような終身雇用を自分で作っている人は生き残っていけている」とした。

ABEMA/『ABEMA Prime』より)

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