11月27日の後楽園ホール大会で行われたKrushフェザー級王座決定トーナメントは、大方の予想を覆す結果となった。
準決勝を前に注目されたのは、弟の将史とともに兄弟王者を目指す玖村修平、デビュー以来5戦全勝の岡嶋形徒。しかし岡嶋は森坂陸に、玖村は新美貴士に敗れる波乱の展開となった。意外な決勝の組み合わせ。しかし森坂は抜群の距離感から放つバックブロー、新美は休むことなく繰り出す接近戦でのラッシュと持ち味を出して勝利しており、決して“まぐれ”ではなかった。
距離がポイントとなる決勝戦。新美はここでもひたすら前進、パンチを連打していく。森坂も試合が進むにつれて自分の距離を作り、パンチに加えハイキックを繰り出して本戦の判定はドロー。そして延長戦、互角の攻防の中で、ここでも新美がラッシュ。気力、体力を使い果たすような闘いの末に、新美が新王者となった。
新美のファイトスタイルは、器用なものとは言えないだろう。「自分はそんなに技術がないので。距離を取ったりとかして闘うのが難しい。だから近い距離で当たる攻撃を出すしかないんです」と本人も語っている。
だが、そういうスタイルだからこそ勝負にかける思い、いわば“魂”のようなものが伝わってくる。気力、体力の削り合いのような“しんどい”決勝は、タイトルを争うにふさわしいものだった。
「しんどくても勝てればいいので」
試合後にインタビューすると、新美はそう語った。接近戦の中で出せる技をすべて出し、その上で勝因はといえば「最後は気持ち」だった。
「最近はしっかり気持ちを出して練習ができてました。“限界突破”ですね。辛い時でも休まない。出し切る。それが結果につながったのかなと」
もちろんこのベルトがゴールではない。
「組まれた相手と誰でも闘うし、上の選手に勝っていきたい。K-1のベルトも狙ってます。家族に楽をさせてあげたい」
地元の愛知では妻と1歳4ヶ月の娘が勝利報告を待っていた。新美は格闘技中心の生活を送るためアルバイトで生計を立てている。
「妻には感謝しかないです。金銭的にも迷惑をかけてきましたから。まだまだ稼がないと」
試合前には、妻から手紙をもらったそうだ。
「いつも頑張っていて凄いよ、みたいなことが書いてありましたね」
家族の力で勝てた。そう言い切ってしまえるほど格闘技は簡単な世界ではないだろう。ただ新美にはどうしても勝ちたい切実な理由があった。
「毎回、負けたら次はないと思ってやってます」
いわゆる“若きスター候補”にあげられる選手ではなかった。しかしいざトーナメントに出てみればこの結果。チャンピオンとしての今後に期待したくなる選手として、間違いなく光を放った。結果を出せば人生が変わる。それが格闘技だ。
文/橋本宗洋