予想以上の“完勝”と言ってよかった。11月27日のKrush・後楽園ホール大会。女子アトム級王座をかけたトーナメントの決勝戦は、菅原美優が判定でMOEを下し、第3代王者となった。キャリア6戦目での戴冠だ。
接近戦でパンチ勝負をしたいMOEに対し、菅原は手足の長さを活かし、離れた距離で試合を展開していく。攻撃の軸は前蹴り。これが何度となく決まった。試合後のMOEは「めっちゃ、やりにくかったです。序盤の前蹴りが鬱陶しくて、それでペースを握られてしまった」。
試合後、菅原に話を聞くと「相手は前蹴り対策をしてくると思ってたんですけど」と意外そうに語った。想像以上に前蹴りが決まったのだ。それはもしかしたら、本人が思っているよりも蹴りのタイミング、精度が増していたということなのかもしれない。
蹴りだけでなく思い切ってパンチ勝負をする場面も目立った。パンチでも逃げないから、MOEにとっては余計にやりにくい。まして菅原はリーチがある。文句なしの判定勝利だった。ジムの先輩、憧れの存在であるK-1女子王者のKANAと抱き合う。「ベルトを巻いて一緒に写真を」という夢も叶った。
菅原は今年、学校を卒業して美容師として働き始めた。社会人一年生、しかもコロナ禍。慣れないことだらけの中で練習にもしっかり取り組み、自分のファイトスタイルを確立させた。7月のトーナメント1回戦から今回まで、はっきりと分かる成長も見せている。
「不思議な気持ちですね。夢見てたところに自分が立っていて」
父親の影響で、子供の頃から会場で格闘技を観戦していた。この王座決定戦には、ファン時代に買ったK-1 WORLD MAXのTシャツを着て入場した。
「お気に入りなんです。(ロゴの)十字架を背負ってリングに上がりたいなって」
プロキャリアは短くとも、K-1からつながるKrushへの思いは子供時代から。Tシャツもまた気合いの表れだった。もちろん、Krushのベルトをどんな選手が巻いてきたかもよく知っている。だから余計に「もっともっと強くならないと」と思う。
「私は見るからに超弱そうなので(笑)。誰が見てもカッコいいチャンピオンになりたいです」
ベルトに迷惑かけないように強くならないと、と言って笑顔も見せた。口調はフワッとしているが、菅原美優の“Krushファイター”としての芯はかなり強そうだ。
文/橋本宗洋