韓国の7人組アイドルグループ「BTS」が今年11月、アメリカの音楽界で最高の栄誉とされるグラミー賞の最優秀ポップ・パフォーマンス部門にK-POPアーティストとして初めてノミネートされた。
2013年に結成したBTSの人気は、アジアだけに留まらない。2018年に開催されたワールドツアーでは、米ロサンゼルスの会場周辺で、徹夜でテントを張って待つファンの姿も多く見受けられた。また、今年6月に行われたオンラインライブでは、世界100カ国以上で、一度に視聴したファンが75万人を超え、見事ギネス記録に認定された。
11月20日に発売された新曲「Life Goes On」も、韓国語曲で初めてアメリカシングルチャート(Billboard Hot 100)で初登場1位を記録。ARMY(アーミー)と呼ばれる熱狂的ファンが、グループの記念日等にお金を出し合い、街中を“スクリーンジャック”することもある。Twitterなどの公式SNSフォロワー数は驚異の約2億人だ。
世界的な活躍を続ける「BTS」について、韓国内では「国への貢献を考慮するべきだ」など、兵役免除を求める声が高まっていた。そんな中、12月1日、韓国の国会は「兵役法」の改正案を可決。これにより、大衆芸術の優秀者に限り、現在は28歳までとしている兵役の期限を30歳になる年の年末まで延期できるようになる。
韓国国内では「BTS法」とも呼ばれる、兵役法の改正案。これで現在28歳の最年長のメンバーも、再来年まで活動が可能となる見通しだが、一方でメンバーは「兵役は当然の義務」という姿勢を強調している。
ニュース番組「ABEMAヒルズ」コメンテーターでニューズウィーク日本版編集長の長岡義博氏は「韓国社会にとって兵役は重要な制度で、通過儀礼的な側面がある。それをやらずに済ませるというのは大きな政策転換」と語る。
今まで“兵役逃れ”には厳しい目が注がれていた韓国社会だが、なぜ「BTS」にこれほど兵役免除を求める声が上がっているのか。長岡氏は「BTS」の人気の背景について「韓国エンタメ輸出政策」「SNS時代のファンとの関係」「ビートルズとの共通点」の3つ視点を挙げる。
「韓国は国策としてエンタメの輸出に力を入れている。1997年のアジア通貨危機で韓国経済が大きなダメージを受け、当時の金大中大統領が韓国経済を盛り立てる一つの政策として、コンテンツ産業を輸出して外貨を獲得していく政策を始めた。それから『冬のソナタ』をはじめとした韓国ドラマ、東方神起などのK-POPグループに結実。今年の2月には韓国映画『パラサイト』がアメリカのアカデミー賞を受賞した。来年2月に本当にBTSがグラミー賞を取ると、1年間でアメリカの大きな賞を韓国コンテンツが2つ取ることになる。そうなれば偉業だ」
次に長岡氏は「BTSとファンの“ARMY”は対等」と分析。通常、アイドルとファンは「アイドルが上でファンが下」という構造になりがちだが、BTSは“ARMY”を対等な存在と認めているという。
「“ARMY”も自分たちがBTSを支える存在と自覚している。今年の6月、ブラック・ライヴズ・マター運動(※Black Lives Matter:アフリカ系アメリカ人に対する警察の残虐行為をきっかけに始まったアメリカの人種差別抗議運動)を支援するため、BTSは100万ドル(約1.1億円)を寄付すると表明した。すると、“ARMY”も『自分たちも同額を集めよう』とすぐ寄付活動を始めて、たった25時間で同額が集まった」
まさにソーシャル時代の新しいアイドルとファンの関係を作り出しているBTS。同グループについて、長岡氏は1960年代から1970年にかけて活動したイギリスのロックバンド「ビートルズ」との共通点も指摘する。
「BTSは7人の中で誰か一人がフロントマンとして目立っているのではなく、全員平等。ラップ担当や歌担当、ダンス担当に分業している。ビートルズもジョン・レノンとポール・マッカートニーという目立つ2人がいたが、リンゴ・スターとジョージ・ハリスンも存在感を持っていた。みんなで役割を分担して、グループとしてファンに訴えていくBTSの構成はビートルズに近い。また、BTSはサポート受けながらだが、セルフプロデュースで作曲、作詞をやっている。自分たちで作曲、作詞をすることでメッセージ性のある、アイドルが扱いにくいテーマの曲を作ることができる。メッセージ性も中・後期ビートルズとの共通点であり、BTSの特徴になっている」
(ABEMA/「ABEMAヒルズ」より)
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