「これは、まったくとんでもないことであり、いかなる根拠に基づいても正当化することはできない」
オーストラリアのモリソン首相が、中国外務省に謝罪を求めて激怒している。理由はTwitterに投稿された1枚の画像だ。オーストラリア軍の兵士が子羊を抱える子供にナイフを突きつけているように見えるこの投稿。投稿者は中国外務省、趙立堅報道官だ。
【映像】合成? 本物? 子羊を抱える子供とナイフを持った兵士
モリソン首相は「これは偽物の画像であり、我々の国防軍と100年以上、制服に身を包み奉仕してきた者に対するひどい中傷だ」と断言。画像は合成であるとして削除と謝罪を要求している。
しかし、中国外務省の華春瑩報道局長は「オーストラリアが中国に対して申し出を行うのは理不尽だ。オーストラリアがまず、アフガニスタン人に正式に謝罪すべきだ」と対立。オーストラリアでは11月19日、アフガニスタンに派遣された特殊部隊が捕虜や民間人39人を違法に殺害したとの調査結果が発表され、問題になっていた。
近年関係悪化が続いている中国とオーストラリア。先週から中国がオーストラリア産の輸入ワインに制裁を科すなど、状況が悪化している。
モリソン首相は「中国とオーストラリアの間に緊張が存在するのは疑いようがない。オーストラリアは大人の対応で責任を持って、こうした緊張関係に対応しようと辛抱強くつとめてきた。しかし、これ(中国側)は正しい対応ではない」と中国を批判。
オーストラリア政府の怒りを買うこととなった1枚の画像。この作者だという男性が、モリソン首相にメッセージを送った。
「モリソン氏には、現実に向き合い、このような国際的な惨事が二度と起こらないように、自国の業務に集中し、外国駐在の軍隊の規律をきちんと管理してほしい」
さらに画像の作者は、モリソン首相のコメントを受け、新たな風刺画を公開。血に染められたキャンパスの前に立つ赤い服をきた少年。絵には「謝れ!」という文字が添えられている。
少年が赤い帽子に手をかけようとしているところで、記者のような白人の大人たちが取り囲み、カメラを向けているこの風刺画。少年に風刺作家である自身の姿を投影し、中国のいち少年が描いた風刺画を攻め立てる他国の様子を表しているのだろうか。
画像の作成者は「他国の平凡な絵描きを非難し、圧力をかけることに矛先を向けないでほしい。事実に基づいた創作への圧力です」と語っている。
■オーストラリアと中国、なぜ対立? 日本への影響は?
なぜオーストラリアと中国は対立しているのだろうか。今年春、オーストラリアのモリソン首相は「コロナウイルスの発生源に対する国際調査が必要だ」と言及。この発言を受け中国は“報復”として5月、オーストラリア産大麦に関税をかけた。さらに11月にはオーストラリア産ワインにも関税をかけるなど、圧力が続いている。
ニュース番組「ABEMAヒルズ」コメンテーターで、ニューズウィーク日本版編集長の長岡義博氏は「オーストラリアと中国の関係は、日本と中国の関係に似ている」と語る。
「日本もオーストラリアもアメリカの同盟国。一方、ともにアジアで大きな市場を持つ中国とどうしてもビジネスをしないといけない、むしろビジネスをしたいという関係で、仲良くなったり、不仲になったりを繰り返してきた」
「2年ほど前にニュージーランドに行ったとき、留学生、観光客、投資で中国の存在感がすごく大きくなっていた。ニュージーランドの国土は日本のおよそ4分の3の大きさがあるのに、人口はわずか500万人ほどしかいない。中国は国土が大きいが、およそ14億人の人口と経済成長で生まれたたくさんのお金がある。人もお金も行き場を求めて、ニュージーランドに入り込んでいた。オーストラリアも同じ状況で、中国の人とお金がたくさん入りかけている。気づくと中国人が自分たちの国の土地を買っていたり、中国系オーストラリア人が議員になろうとしていたりして、反発が起きている状況だ」
また、長岡氏はオーストラリアに中国が強い態度で出たことについて「中国とビジネスをしている、もしくはしたいと思っている国が中国に喧嘩をふっかけると『必ず報復する』と示したかったのでは」と分析。その上で日本への影響についてこう語る。
「オーストラリアと中国は一定の距離がある。距離感があるからこそ、思い切った発言ができる。一方で日本は中国とかなり近く、ここまで思い切った発言はしにくい。先月24日に行われた日中外相会談で、中国の王毅国務委員兼外相の尖閣諸島問題の発言に、思い切ったことを言えなかったのもこの状況が反映されている」
緊張が高まるオーストラリアと中国の関係。今回の火種が国際社会にどのような影響を及ぼすのか、注目が集まっている。
(ABEMA/「ABEMAヒルズ」より)
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