51歳にして“プロレス2冠”が見えてきた。総合格闘技界のレジェンドにして現ノア・GHCタッグ王者の桜庭和志がシングルのベルトも狙う。舞台は12月6日の代々木第二体育館大会。桜庭は拳王が持つGHCナショナル王座に初挑戦する。
決戦直前、12月1日の後楽園ホール大会では、前哨戦となるタッグ対決。杉浦軍の参謀役・NOSAWA論外と組んで拳王&仁王と対戦した。
王者・拳王はビッグネームとの対戦に気合い充分。桜庭の実績、ネームバリューを喰ってやろうと意気込み、この前哨戦でも拳王と桜庭が先発に。拳王は掌底連打にローキックと、いつも以上に“格闘色”の濃い攻撃を見せていく。拳王は日本拳法で世界大会優勝という実績を持つ。
だが、桜庭もそのフィールドで負けるわけにはいかない。フェイントをかけながらローキックで反撃してみせた。その上で、バックから腕ひしぎ十字固めを仕掛けるなどプロレスではなかなか見られない寝技も披露。最後は仁王を裏三角十字固めで仕留めた。
拳王はNOSAWAにアキレス腱固めをかけつつ桜庭を睨みつけるなど強烈に意識。試合後も「桜庭和志! 全盛期の緊張感はどこいったんだ。殺気のある殺伐とした試合をして防衛してやるからな」と挑発している。
これに桜庭は「フルネームで呼ぶな!」。どうも今さらのフルネームは抵抗がある模様。しかもこの時、マイクのスイッチが入っていなかった。それがまた拳王を苛立たせる。
「あいつ、マイクのスイッチ切れてるの分かってやってたろ!」
バックステージでも吠えた拳王。杉浦軍に入って以降、桜庭は「チャラチャラ」しているというチャンピオンは、PRIDE時代の殺気ある桜庭に勝つことに意味があると考えている。
が、考えてみればPRIDE時代の桜庭も特に殺気を前面に出してはいなかった。常にニコニコしながら、殺伐としたリングに華麗なテクニックを持ち込んで“楽しいバーリ・トゥード”を展開したのが桜庭だ。拳王の思いはどこ吹く風。相手が苛立つほど、タイトルマッチは桜庭ペースなのかもしれない。
「ヘラヘラしてますけど、それは楽しんでるってことなんで」
あらためてそう語った桜庭。その一方、拳王の実力も認めつつ「僕は日本拳法にはない打撃も持ってるんで」と自信を隠さない。
「タイトルマッチでは打撃で勝負するかもしれない。最近イメージしてるのはブアカーオ。ヒジでいくかも」
ここにきてK-1 MAXの名王者の名前を出すから、やはり桜庭は予測不能だ。ノアマットでヒジといえば三沢光晴のエルボーだが、桜庭はそこにムエタイのヒジ打ちを持ち込もうという(ちなみにK-1はヒジ打ち禁止だったが)。
どこまでが本気か分からない。しかしどこまでも本気なようでもある。確かに“全盛期”ではないかもしれないが、のらりくらりのベテラン・桜庭は拳王にとってかなり厄介な敵だ。
文/橋本宗洋
写真/プロレスリング・ノア