「相手はそうではないかもしれないという想像力を」企業内で起こる「ハラスメント」の基準を改めて議論してみた
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 夫が不機嫌な態度を取ることを指す「フキハラ」(不機嫌ハラスメント)、「まだ観てないの?やばくない?」などと嘲笑するキメハラ(鬼滅の刃ハラスメント)、断ったにも関わらず、何度も告白する「告ハラ」(告白ハラスメント)、血液型によって性格などを決めつける「ブラハラ」(ブラッドタイプ・ハラスメント)など、昨今、日常でのあらゆる言動が「ハラスメント」とラベリングされるようになった。

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 その結果、本当に問題にされなければならない、企業内でのパワハラやセクハラなど、当事者や周囲を傷つけるような行為が軽んじられてしまうのではないか。3日の『ABEMA Prime』では、そんな視点から「ハラスメント」の問題を改めて議論した。

■セクハラとキメハラを同列に語る風潮の是非

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 まず、日常会話の言葉となりつつある「ハラスメント」について、『鬼滅の刃』の大ファンの紗倉まなは「ただ魅力を語っていたつもりなのに、それが押し付けがましく感じられてしまったのか、真顔で“それってキメハラだよ”と言われてしまった」と明かすと、タレントのパックンは「なんでもかんでも“ハラスメント”と言ってしまうことには問題もあるが、自分にとって不愉快だということを簡潔な表現で伝えられるようになってるという部分はあるかもしれない。『鬼滅の刃』にしても、“悪いけど見てない。でも、責めないでほしい”ということを“キメハラ“という4文字で伝えられる」と指摘する。

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 他方、作家の乙武氏は「僕は『鬼滅の刃』を観たことが無いので、登場人物の名前やセリフを言われてぽかんとしてしまう。すると気まずい空気になってしまう(笑)」とした上で、「平成元年の新語・流行語大賞はセクシャル・ハラスメントだった。つまり、30年も前から問題視されながら解決していないような問題と、“そんなのキメハラだよ”と会話の中のノリで言ってしまうようなものを同列に語ってはいけないと思う。一方で、ロジックで追い詰めることを“ロジハラ”と呼んでいるが、この“追い詰められた”という感覚は、人によっても異なると思う。ただ単に正論で注意されたことをもって“追い詰められた、ハラスメントだ”と言ってしまうようでは、人間関係や社会の中でうまくやっていけるのかな、とも思ってしまう。とても難しい問題だと思う」と困惑気味に話す。

■何も言わない方が無難?難しくなる企業内での対応

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 乙武氏の疑問に対し、慶應義塾大学特別招聘教授の夏野剛氏は、企業経営の視点から「ハラスメントの定義が拡大解釈され、実際には立場が同じ人同士の会話まで“ハラスメント”と呼ぶようになっているのだと思う。人事や給与を決める権利などのパワー(権力)を持っている側が、ということがポイントだ。僕だって、部下に対して“お前B型だからさあ”というようなことは言わないが、同僚に対してであれば言うだろう」とコメント。

 さらに「もちろんセクハラに関しては様々な問題が絡んでいることもあるので真相を追及すべきだが、企業の実際の現場では、“訴えがあれば手打ちしよう”、みたいな空気になってきていると思う。“いやいや、それはハラスメントとは違うよね”と対抗するためには人件費も膨らむし、そもそも訴えられた側への影響も大きいからだ。企業での対応は非常に難しいものがあるし、だから僕は問題点に気づいても絶対に指摘しないし、飲みにも誘わない」とした。

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 夏野氏の話を受け、番組の司会進行を務める平石直之アナウンサーは、職人的なスキルを伝達することも求められる職種特有の悩みを明かす。

 「昔は先輩から後輩に対して、“あれはちょっと違う表現があるんじゃない”という指導が頻繁に行われていた。私も求められれば後輩への指導はいくらでもするが、最近では別の番組を担当しているアナウンサーに対して“今日の見たけど…”というようなことはすごく言いにくくなった。同じ番組を担当している1年目の渡辺アナウンサーや佐藤アナウンサーに対しては言うべきだと思ったことは言っているが、言い過ぎたり、長くなったり、リピートしたりすればパワハラになりかねないので、どういう風に伝えればいいのか、そこはいつも考える」。

■本当に問題がないのであれば毅然とした対応を

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 ハラスメントを恐れるあまり萎縮する風潮を「ハラハラ」(ハラスメントハラスメント)と位置づけ、警鐘を鳴らす専門家もいる。

 『「ハラ・ハラ社員」が会社を潰す』の著者で特定社会保険労務士の野崎大輔氏は「企業内においては、個人情報保護法の施行や内部統制が始まり、メディアでも頻繁に報じられるようになったことで、皆さんがハラスメントに対して敏感になっていったと思うし、なんでもハラスメントと名付けるような“言葉遊び”も進んでしまった。結果、問題行為のある部下に対して上司が注意・指導するだけで“パワハラだ”と言われてしまうなど、企業の人事が悩んでしまうケースも増えた」と話す。

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 「企業内の話で言えば、例えば最近では40代、50代の方が“後で文句を言われるのは嫌だ”などと感じて、若い方を飲みに誘うのを躊躇するという。その背景には人間関係、コミュニケーションの希薄化があると思う。実際、感情のもつれ、価値観のずれによって生じるハラスメントも増えてきていると思う。それだけに、本当に問題がないのであれば毅然とした対応を取るべきだろうし、“これはパワハラだから労基署に行く”と言われたとしても、会社としてパワハラには当たらないと考えるのであれば、どうぞ行ってくださいというくらい対応でも構わないと思う」。

■基準は関係性、必要性、相当性

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 ハラスメント対策専門家の倉本祐子氏も「何でもかんでもハラスメントにするのは問題だ。逆に本当の意味で人権侵害にあたるパワハラやセクハラが、“何でもかんでもハラスメント”と同じような扱いにされ、軽んじられてしまうことになる可能性もある」と懸念を示した上で、ハラスメント、とくにパワハラの基準について次のように説明する。

 「基本的には優越的な立場から、必要性、相当性を逸脱したものかどうかがポイントだ。厚労省も、問題行動を起こしている社員に対して、一定程度強く注意をすることはパワハラには該当しないとしている。その意味では、相手の気持ちも考え、人格否定をしない、時間も守る、という指導であれば、特に問題はない。そして、どういう関係性で、なんのために言ったのか。それを抜きにして、“はい。これはパワハラだ”ということにもならない。また、ILO(国際労働機関)が提唱しているのは、精神的、身体的な被害を引き起こす、または引き起こしかねないものだ。たとえば“私ができないせいで皆さんが残業することになりました”という内容の一斉メールをミスする度に送らせる上司がいた。言葉としては丁寧だが、必要性、相当性がある指導とは思えないし、本人の心をじわじわと蝕んでいく行為だ」。

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 また、その温床となる日本企業の特徴について「日本は新卒一括採用を続けている国なので、上司、先輩、後輩が年次によって決まったり、“25歳なら大体3年目だ”と、ステレオタイプ的に上下関係が決まったりしやすい。また、皆さんが長時間労働をしていることによって同調圧力が生まれやすくなり、マイノリティ排除につながるところもある。Zoomでのマナーなど、肩書きを気にするし、ジェンダーギャップも全く埋まらない。上の人が言うから絶対、女性はこういうものだ、という空気からセクハラ、パワハラが起きる環境が生まれている。そもそも波風を立てたいとか、争いごとをしたい人ばかりではないので、みんなでうまくやっていく方法を見つけていくことが必要だ。同じ価値基準、考えを持って行動し続けることが必要だ」と指摘した。

■「相手はそうではないかもしれないという想像力を」

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 議論を受けた乙武氏は「小学校の担任の先生が言っていたことが今でも記憶に残っている。“よく、自分がされて嫌なことは他人にするな”と言うけれど、俺はそうは思わない。お前がされて嫌なことと、相手がされて嫌なことは違うんだから、相手がされて嫌だと言ったことはやめろと。お前がいいと思っているからといって、相手もいいと思っているとは限らない、と。それはその通りだなと思ったし、30年以上経っても覚えているこの言葉は、ハラスメント問題を考える上でも大事な考え方だと思う」とコメント。

 「ハラスメントと表現するのがふさわしいかどうかは別にして、多くは想像力の欠如によって生まれていると思う。自分の価値観を相手も共有しているはずだという感覚があることによって、相手にプレッシャーを与えたり、傷付けたりしてしまうと思うし、それらがハラスメントと呼ばれているのだと思う。自戒を込めて、自分はこう思っているけど、相手はそうではないかもしれないという想像力を持つべきだ」。(ABEMA/『ABEMA Prime』より)

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