12月6日、ノア代々木第二体育館大会。GHCナショナル王座を保持する拳王は桜庭和志を相手に防衛戦を行なった。総合格闘技のレジェンド・桜庭は序盤から打撃の連打。ミドルキックの打ち合いにも応じ、さらにサブミッションの波状攻撃を仕掛ける。拳王は足を固められるとギブアップ寸前まで追い込まれたというが、そこが勝負どころでもあった。
うつ伏せの状態から反転、ブリッジして桜庭の肩をマットに付けさせる。変形の回転足折り固めの要領だ。“極め”に集中していた桜庭は虚をつかれ、3カウントを聞いてしまう。拳王の王座防衛だ。
ロープを蹴って悔しがる桜庭。対して拳王は人差し指で自分の頭を指した。「頭で勝った」というわけだ。
「これがプロレスリングだ。あいつ最初からめちゃくちゃ怒ってたろ。俺の作戦勝ちだ。俺もギブアップしそうになったけど、そこでアイツの少しの心の隙を突いたんだよ」
拳王は桜庭を挑戦者に指名すると「殺気がない」、「チャラチャラしやがって」と挑発。調印式の席上で桜庭を襲撃するという“実力行使”にまで打って出た。それも桜庭を怒らせ、冷静さを失わせる作戦だったのだ。そうまでして勝ちたい理由もあった。この大会のオープニングで発表された、来年2月12日の日本武道館大会だ。
ノアにとっては11年ぶりの“聖地”帰還。拳王は誰よりも早くそれを望み、実現を公言してきた。ファンを「クソヤローども」と呼ぶ拳王だが「クソヤローどもをあの場所へ連れていく」と誓っており、だからこそ、その日までベルトを守り続けなければいけなかった。
「俺が2年前から言ってきたことが、とうとう実現するだろ。クソヤローどもに言ってやる。叶わない夢なんてないんだよ。2年間、プロレスリング・ノアが武道館に帰れると思ってたやつ、いるか? いねえだろ。俺が言い続けて、それで心の片隅に置けるようになった。夢が徐々に近づいていったんだ。今の世の中、不自由かもしれねえ。でも夢を諦めるな! 夢は追いかけ続ければ実現する」
いつもは体制批判や対戦相手をこき下ろすコメントが多い拳王だが、この日ばかりは違った。選手たちが体を張って闘い、それを団体が広めてきた結果としての武道館再進出。“キャラ”とはまた違う万感の想いが言葉に込められていた。そして今、拳王には新たな夢があるという。
「日本武道館超満員。俺がメインイベントで勝って、最後に花道を歩く。それが次の夢だ」
武道館大会開催がノアにとってのゴールではない。武道館を超満員にし、自身がメインで勝利した時、拳王はまた新たな、そして大きな夢を語るだろう。「俺についてこい」の決め台詞はダテではないのだ。
文/橋本宗洋
写真/プロレスリング・ノア