格闘技イベントの第1試合は非常に重要だ。単にキャリアの浅い順に試合が組まれることも多いが、大会そのものに勢いをつけるという意味もある。そのため、いわゆる“前座”には当てはまらない選手が登場することも。
12月13日のK-1・両国国技館大会がそうだった。この日、本戦第1試合で組まれたのは不可思vs鈴木勇人。不可思は他団体で数々のベルトを巻き、K-1でもタイトルマッチの経験がある。対する鈴木は元Krush王者だ。トップ戦線で闘ってきた2人に求められたのは、大会に“火をつける”こと。どちらもそれを理解していたし、期待以上の試合をやってのけた。
序盤、鈴木が得意とする左ミドルにローキックを合わせていく不可思。蹴りの間合いは鈴木が得意とするところだ。しかし鈴木が左ストレートでダウンを奪ったところから戦局が荒れる。今度は不可思が右のパンチでダウン奪取。するとまた鈴木が左をヒット。不可思は2度目のダウン。あと1回のダウンでKO負けという状況に。ここで不可思は、ラウンド終了まで逃げてダメージを回復するという手段を取らなかった。
「ダウンを取られて“やべえ! 俺、また負けんの?”って。そこからは“もういくしかねえ”ってなりましたね」
不可思が選んだのは攻撃だ。打ち合いで主導権を握り、ラッシュをかけると右ストレート。ラウンド終了直前に倒し、3分9秒でのKOとなった。大乱戦、大逆転、大激闘。これぞK-1というべきアグレッシブなダウンの応酬は、不可思らしい闘いでもあった。
もともと、不可思は打ち合いを得意とする“激闘型”ファイターだ。タイトルマッチから2連敗を喫し“K-1でのファイトスタイル”を模索していると言われていたが、もともとK-1向きのスタイルだと評価されてK-1にやってきた。結果を出すための最善の手段、それは不可思らしく闘うことだったのだろう。
「どうっすか、火つきました?」
観客にアピールした不可思。インタビュースペースでは「焦りましたけど楽しめました」と語っている。
「ダウン取られてまた取ってっていう。一番得意な試合で僕らしさが出せたかなと。自分が求められてるのは自分の良さを出すこと。うまく勝つことじゃなくて熱い試合を見せることだなって。スタイルとか細かいこともありますけど、大事なものを忘れてました」
窮地を迎えたからこその“覚醒”か。大会に火をつけた不可思は来年1月24日の『K'FESTA』にも参戦アピール。連敗から一転、絶好調で2021年を迎えそうだ。
文/橋本宗洋