大きな決断だった。スーパー・バンタム級王者として、武尊に続くK-1の“顔”とも言える存在だった武居由樹がタイトルを返上、K-1卒業を表明した。武居はボクシングに転向し、井上尚弥と同じ大橋ジムに所属。世界3階級制覇を達成し、今年引退した八重樫東トレーナーに師事することになった。
もともとアマチュアボクシング経験者の武居は、ケガやコロナ禍で自分に向き合う時間が長くなった中、「新しい夢ができた」と語っている。ボクシングでの「リベンジ」という気持ちも。目指すは世界チャンピオンだ。
「K-1代表として必ず結果を残してきます」
12.13K-1両国国技館大会のリング上で、ファンにそう誓った武居。インタビュースペースでは、K-1でやり残したことについても語った。
「前から武尊選手の引退試合の相手に選ばれたいと言っていたのと、2階級制覇もしたかった。武尊選手とはいつか、どこかのリングで闘えたら」
すでに大橋ジムで井上にも対面したという武居。ジムとしても武居には大きな期待を寄せており「デビュー戦から目立つ位置で試合をさせてもらえそうです」と言う。コメント後、武居に単独インタビューをすると、ボクシングの練習を始めた感触を語ってくれた。
「大橋ジムはジムの空気も緊張感がありますね。K-1とボクシングはルールもラウンド数も違うので、正直まだ練習には慣れてないです。でも、それが刺激的で楽しいですね」
八重樫トレーナーとの新たな“師弟コンビ”も話題になりそうだ。現役時代は果敢な打ち合いで“激闘王”と呼ばれた八重樫氏だが、ボクシングへの探求心が旺盛な職人気質の一面も。
「八重樫さんは最初に会った時から“凄く頭のいい方だな”って思いました。技術もですけど練習方法に関しても最先端のものを研究されていて」
ボクシングはプロテストを受けるところからのスタート。一から別競技に挑むという気持ちは強い。ただリング上でも語ったように、K-1のチャンピオンだったプライドはある。
「ボクシングのチャンピオンになるのは簡単なことじゃないと思います。でもK-1でベルトを巻くのだって難しかったので。K-1でトップの人たちと闘って勝ってきた、その自信は持っていたいですね」
K-1では足立区にあるPOWER OF DREAMの古川誠一会長の家に住み込んで練習に励んできた武居。外泊禁止の厳しい環境などでも有名だったが、これからは一人暮らしをすることに。ただ、POWER OF DREAMは今後も「週に何回かは続けます」とのこと。
「朝練（ランニングやフィジカル）には出ようと思ってます。僕にとっては古川会長がお父さん。僕のことを一番よく知っている人なので。自分の個性のいいところは伸ばしてもらおうと思ってます」
その上で、ボクシングについては一から大橋ジムで身につける。これからは師匠が2人になるわけだ。そこには、自分に厳しくしたいという武居の思いもあった。
「一人暮らしをしていると、どこかで気を抜いちゃうところがあるかもしれないので。古川会長といることで“締まる”のではないかと思います。八重樫さんも厳しい方ですし」
K-1からの転向はリングでのメリットもあると考えている。「K-1のリズムはボクシングと違うので、ボクサーにとってはやりにくいはず。そこは活かしていきたいです」と武居。デビュー戦から大きな注目を浴びることになりそうだが、そこにひるんでもいない。
「K-1チャンピオンがボクシングに来たということで注目されると思います。そこでK-1の名を汚さない闘いをしないといけないですね。逆にボクシングでチャンピオンになれたら、K-1のブランドを上げることもできる」
両国のリングでは武尊に見送られ、K-1を卒業した武居。その格闘センスは、ボクシングのリングでも発揮されるはずだ。
文／橋本宗洋
