■アニメ『体操ザムライ』“師弟リレーインタビュー”第2回/天草紀之コーチ役・堀内賢雄
海外ドラマ『フルハウス』のジェシー役、『ビバリーヒルズ高校白書』のスティーブ役、洋画ではブラッド・ピットをはじめ、チャーリー・シーンやベン・スティラーなど数々のハリウッド俳優の吹き替えを担当しているベテラン声優・堀内賢雄。アニメやゲーム、ナレーターとしても第一線で活躍しており、声優事務所「ケンユウオフィス」の代表取締役としても業界で知られている。
『ユーリ!!! on ICE』『ゾンビランドサガ』を手掛けたMAPPAが制作するオリジナルTVアニメーション最新作『体操ザムライ』では、主人公・荒垣城太郎を見守るコーチ、天草紀之役を演じている堀内。果たして、アニメ『体操ザムライ』は自身にとってどのような作品になったのか。
今回「ABEMA TIMES」では、荒垣城太郎役・浪川大輔と天草紀之コーチ役・堀内賢雄の“師弟リレーインタビュー”が実現。全4回にわたってお届けする。
【映像】第1話で天草コーチ(CV. 堀内賢雄)が城太郎(CV. 浪川大輔)に引退を告げるシーン(2分ごろ~)
* * * * * * *
――これまでたくさんの役を演じられてきた堀内さんですが、アニメ『体操ザムライ』では、体操選手のコーチ役と聞いて最初にどのような印象を持ちましたか。
堀内:通常、体操選手のコーチというと、僕たちの世代では“熱血コーチ”なんですよ。でも、最初にキャラクターを見せていただいたときに思ったのは、天草が“ベッカムヘア”のような髪型だったので「このコーチなんなんだろう、面白いキャラクターのかな?」って。
ただ、体操選手である荒垣城太郎(CV. 浪川大輔)が銀メダルを取る前から行動を共にしていて、しかも家族の絆に近い深いつながりがある。そして、ちゃんとコーチとして体操を指導する。流れがわかれば、自ずと役作りはできました。
――アニメの舞台は2002年です。同年の日韓W杯では、デビッド・ベッカム選手の影響で「ベッカムヘア」が流行したので、それが天草コーチのビジュアルにも反映されているんですね。
堀内:天草を含めて『体操ザムライ』には、随所に“昭和テイスト”が散りばめられているんですよ。スナック経営者の荒垣マリ(CV .田中敦子)にも昭和感がありますね。今の時代にあまりないものが出ていて、それを今とマッチングさせている面白さがある作品です。だから若い人がこの作品をどういう風にとらえてくれるか、放送前はとても楽しみでした。
――アニメでは天草コーチが城太郎に引退を勧めるシーンが衝撃的でした。
堀内:城太郎が持っていた「勢いでとにかく努力して練習しなければうまくならない」というのは頑固な考え方ですよ。天草が城太郎の肩が悪いことに気付いて「休まなきゃいけない」と言っているのに、言うことを聞かない。ここにはある意味、親子のような関係と同時に、兄弟に似た関係が成立しているんです。そして、城太郎には娘の玲ちゃんがいて、天草とも家族ぐるみの付き合いがある。その流れの中で出てくるセリフを感じながら演じていましたね。
――整体師であるブリトニー(CV.小山力也)によって、城太郎は自分の中にあった「オーバートレーニング症候群」に気付きます。
堀内:天草の愛情を感じましたね。言っても聞かないんだから、気付くまではもう待つしかない。ビジネスとしてのコーチというよりも、愛情としての絆。いわゆる家族ですよね。南野鉄男(CV.梶 裕貴)のコーチである中ノ森真彦(CV.平川大輔)との対比がうまく出ていると思いますよ。
――『体操ザムライ』は大人にこそ観てほしいアニメだと思います。ストーリーにたくさんの伏線が潜んでいて、毎話に発見があります。
堀内:特に僕ら世代の大人たちにジーンときちゃうものが『体操ザムライ』にはたくさん織り込まれているんです。城太郎の妻・知世さんは交通事故で亡くなっていて、城太郎も過去に銀メダルを取りましたが、今そのスランプを乗り越えられるかどうか。アスリート以外に、一人娘の玲ちゃんの良い親でいられるのかどうか。昔、僕が子供のときこういうドラマを観てよく泣きました(笑)。
――アニメでは、天草コーチがギャル文字を城太郎に見せるシーンもありました。若者をなんとか理解しようとする姿も印象的です。
堀内:ギャル文字もまさしく昔のものですよね(笑)。僕にも娘がいるので、本当にどハマリしたシーンです。作品のテーマとしては、やはり人間の絆だと思いますが、同時に感じたのはアスリートってすごく孤独なんだなと。でも、一人ではどうにもならないことがある。城太郎の周りには南野鉄男がいて、中国の代表選手のリュウ・リュウショウ(CV.神谷浩史)がいて。うまい具合にライバルとしての性格的なバランスの良さが出ていますね。
――城太郎一家と生活を共にすることになった、レオナルド(CV.小野賢章)の存在もいい味を出しています。
堀内:『体操ザムライ』は本当に驚きの連続でした。レオナルドの正体もまさか、あんな人だったとは誰も思わないですよ。すごく大きいサプライズを成立させていく、作品のすごさを感じます。レオナルドの“ニンポウ、ドゲザ!”はどこかで使いたいな(笑)。
――漫画原作のアニメなら先に原作を読めますが、オリジナルTVアニメーションだと先の展開が読めないので、いつも驚きがあります。
堀内:僕たちも台本をもらって初めてわかるものもあって、この先どのような展開をしていくのか、わからない楽しみはすごくありました。最初、城太郎に引退を勧めたのは、単純に銀メダルを取った後に肩を壊した身体的なものかと思ったんです。でも、それは城太郎が頑固で練習を休まなくて、努力すればなんとかなるという考え方の相違が2人にあった。そうすると、引退を勧告するニュアンスは変わってきますよね。ただ「メダルが取れないから引退しろ」じゃないんです。
ブリトニーとの出会いで城太郎も気付いて、また天草が自分のクラブに城太郎を入れたけれど、これは単純にメダルを取らせるためじゃない。城太郎という人間が娘である玲ちゃんの親でもあって、人間的にも大きくなっていかないといけないんです。それについてくるものが結果で、天草コーチは城太郎にそれに気付かせてあげようとしているんです。
――天草コーチの振る舞いは、見ていてとても深いなと感じます。
堀内:僕もスポーツやっていたときがあるのですが、身体が悪いというのはその人にしかわからないものがあるんです。治らない身体を引きずりながら生きていくのってすごく辛いんですよね。自由が利かないときは、結局何かに頼るしかない。城太郎の肩が治ったことよりも、城太郎が精神的に自分の生きるべき道を知ったことが大きいです。身体的な理由だけじゃない、メンタルも作用していて、このアニメには深い部分がたくさん隠れているんです。
――体操選手の物語ですが、体操だけじゃない部分も見どころです。
堀内:城太郎が娘の玲ちゃんを育てながら、いつも妻の遺影の前で「アスリートとしても、親としてもどうなんだ」と葛藤している。やっぱりアスリートとしての苦悩だけではなくて、それ以外にもいろいろなことを考えていかなきゃいけない。この葛藤には泣けますね。
中国との合同合宿でも玲ちゃんの誕生日が重なって「さぁ、アスリートとしてどうするんだ」と投げかけていく。誕生日も「たった1日でしょ」と思うかもしれませんが、それが後々になってすごく尾を引いちゃうんだろうなって、考えさせられました。単純に体操という競技のドラマではなく、それを取り巻くいろいろなしがらみがあって、でも個人としては「アスリートとしていい位置にはいけない」ということをすごく感じました。
――もしご自身が天草コーチの立場だったら、どのように選手に引退を勧告しますか。
堀内:僕だったら、肩のことを説明してムキにならないように「引退した方がいいよ」と伝えると思いますね。どこかやっぱり愛情みたいなのを乗せながら、勧告するんだろうなと。そういう面では天草とちょっと似ているかもわかりませんね。ただの鬼コーチではないところが。コーチとしてはダメかもしれませんが、シビアなことを伝えるときに、やっぱり愛情があるところはちょっと僕も似ているかも。「それじゃダメなんですよ、もっと冷徹にならなきゃダメ」と言う人もいますが、ちょっと僕にはできないんです。だから人情味が取れないんでしょうね(笑)。
――「冷徹になれない」というのは、ご自身の中でこうあるべき姿みたいなのがあるのでしょうか?
堀内:やっぱり僕も関わりすぎちゃうんでしょうね、他人の人生に。メダルを取ることだけじゃなくて、城太郎を人間的にも伸ばしていこうとする部分が『体操ザムライ』に描かれているんですよ。本当の鬼コーチだったら「家族よりメダルの方が大事だろ!」という話になる。ただ、天草は城太郎の家族も気遣いながら、玲ちゃんを練習場に呼んであげたりしていますよね。「せめて城太郎にも子供の前ぐらいはいいとこ見せてあげたい」みたいな気持ちがあるのか……そういう意味でも天草は人間らしいところがありますね。
※続きは近日公開!
(C)「体操ザムライ」製作委員会