圧巻の復活劇だった。K-1屈指の“問題児”ファイター・芦澤竜誠が12月13日の両国国技館大会で現役復帰。元Krush王者の島野浩太朗を2ラウンド3分ジャストでKOしてみせた。
毒舌とアグレッシブなファイトで話題を呼んだ芦澤だが、昨年6月、3連敗を喫すると引退を表明、リングから遠ざかっていた。しかし今年、PPV企画『芦澤竜誠を殴りたいやつ、大募集』に登場すると現役復帰を宣言。この両国大会で1年半ぶりの公式戦に挑んだ。
以前は「気分が乗らなかったらジムに来ても何もしないで帰る」と練習嫌いを公言していた芦澤。しかし現在は所属ジムがPURGE TOKYOに変わり、久保優太、木村“フィリップ”ミノルと同じ矢口哲雄トレーナーに師事。見違えるような練習熱心ぶりを見せていた。
“悪童キャラ”の芦澤だが格闘家としての能力も抜群。いわゆるケンカファイトだけでなくジャブ、ミドルといったベースとなる攻撃を丁寧に繰り出す。射程距離の長いパンチで島野から2度ダウンを奪うと、ダウンを取り返されるピンチも。しかしそこで失速することなく猛反撃を見せ、2ラウンドのタイムアップと同時にレフェリーストップを呼び込んだ。
その激闘ぶりに「今日のK-1は芦澤竜誠でした」と、いかにも芦澤らしいマイク。だが同時に「応援してくれる人にずっと恩返しができなくて。やっと恩返しできました」とも。
インタビュースペースでは「注目してください…って言わなくても注目しますよね」と言いつつ「島野選手だったからああいう試合になった。島野選手には感謝しかない」、「これで天狗になると思いきや、もっともっと練習するんで」。これまでの芦澤のイメージにはない姿だったが、それが今の偽らざる心境なのだろう。
あらためて単独インタビューを行なうと「練習でやってきたことを信じれましたね。矢口トレーナーやセコンドのことも信じれた。だから結果が出たんだと思います」と芦澤。練習してきた“裏付け”があるから、どんな場面でも気持ちがブレなかった。
「最後、時間ギリギリで勝ちましたけど、そういうところなんですよ。努力してきたことを1分、1秒も無駄にしちゃいけないってラウンドが終わる瞬間まで大事に闘ったからKOになった」
もちろん、これまで同様の“芦澤らしさ”もある。
「目標はベルト? いや、ベルトはほしくないっすね。チャンピオンになると縛られちゃうんで。自由にやりたいんですよ。好きな時にやりたい相手とやりたいんで」
次の試合についても「焦ってない」と言う。
「まだまだ完成してないんで、俺は。もっともっとできる。それが分かってるんですよ。根拠もなく言ってるわけじゃない。“あとちょっとでこれができるようになるな”というものがあって、それは反復、期間が必要なんで」
今回の復活劇、その原動力はファンの存在だった。
「俺のことを“芦澤やべえよ”って言ってくれる人たちがいる。でも(引退前に)3連敗して、その人たちもいろいろ言われちゃうじゃないですか。それは気にしてましたね。だから今回は感謝の気持ちで、みんなのために闘いました。自分のためじゃなかった。今回が初めてです」
自分のためではなく人のために闘うほうが強いと芦澤。そうした精神面の変化、成長も大きい。「竜誠が勝てるように俺も仕事頑張るよ」と言ってくれるファンのために闘う。「そういう人が多ければ多いほど俺は強くなれるし、それがなかったら勝てないです」。
PPVから現役復帰、激勝。そのドラマチックな流れも芦澤の可能性を感じさせる。
「なんか仕組まれてんじゃねえかなって(笑)。こんなストーリーあるのかって思いますよ。目に見えないものに味方してもらってる感じがするんですよね」
去年まではむしろ序章か。2度目のキャリアで、もともとお墨付きのポテンシャルがいよいよ大爆発しそうだ。
文/橋本宗洋