18日、計画を断念した地上配備型ミサイル迎撃システム「イージス・アショア」の代わりとして、2隻の新型イージス艦を新たに建造することが閣議決定された。加えて、開発中の地対艦ミサイルについては、自衛隊が保有する12式地対艦誘導弾を改良し、飛距離を大幅に伸ばした「スタンド・オフ・ミサイル」にするとしている。
・【映像】中谷議員に聞く 敵の射程外から“ミサイル攻撃“開発の目的とは
このミサイル開発について岸信夫防衛大臣は「隊員の安全を図りながら相手を攻撃することができるスタンド・オフ・ミサイル、これを持っていくということが必要だ」と説明しているが、立憲民主党の安住国対委員長は「敵基地攻撃力を保有するということは、専守防衛の考え方からは逸脱する」と批判した。
今回の閣議決定では敵基地攻撃能力には直接触れず、抑止力強化について引き続き検討を行うとの表現に留めており、加藤官房長官は「いわゆる敵基地攻撃を目的としたものではないと承知している」と話している。
■「相手の射程の外から撃てる能力を持たなければ自衛隊員がやられてしまう可能性」
現状の安全保障環境について、元防衛大臣で衆院議員の中谷元氏は「もちろん日米同盟は今も強固だ。しかし気がつけば中国はアメリカの空母を狙えるミサイルを何千発も持つようになっているし、北朝鮮やロシアも予測不能なミサイルを持っている。これまでの国会での議論では、敵基地まで飛んでいく長距離ミサイルや爆撃機、空母といったものは持たないということでやってきた。しかし、それだけでは守りきれないという状況になってきているということだ。やはり、“撃たれたらやり返す”という、相手の射程の外から撃てる能力を持たなければ自衛隊員がやられてしまう可能性がある。ただし、“憲法の下、これができる”ということで閣議決定をしないと、自衛隊が対処力、アメリカが抑止力という役割分担について日米での話し合いもできない。今回、閣議決定でそれをしたかったが、公明党が賛成しなかったのでできなかった」と説明する。
ここで問題となってくる「敵基地攻撃能力」については昭和31年、当時の鳩山一郎内閣が衆議院内閣委員会で次のように答弁している。
「わが国に対して急迫不正の侵害が行われ、その侵害の手段としてわが国土に対し、誘導弾などによる攻撃が行われた場合、座して自滅を待つべしというのが憲法の趣旨とするところだというふうには、どうしても考えられないと思うのです。そういう場合には、そのような攻撃を防ぐのに万やむを得ない必要最小限度の措置をとること、例えば、誘導弾などによる攻撃を防御するのに、他に手段がないと認められる限り、誘導弾などの基地をたたくことは、法理的には自衛の範囲に含まれ、可能であるというべきものと思います。」※急迫不正の侵害(正当防衛の要件の一つ)
中谷議員もこの答弁を踏まえ、「仮に1発でも撃たれれば“武力攻撃事態”になり、自衛権の下で相手国の領域内への攻撃もできるというのが常識の世界だ。ただ、あくまでも攻撃、あるいはその意思や準備が明らかにならなければ反撃の体制に入ることはできない」として、いわゆる“先制攻撃”との違いについても説明。その上で「10年前までは燃料注入などで攻撃の意思、準備の動きが把握ができたが、最近では発射台が移動したり、潜水艦から発射したりというがあるので、それが難しくなっている。また、イージス・アショアのような迎撃システムには非常にお金がかかる。だからこそ、“撃たせないようにする”という抑止力を持たせるのが適切ではないかということだ」と改めて理解を求めた。
■進まない憲法改正論議、対中政策はどうすべき?
元経産官僚の宇佐美典也氏は「攻撃を受けない限りやりかえしてはいけないという“専守防衛”という発想は、ある程度の国民の死を受け入れるという発想であるとも言える。果たしてそれで平和を保障しているといえるのだろうかと思う。その一方で、相手が発射の準備をしているのを確認したらどうするのか、という議論は、やはり憲法改正に限りなく近くなってくる。この点の議論は、この2、3年のうちにしておいた方がいい」と指摘。
これについて衆議院の憲法審査会の幹事でもある中谷議員は「現状では必要最小限度での自衛の措置は憲法で認められるということになっているが、この“必要最小限度”には幅があり、非常に分かりにくい。そこを憲法改正で国民に示し、自衛隊がきちんと行動できるようにすべきだと思う。5年前の国会では平和安全法制ですごく熱い議論をしたが、その後、野党は何も言わなくなってしまった。憲法審査会でも、憲法9条の話をしてほしい。また、9条だけでなく、国会議員の定数の問題や同性婚もやらなければならない。あるいはコロナ対策で浮き彫りになった、国と地方の権限の話もある。早くそういう議論をしたい。しかし公明党とは5年以上憲法審査会で議論しているが、とりあえず本題に入る前に国民投票法という共通の土俵を作ってからだということで、具体的な議論については全く党内でも議論していない。さらに国民投票法については内容的には与野党で合意してもいるが、やはりCMやインターネットの問題などで、どうしても採決に至らない」と説明した。
また、ジャーナリストの堀潤氏は「これはリベラルサイドの問題でもある。“改憲”といった瞬間にファンを失うことを恐れているのかもしれないが、国民民主党は山尾議員などが現状に照らし合わせた“立憲的改憲”を打ち出している。立憲民主党にもしっかりと向き合って欲しいと思う。また、香港の次は台湾だという見方もある。もし台湾に何かあった時、日本はどう動くのか。自由と民主を掲げている以上、そうした議論もしなければならない」とコメント
その上で、「政府与党や財界も、一方では勇ましいことを言いながら、一方では安定的な経済的繋がりを維持したいという思いが強いと思う。閣議決定ができないという話も、ひょっとしたら自民党としても、中国に圧をかけるような政策決定ができないという状況があるからではないか」と疑問を呈した。
山尾議員とともに、超党派の「対中政策に関する国会議員連盟(JPAC)」で共同会長を努める中谷議員は「経済的には相互依存があるので止めるわけにはいかないが、やはり香港や新疆ウイグルにおける中国の行動を見ていると、議会や自由主義・民主主義に対する認識がまずいと思う。尖閣のこともそうだし、国際法を無視するような南シナ海の埋め立てもそうだ。こうしたことを許していると、自由主義や民主主義の基盤が揺らいでしまう。そこは中国にしっかり言っていかなければいけない。アメリカは情報の分野で非常に厳しくしてきているので、日本も一緒になって認識を深めていかなければならない」と話していた。(ABEMA/『ABEMA Prime』より)
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