多くの人は、自分が誹謗中傷していることに気付かない…投稿前に立ち止まる方法は? 自死した元アイドル女性の母親が訴え
【映像】ABEMAでみる
この記事の写真をみる(9枚)

 今年9月、アイドル活動をしていた月乃のあさん(当時18)が、名古屋市内で自ら命を絶った。SNSやネット掲示板には、彼女を誹謗中傷する内容のコメントや書き込みが多数投稿されていたという。

 「容姿のこととか、“お前なんかいなくなれ”とか、びっくりするくらいの通知が来ていた。何度も何度も“死なないで、死なないで”と言ったが、“もう息をするのも苦しい”と…」。そう振り返るのは、のあさんの母親だ。

・【映像】SNSの誹謗中傷で娘を失った母が決意の出演

​​​​​​​■「打ち込むだけの言葉が、本当に人の心をえぐってしまう」

多くの人は、自分が誹謗中傷していることに気付かない…投稿前に立ち止まる方法は? 自死した元アイドル女性の母親が訴え
拡大する

 「1年くらい前、“殺す”とか“死ね”といった言葉を投稿されたので警察に連絡したこともあった。しかし、“見なければいい。やらなければいい。そういう活動をしなければいい”と言われた。それ以上、話すことができなかった」。

 のあさんが亡くなる前の数カ月からは自身の入院などのために会うことも叶わない状態が続き、メールや電話で自殺を思いとどまるよう連絡を続けるしか方法が無かったという。「友達とかには相談していたし、必死に動いてくれたが、もともと心が弱く、精神的な病もあった子なので、耐えられなかったんだと思う。メールを送り続けることしかできなかった。今は後悔しかない」。

多くの人は、自分が誹謗中傷していることに気付かない…投稿前に立ち止まる方法は? 自死した元アイドル女性の母親が訴え
拡大する

 遺書には、自信のTwitterアカウントとパスワードが記されており、「ママ、ここにいってつぶやいて」とあったという。しかし母親は「ツキノノア」という名前のアカウントを取り、誹謗中傷の実態を知ってほしいと発信を始めている。

 しかし、攻撃的なリプライはここにも。「お通夜の前夜に、“親のくせに、こんな時にポチポチとスマホいじって”とか、“こんな親だから”とか。ただ打ち込むだけの言葉が、本当に人の心をえぐってしまう。人の心を殺してしまう。そんな書き込みなんか、絶対にしちゃいけない」。

 また、のあさんを誹謗中傷していたアカウントについては「書き込んだ人の中にも未成年の方もいたというのもあって、私はその人たちに対してどうしたらいいのか。弁護士さんにも相談したが、お金も時間もかかる話だからということで終わってしまった」と明かし、「娘は自分に辛い時期があったので、一人でも多くの人を明るく、元気にしたいと言いながら、中学生の頃からキラキラ輝きながら踊って、歌っていた。その姿が忘れられない。同じような希望を持っている子たちの夢を潰さないでほしいと思う」と訴えた。

■「まずは投稿する前に立ち止まる、ということを」

多くの人は、自分が誹謗中傷していることに気付かない…投稿前に立ち止まる方法は? 自死した元アイドル女性の母親が訴え
拡大する

 アイドル活動をしていた経験もあるお笑い芸人のみほとけは「“嫌ならやめればいい”と言う人もいるが、これから売れていこうという人にとってSNSは欠かせないもの。SNSでファンを獲得していくことが世の中に出ていく一つの道筋になっているし、やめてしまえばそれだけチャンスが減っていくことになる。簡単にはやめられない」とコメント。

多くの人は、自分が誹謗中傷していることに気付かない…投稿前に立ち止まる方法は? 自死した元アイドル女性の母親が訴え
拡大する

 また、慶應義塾大学の若新雄純特任准教授は「人が誹謗中傷的なことを思わない、言わないということは難しいと思う。ただ、それを表に出さないことが大切だ。僕は今までネットに誹謗中傷を書いたことがないと思っているが、それは友達や兄弟など、内輪で悪口や変な正義感をぶつけあって、気持ちを吐き出すことができているからだと思う。テレビの前では政党や政策に対するものも含めて、“なんやこいつクソやな、消えろ“とか言っている。例えば女子アナが給湯室で他人の悪口を言っていたというニュースがあったが、悪口を言うのが良くないのではなく、内輪だけで言っていた悪口を暴露したのが悪いんだと思う。そして、そういうことをネット上にいる無数の住人たちと、みんなに見えるところで言い合っているのが問題だ」と指摘した。

多くの人は、自分が誹謗中傷していることに気付かない…投稿前に立ち止まる方法は? 自死した元アイドル女性の母親が訴え
拡大する

 国際大学グローバル・コミュニケーション・センター准教授の山口真一氏も「私も“やめればいい”“嫌なら見るな”というのは間違っているし、暴論だと思う。今はSNSを使って交流したり、ビジネスに使ったりするのが当たり前の時代。そこへの書き込みは、自分のアカウントに降りかかってくることになる。しかも一つ一つは小さい刃でも、大量の刃が飛んでくることが精神を蝕む」とした上で、次のように説明する。

 「私の調査によれば、攻撃的な書き込みをする人の60~70%は、許せなかったとか、失望したといった感覚をベースに、自分が正しく、相手が間違っていると考えている。しかも相手の表情が見えない“非対面コミュニケーション”でもある。そこに加えて気軽に書き込めるので、誹謗中傷をしていると気づきにくく、止めるのも難しい。しかし、その正義感は社会的な認識ではなく、あくまでもそれぞれの価値観の中での認識だ。中には数百万円の損害賠償を命じられたり、あるいは刑事罰を課されたりする例も出てきている。まずは投稿する前に立ち止まる、ということをみんながしなければ、問題は解決しないのではないか」。

■「ちょっと気付かせるだけで、多くの人は投稿をやめられる」

多くの人は、自分が誹謗中傷していることに気付かない…投稿前に立ち止まる方法は? 自死した元アイドル女性の母親が訴え
拡大する

 のあさんのような事例が報じられる一方、少しずつ対策も講じられている。今年8月には総務省が省令を改正、プロバイダに対し投稿者の住所・氏名に加え、電話番号も開示請求できるようになった。さらに今月、相談のためのフローチャートを公開した。

 また、民間でも6月に一般社団法人セーファーインターネット協会が「誹謗中傷ホットライン」を開設、被害者に代わって、国内外のプロバイダに誹謗中傷の書き込みを削除請求する仕組みを作った。また、コピーライターの小竹海広氏は10月、啓発キャンペーン『#この指とめよう』を打ち出した。

多くの人は、自分が誹謗中傷していることに気付かない…投稿前に立ち止まる方法は? 自死した元アイドル女性の母親が訴え
拡大する

 「今年は指によって悲しい出来事が起こった。逆に言えば、その指さえなんとかすれば、少しでも状況が良くなるのではないかと考えた。アンガーマネジメントの理論によれば、人の怒りのピークは6秒くらいと言われているので、まずは一呼吸置いて“こんなひどいこと言えない”と我に返る瞬間を作れれば、誹謗中傷の投稿を減らしていけるのではないか」。

 クラウドファンディングによって資金を集め、渋谷の街頭を皮切りにキャンペーンを拡大していきたいと話す小竹氏。「まずは9割のライトな誹謗中傷を止めるだけでも、アイドル活動をしている方々が頑張れるようになると思う。残りのヘビーな1割の誹謗中傷に対しては、法律やテクノロジーの出番だと思う。特に悪質なものについては一定期間ログインできなくしたり、アカウントをBANしたりするといったことも必要だ。啓発、法律、そしてテクノロジーの3つで進めていくことが大事だと思う」。

多くの人は、自分が誹謗中傷していることに気付かない…投稿前に立ち止まる方法は? 自死した元アイドル女性の母親が訴え
拡大する

 山口氏は「アメリカの学生が作った『ReThink』というサービスでは、投稿時に攻撃的なメッセージに対してアラートを出しているが、これによって93%のティーンエイジャーが投稿を取りやめたという検証結果が出ている。つまり、ちょっと気づかせるだけで、それぐらいの人が投稿をやめるということだし、逆に言えばそれだけ多くの人が誹謗中傷だと気づかずに投稿しようとしていたということでもある。“もしかしたらそうかもしれない”と気づかせることが、豊かな情報社会につながっていくのではないか」と話していた。(ABEMA/『ABEMA Prime』より)

SNSの誹謗中傷で娘を失った母が決意の出演
SNSの誹謗中傷で娘を失った母が決意の出演

■Pick Up

【Z世代マーケティング】ティーンの日用品お買い物事情「家族で使うものは私が選ぶ」が半数以上 | VISIONS(ビジョンズ)

この記事の写真をみる(9枚)