若い世代の台頭が目立つプロレス界だが、だからこそベテランが奮闘するとインパクトが強い。プロレスリング・ノアでは杉浦貴と桜庭和志がタッグ王座を保持し、来年2月12日の日本武道館大会では武藤敬司がGHCヘビー級王座に挑戦する。
DDTでは、51歳の秋山準が全日本プロレスからレンタル移籍、選手たちのコーチを務めるとともに最前線で闘ってきた。ユニット・準烈を結成するとシングルリーグ戦「D王グランプリ」にも参戦。2敗を喫したものの決勝戦に進出し、12.27後楽園大会で竹下幸之介に勝って優勝を果たした。選手としてのネームバリューでは秋山が誰よりも上と言えるDDTマット。しかし年齢を考えれば“快挙”でもある。
フィニッシュとなったのはアームロック。以前から竹下は左腕を傷めており、秋山は序盤から徹底的にそこを攻めた。場外の鉄柵を使っての攻撃も。ベテランらしい老獪さというより、手段を選ばぬ非情さとド迫力がそこにあった。
社長も務めた全日本では、一歩引いたポジションになっていた秋山。DDTでの“発奮”は、新たな環境での刺激が大きいのだろう。“大社長”高木三四郎に恥をかかせたくないという思いもあったそうだ。
「全日本に入った時も思ったんです。同じ時期に新日本にレスリングの優秀な人が3人入った。俺が変な試合したら(ジャイアント)馬場さんの顔に泥を塗ってしまう。今回は全日本を離れて高木さんに拾ってもらった。これでおっさんがしょうもない動きしたら高木さんの顔に泥を塗ることになる」
高木が打ち出した野望にも共鳴した。業界トップの新日本プロレスに追いつけ、追い越せ。その言葉で「燃えた」と秋山。それができるだけのポテンシャルがDDTの選手にはあるし、デビュー直後の新人から全員がその気持ちを共有することが大事だと言う。
「君たちは凄い。どの団体にも負けない。自信をもってほしい」
かつてノアで業界トップを走った経験があるだけに、その技術だけでなく精神面でDDTに与える影響も大きそうだ。秋山はリーグ戦覇者として、2.14カルッツかわさき大会で遠藤哲哉が持つKO-D無差別級王座に挑む。竹下戦後のマイクでは、こんな言葉を残した。
「プロレス界で認められた王者が3人いる。IWGP・内藤(哲也)、GHC・潮崎(豪)、そしてKO-D・遠藤哲哉」
日本マット界で3大王座と言えば新日本のIWGP、ノアのGHC、全日本の三冠ヘビー級と言われるが、秋山は古巣・全日本を入れなかった。その理由はこうだ。
「今年のプロレス大賞で(三冠王者が)賞に入ってないから。MVPがIWGP、殊勲賞がGHC、技能賞がKO-D王者。それが今年の(マスコミの)みなさんの評価でしょう」
当然、この“秋山発言”は物議をかもしたが、秋山は一夜明け会見で「まあ、反響はあったほうがいいんじゃないですか」。あるいは批判も含め、すべてが計算済みなのか。
タイトルマッチに向けては「チャンピオンは僕にはないものをたくさん持っている。自分は(リーグ戦で遠藤に)負けている身なので。胸を借りるつもりで臨みたい」
周囲の選手に奮起を促しつつ、自分が誰よりも“挑戦”するマインドを持つ。51歳のチャレンジャーは、チャンピオンにとってかなり手ごわい存在になりそうだ。
文/橋本宗洋
写真/DDTプロレスリング