『料理するのは“お母さん”だけですか?ファミリーマートの「お母さん食堂」の名前を変えたい!~ 一人ひとりが輝ける社会に ~』。
「性別に基づくイメージや価値観を変え、一人ひとりが輝ける世界を実現するため」として、ファミリーマートが展開する惣菜などのプライベートブランド「お母さん食堂」の名前を変えるよう求めるオンライン署名キャンペーンが論争を呼んだ年の瀬。
思えば、2020年もネット上ではジェンダーの問題をはじめ、ポリティカル・コレクトネスをめぐる様々な論争、Twitter上のハッシュタグ運動が繰り広げられた。しかし、その過程ではしばしば、「リベラル」とされる人々の言動が「攻撃的」「不寛容」と批判されることもあり、本来的な意味での「リベラル」とはかけ離れてしまっているのではないか、との見方も少なくない。
そこで大晦日のABEMA『ABEMA Prime』では、いわゆる「リベラル」がいかにして建前から脱却し、前向きな社会変革に結びつけていくのか、当事者も交え話し合った。
・【映像】ひろゆきVS若手リベラル論客と考える"お母さん食堂"&ポリコレ
■参加者(50音順、敬称略)
・倉持麟太郎(弁護士、『リベラルの敵はリベラルにあり』著者)
・たかまつなな(時事YouTuber)
・中谷一馬(衆議院議員、立憲民主党所属)
・長谷川ミラ(モデル)
・ひろゆき(『2ちゃんねる』創設者)
・笛美(Twitterのハッシュタグ運動「#検察庁法改正案に抗議します」考案者として知られる)
■「お母さん食堂」論争とは何だったのか
笛美:私はこの署名運動を応援している。まず、ファミリーマートさんのホームページに掲載されている、「お母さん食堂」のボディーコピーを紹介させてほしい。“「家族の健やかな生活」を想って作った、美味しくて安全・安心な食事と食材を提供するブランドです。お客さまにとって「一番身近で美味しくて安心できる食堂」を目指しています。”とある。
つまり、この定義に対し、「お母さん食堂」という名前を付けたということだ。しかし今や約7割の世帯が共働きであって、料理を作るのはお母さんだけではない。政府の「男女共同参画基本計画」にも、“主たる稼ぎ手は男性で、女性は料理を作るもの”といった幼少期から根付いてる役割分担、無意識の思い込みみたいなものは変えていかなければいけないと書いてある。
ファミリーマートは全国に1万6000店があるので、子どもさんもいっぱい訪れる。そこで「一番安全・安心な食事を提供するのがお母さん食堂」と言ってしまえば“料理は母がするもの”ということが刷り込まれてしまうのではないか。そこに対して変えていきたいという声を出すということには賛成だ。
たかまつ:見ていて、騒ぎ過ぎじゃないかと思う。炎上しそうだなと思うようなことを堂々とやってしまうファミマにはセンスがないと思うが、単に買いたくない人は買わなければいいし、それでも美味しいし良いじゃんという人は買えばいい。つまり市場原理で淘汰されるということだ。
「言葉狩りだ」という反対意見があるが、結局、この運動も文脈が伝わらなければ意味がない。共働き世帯が増えている一方、まだまだ女性が家事の負担を強いられているという現状への問題提起のための運動なのだとしたら、ファミマに噛み付くのが有効だったのか、そこは疑問だ。
ひろゆき:仮に「お父さん食堂」だったとしたら、「うちではお母さんが料理を作っているのに、それを無視して“男の仕事”だ、シェフも男の仕事みたいになっているし”などと言う人も出てくるのではないか。お母さんはダメだ、お父さんはダメだ、お兄さんはダメだ、お姉さんはダメだ…と、性別に関する言葉が全部使えなくなっていく。そして、たかまつさんが言うように市場原理で淘汰されるという結論になるのであれば、そもそも署名運動による抗議そのものが必要なかったのではないか。
笛美:市場原理によって淘汰されるのは仕方がないことだと思うが、企業にとっては、理由が分からないままお客様が消えていってしまうのは困ると思うし、残酷なことだと思う。企業としても新しい価値観でアップデートしていきたいだろうし、自分たちを潰そうとするノイズではなく、これからの新しいクリエイティブを作っていくためのブラッシュアップのヒントにしていただけたらいいなと思っている。
ひろゆき:それは「新しい価値観を知っている私たちが企業に教えてやるぜ」という、“上から目線”ではないか。
笛美:食とジェンダーに関する議論は、たかまつさんがおっしゃった通り、コンテキストがすごく複雑だ。正直、この議論が今の日本できるとは全く思っていなかった。それでもこういう声が上がり、こうして皆で喋っている。それだけで女子高生たちがやったことの成果が出ていると私は思う。
長谷川:私の場合、服のブランドについてもフェアトレードを行っているのどうかを気にするし、どれだけ良い素材のものでも会社の代表が過去に差別的発言をしていたとしたら買わないようにしている。動物実験をしている化粧品ブランドのものは使わないという情報発信をすることで、そういうブランドが減っていけばいいとも思っている。だから三浦瑠麗さんが言っていることに賛成できないからAmazonプライムを解約するのもオッケーだし、応援してるタレントが出ているブランドを買いたいと思うのもオッケーだ。そういう風潮にしていかないと、リベラルも何もいい方向には進まない。
倉持:企業側から見れば、これは広い意味でのコンプライアンスの問題でもある。顧問弁護士などによる法律判断とは別に、この名前でいけば売れるかもしれないが、炎上するかもしれないという中で経営判断をするわけだ。企業が責任を持って判断した結果として客が消えたとしても、残酷なことだとは思わない。
これとは別に、端緒として高校生が問題提起できたこと自体はいいが、このハッシュタグに乗っからない奴は劣っているんだとか、敵なんだ、悪なんだみたいな、“全体主義的”な感じになっちゃうのは良くないと思う。
中谷:まさにポリティカル・コレクトネスの話になってくるが、人権を侵害されているような人たちがいて、直ちに救わなければならない状態なのであれば、そこは制度的なアプローチをしていくことになると思う。一方で、あるべき理想の姿はこうだが、現在は時代背景もあってこういう状態になっている、というものについては、緩やかにバランスさせることが必要だ。
「お母さん食堂」について言えば、“おふくろの味”というものが一般的に受け止めやすいものになっているのが今の日本社会ということだと思う。だからこそ、企業はマーケティング戦略として発信した。しかし時代が変わり、ジェンダー平等も進んで行く。私も家ではかなり料理を作っているので、娘たちからしたら「お父さん食堂」とか、“おやじの味”の方が分かりやすいのかもしれない。
そこは時代が理想に追いついていくのに合わせて緩やかに変わっていくことが大事であって、絶対にこうじゃないといけないというのでは苦しくなってしまう。そこのバランスを社会全体が寛容に考えられたらいい。
■どうすれば先鋭化せず、支持を集められるのか
2020年は「お母さん食堂」以外にも様々な論争、ハッシュタグ運動がネット上を賑わせた。
笛美:私は「主人」という言い方には、ちょっと主従関係を感じる。ただ、「主人」という言葉を使っている人を悪く言おうとか、ハッシュタグに賛同しない人を悪く言おうとは思っていないし、代わりに何と言えばいいのかと言われると、それも難しい。ただ、こういう問題があるよということを提起したいということだ。
ひろゆき:“お前”という言葉は、今は失礼な言い方だが、もともとは“御前(おんまえ)”であって、字面としては相手を尊重した言葉だった(笑)。
倉持:「貴様」もそう(笑)。
ひろゆき:「主人」だって、そこに自分と夫に主従関係があると思って使っているわけではないと思う。黒人という呼び方が良くないからネイティブアフリカンと呼びましょうね、というのは分かる。「主人」についても、他に正しい呼び方があって、こっちを使いましょうね、ということであればまだマシだが。単に面倒くさいことを増やすのは止めた方がいいと思う。
倉持:「家父長制の伝統へのこだわりがあるから主人と呼んでいるんだ」という人ではなく、「たまたま地雷を踏んじゃった」という人が超キレられた、みたいな話がすごく多い。そういう社会にしていかないと、支持を集めるのは難しいと思う。
こういう言い方をすると、またハッシュタグで批判されてしまうかもしれないが(笑)、もともと“左高右低(さこううてい)”、つまり全共闘みたいな、左派と呼ばれるのは高学歴の人たちが多く、基本的にはエリート主義的なところがあったと思う。そして間違えたことに対しても、“この領域に達していないんだったら、お前らはダメだ”みたいな厳しい感じもあったと思う。
現在でも“カッコつきリベラル”、つまりリベラルっぽい人たちは攻撃的だ、という話があるが、やはり人間というものは間違えるものだし、自分たちが考える“正しいと思うこと”を間違えちゃったとしても、すぐに許すということが大切だ。
たかまつ:特定の領域について運動をしている人は、それだけ思いも深くなるので、使われた言葉にもすごく気を使う。こういう言い方をすると誤解を生んでしまうとは思うが、その意味で、私はフェミニストの人たちがちょっと怖い。ちょっとした言葉遣い一つでものすごく怒るし、人格攻撃じゃないかと思うものさえもある。私だって男女平等、女性活躍は推進すべきだと思うけど、それを言うのは怖いな、止めとこうかなと。
同じように、「主人」という言葉についても、何かよく分からないけど怒られるかもしれないから「パートナー」と言おうかなと思っている人も多いのではないか。でも、それって本質的なのかなと思う。“男女の不平等をなくしたいから”ではなく、“炎上しないから”という理由で言い換えるなら、かえって問題に蓋をしていることにはならないか。
ひろゆき:昔から「言葉狩り」をする人はいたと思うが、“こいつめんどくせえな”で終わっていたのが、最近ではポリコレやコンプラ違反といった正当性の武器を与えてしまった。そう言われると、とにかく直さないといけないと説得されちゃう頭の悪い人も増えちゃったので、結果として面倒くさい人の意見が通っちゃうというのが増えちゃったと思う。
倉持:「リベラル」というパッケージがあり、そこに記号がいっぱい入っているイメージだ。だからそこから外れると、「ジェンダーの問題については怒らないといけない」とか、「リベラルのくせにそんなこと言うなんて」ということになる。本当のリベラルならば、パッケージなんて作ってはいけない。むしろパッケージの中身を新陳代謝させないといけないのに、全ての条件を満たさない人はリベラルじゃないと。それはリベラルというよりも左派だ。自分たちが考えていることが最も正しく、そうじゃない考え方を持った人たちは敵だから攻撃する。そういう性質があると思う。それが政治との相乗効果で、どんどん先鋭化している。
中谷:ハッシュタグの運動に関して言えば、内閣委員会で黒川検事長に関する質問をさせていただいた議員の1人として、検察庁法の改正案の問題について市民の皆さんが声をあげていただいたことは奏功したし、非常に良い事例なんじゃないかなと思っている。GoToに関しても多くの方が良い印象を持っていないという状況があるし、そういう中で感染拡大を抑えていかなければならない。
また、安倍首相の辞任を求めるハッシュタグがあったが、秘書さんだけが辞めておしまいみたいな感じでは皆は納得しないだろうなというところはよく理解できる。“野党は桜ばっかりやって”みたいな批判を与党サイドの方からよく受けることがあったが、実際、国会で118回も嘘をついたし、全く議論がかみ合わなかった。あれだけ議論がすれ違ってしまえば当然、僕たちも繰り返し質問することになる。
■日本には本当のリベラル政党、保守政党は存在しない
その一方で、メディアに“リベラル政党”と括られることも多いことについて中谷議員には違和感もあるようだ。
中谷:枝野さんも「私は保守本流だ」「30年前の自民党宏池会に近い発想をしている」と仰っているし、自分たちのことをステレオタイプ的「リベラル政党」だと思っている立憲民主党の議員は少ないんじゃないか。保守本流のど真ん中の方もいれば、自民党や維新の党からいらっしゃったような穏健中道のような方も多いし、もちろん旧社会党出身で、多様性を重んじ、正論をおっしゃるリベラルの方もいらっしゃる。そういう、多様な政党であるということは皆さんにぜひご理解いただけたらうれしい。
自民党だって清和会のようなタカ派から宏池会のようなハト派まで幅広く人材はいるが、安倍さんたちが保守本流だということには違和感がある。非常な変革をされようとしているという意味で言えば、保守的な価値観を持っているかというと、僕はかなり懐疑的だ。ただし、自分はリベラルだ、保守だというアイデンティティやイデオロギーで政治をしている同世代の政治家は極めて少ないと思う。僕自身も、解決手段として、これはリベラル的なアプローチが重要だねとか、これは保守的なアプローチが必要だねと、ケースバイケースによって手法の在り方は当然変わってくるものだと思っている。何かが絶対的な価値というよりも、柔軟で、寛容であるべきだと思っている。
倉持:私は自分のことをリベラルだと思っているが、立憲民主党とは一緒にして欲しくない。先程も言ったように、そもそも人間とは間違えるものだよね、だから自分の自由を尊重されたかったら、相手の分も尊重しようというのがリベラルだからだ。だからこそ権力というものは信頼できないし、制度をちゃんと担保しよう、そのための議論をしようという姿勢になるはずだ。しかし今の立憲民主党は、完全に執行部の独裁、いわば“全体主義政党”になってしまっている。“立憲”でも“民主”でもなくなっている立憲民主党が「リベラル政党」と呼ばれてしまうのは、本当のリベラルなら嫌がるはずだ。
逆に言えば、今の日本には保守政党もないと思う。自民党は保守じゃないのか、と思われるかもしれないが、元はといえば戦後の経済成長と反共産主義でまとまった、政権を安定的に運営するための塊だったし、その二つが無くなってきている今、ただ単に現状を“保守”するだけの政党になっているからだ。本当の保守主義、保守政党であれば保守すべき理念があり、そのために変わっていかなければならない。家父長制や男系の皇室にこだわっているように見えるが、それは日本の数少ない伝統がこのまま滅んでもいいような政策を取り続けているということでもある。そういうところを見ても、保守とは言えないだろう。(ABEMA/『ABEMA Prime』より)
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