長過ぎる労働時間やストレス、そして体内世界を不安に陥れるウイルス――。自分の体について考えるべき現状において、実にぴったりのアニメ作品が2021年1月からスタートする。その名も「はたらく細胞BLACK」だ。2018年に放送され、同時期に第2期が始まる「はたらく細胞!!」のスピンオフ作品ながら、作風はかわいらしい「はたらく細胞」の世界観とは正反対で、細胞が働く環境も実に過酷。取り上げるテーマも喫煙、飲酒といった大人向けのものになっている。赤血球(AA2153)役の榎木淳弥、白血球(1196)役の日笠陽子は、連続放送となる「無印」に対抗心バチバチ。その強い意気込みを聞いた。
―今年4月に制作が発表され、ついに放送間近となりました。今の心境をお願いします。
榎木淳弥(以下、榎木)
世間のみなさんには「はたらく細胞」の印象が強いと思いますが、「BLACK」は予想がつかないぐらいダークです(笑)なんとなく「悪い方の体の話かな」ぐらいに思われている気がするので、その世界観に驚いてもらえるんじゃないかと楽しみです。
日笠陽子(以下、日笠)
オーディションを受けて、合格したと聞いてからアフレコにいたるまでも結構時間がありました。PVの収録からアニメ本編のアフレコまでも時間がありました。今は早くみなさんに見ていただきたいなというワクワクが止まらないですね。
―オーディション当時の思い出はありますか。
榎木
「はたらく細胞」のクリーンな世界観は知っていたので、真逆の作品をやるんだというところで、より大人の方にも楽しんでいただけるような作品なのかなと思っていました。だからオーディションでは、激しいシーンはかなり激しくやったのは覚えています。
日笠
「はたらく細胞!!」自体、作品はもちろん知っていました。実は私、「はたらく細胞」の方にはオーディションも受けたんですが、みなさんご存知のように出てないんです。落ちました(苦笑)でもそれはきっと、「BLACK」に出るためだったのだと、運命だったんだなと思えるようなオーディションでした。
―実は「はたらく細胞!!」で白血球(好中球)を演じている前野智昭さんから、日笠さんに向けては「BLACKのような仕事は任せた」という主旨のコメントをいただいています。
榎木
あー、やっぱり日笠さんはぴったりだと。
日笠
ちょっとー!榎木くんも、つだけんさん(津田健次郎=ナレーション担当)も、“BLACK寄り”なんだよ。
(一同爆笑)
榎木
津田さんはそうですけど、僕はどっちでも…。
日笠
いやいやいや、明るい世界のタイプの人間ではないよ。陰の方よ。
榎木
あはははは。そう言われれば、3人ともそうかもしれないですね。いつも現場でも黒い服ばっかり着ているし。(笑)
―そんな中、今回は「はたらく細胞!!」と「BLACK」が連続で放送されることになりました。この点については、いかがですか。
榎木
一番おもしろいなと思ったのが、「はたらく細胞!!」の1話目が「たんこぶ」なんですよね。かわいいなあって。
日笠
たんこぶ!?本当に!?
榎木
たんこぶを治すお話なんですよ。その後に「BLACK」という流れが、めちゃめちゃおもしろくて。
日笠
やばいね。たんこぶを治す…。発想が違いすぎて処理が追いつかなかった…。
榎木
その差がすごいんですよ。我々、1話目が「喫煙」ですから。取り扱う病気とか、ケガの差がすごいし。どっちも勉強になるお話が多いので、1時間連続放送というのは、いろいろな側面から体を知れていいなと思いました。
日笠
私は「はたらく細胞!!」をライバル視しています(笑)ずっとしていますから。子ども向けみたいな空気出してるし、あいつら(笑)おれたちは子ども向けで「体操しちゃうぞ♪」みたいな感じ。
榎木
ありますね…。
日笠
それが許せない!(笑)こっちは血だらけで、血反吐を吐いてやってるぞ!みたいな。
榎木
こっちは毎回、絶望しますからね。
日笠
だいたい次の病気になって終わりますから(笑)なので、向こうが子ども向けにどんどん特化していく分、こっちはもっと大人向けに特化していくというか、振り切っていきます。働いている大人に見ていただきたい作品ですね。本当に真逆を貫いているし、原作よりも結構、エグくなっているかもしれないです。
榎木
そうですね。絵柄も原作は初嘉屋先生のタッチがちょっと鉛筆っぽくて柔らかいんですが、それがよりアニメでは辛い感じになっています。
日笠
辛いのも身に覚えがある人がいっぱいいると思うんだよね。
榎木
そうですね。サラリーマンの方とかは、会社の縮図を見ているようかなと。体のことなんですけど、結構働いている人にとって共感できるお話でもあります。
―「はたらく」ではなく「働け」という感じでしょうか。
日笠
そう、「働け!」って感じですよね。命令みたいな。向こう(はたらく細胞!!)はそんな感じじゃないんでしたっけ?働け感、ないのかな。
―「頑張るぞー!」「おー!」みたいな感じです。
日笠
頑張るぞ!?頑張るぞだぁ!?
榎木
めちゃくちゃライバル視してる(笑)
日笠
こっちは毎回一大事だからね。
榎木
しかもあんまり解決しない(苦笑)治るっちゃ治るんですけど、すぐに薬飲むから。
日笠
そうなの!それなー!
榎木
薬慣れしちゃってるんですよね。
日笠
そう。だからすごく薬に詳しくなったよね。この病気にはこれとか。
―「はたらく細胞」シリーズに関わると体に詳しくなるのが“あるある”のようです。
榎木
より気をつけようと思いましたね。
日笠
そう。もし私の体の中にいる赤血球と白血球が、「BLACK」のあの顔で働いていたら、かわいそうすぎる。
榎木
むちゃくちゃ酷使されますからね。
日笠
だから、みんなお酒は控えめにしてほしいし、たばこやエナジードリンクも体の影響をきちんと認識してほしい。
日笠
あと「クラリス」っていう抗生剤を飲むシーンがあるんですが、私、よく喉を痛めた時に処方されることがあって、名前を知っていたんです。これは助けてくれる存在ではあるんですけど、いろいろ考えた方がいいなと思いましたね。飲み過ぎちゃいけないなとか。体の菌、細胞について考えるようになりましたね。
―では、打倒「はたらく細胞!!」の気持ちが高まったところで、最後にファンの方にメッセージをお願いします。
榎木
ブラックな内容ではありますが、見ていて笑えるシーンもありますし、キャラクターたちはすごく必死に働いていますが、やっていることがおもしろくて思わず笑ってしまう部分もあります。勉強になるだけじゃなくて、見ている人の娯楽というか、楽しみになってくれればと思います。本来、お芝居とはそういうものだと思いますので。ぜひ見てください。
日笠
内容的には大人に刺さる作品です。日本人といえば働きすぎ。ブラック社会、ブラック企業っていう言葉が出るのは日本ならではという気もします。それを踏まえると、日本の大人の方に見ていただきたいし、ブラックな企業で働いていらっしゃった方や、働きたくなくて明日から月曜日で嫌だなという人がいると思います。ただこの作品を見ると、赤血球が頑張る姿や、「それでも働かなきゃいけないんだ!」っていう言葉に励まされるというか、また明日も自分の体の中の子たちが頑張っているかもしれないから、自分も頑張ろうと思ってくれたらいいなと思います。
健康という意味合いのアニメーションでもありますが、働くっていうことはなんなのかと哲学的に問いかけている作品でもあるので、頑張る大人のサプリメントになれればと思います。
◆はたらく細胞BLACK 2015年から月刊少年シリウスで連載された、清水茜による漫画「はたらく細胞」のスピンオフ作品。2年前にアニメ化された「はたらく細胞!!」は、かわいらしい世界観の中、体内で起こる様々な現象、細菌などとの戦いが描かれているが、「BLACK」は喫煙、飲酒、睡眠不足などにより、劣悪になった体内環境が舞台になっている。
(C)原田重光・初嘉屋一生・清水茜/講談社・CODE BLACK PROJECT