この1年ほどの東京女子プロレスにおいて、最も成長した選手の1人が上福ゆきだろう。 もともとはモデルとして活動し、プロレスについての知識がないところから入門。いわゆるプロレスラーらしさとは縁遠く、得意技は“目突き”という個性派にも程があるタイプだった。基本の前に“自分らしさ”があると言えばいいだろうか。
しかしドロップキックの打点の高さなど能力の高さを感じさせる部分もあり、強い個性に基本が加わって上位戦線へ。2020年はトーナメントを勝ち抜いてインターナショナル王者となり、また路上プロレスでも知名度を上げた。
1.4後楽園ホール大会では、後輩であり同い年、同じ大学出身の桐生真弥と組み「東洋大タッグ」でタッグ王座に挑戦した。人見知りかつメイクや服装に無頓着だった桐生にプロレスラーとして、人前に出る仕事としての心構えを解く姿もまた上福の成長を感じさせた。
といって単に上福が主、桐生が従というわけでもなく、このタッグ王座挑戦は桐生が言い出したことでもある。上福に刺激を受けて桐生が伸びているのは間違いないが、上福もまた桐生との関係性の中で変化している。
連携、合体攻撃を何度か見せた東洋大タッグ。上福はドロップキックでユキのダイビングショルダータックルを迎撃する場面もあった。そのタイミングは抜群。さらにビッグブーツは飛び上がって蹴り込む形になってから迫力が増している。路上プロレスでクロちゃんにナメめられたその脚は、真っ当な意味で彼女の最大の武器なのだ。
だがチャンピオンの「爆れつシスターズ」天満のどか&愛野ユキのタッグ力はチャレンジャーを上回る。2人は本当の姉妹であり、プロレスラーになる前どころかユキが生まれた時からの“タッグ”。ベルトを巻くまでに時間がかかったが、だからこそチャンピオンになってみると磐石の雰囲気が漂う。
初防衛戦ならではの難しさも感じたようだが、合体技「爆れつブルドッグ」を決めるとフィニッシュはのどかのキルスイッチ。粘る桐生を仕留めた。
「かみーゆ(上福)が強いのは分かってたけど、真弥がカチカチ山で木に火がついたみまいになってた」
のどかは挑戦者チームについてそう語っている。確かにこの試合は桐生のキャリアの中でベストバウトだった。印象深いのは対戦相手に必死に食らいつく姿勢だ。自己主張せず、それが試合ぶりのおとなしさにもつながっていた感のある桐生だが、大舞台でのタイトルマッチでは燃えないわけにはいかなかった。
のどかの「かみーゆが強いのは分かってた」というのもリアルな実感だろう。上福は路上プロレスでの自分を「東京女子プロレスの客寄せパンダ」と表現する客観性を持ちつつ、その東京女子じたいも盛り上げている。
試合に敗れ「悔しい!」という桐生に「いつも同じテンションだった真弥が悔しいって言ったくれたのが嬉しい」と上福。
「見た目も綺麗になって、感情も出して、ゆきみたいな仲間と感情を共有できるのが嬉しい」
桐生は自分でも「この数ヶ月、めっちゃ成長できたと思います」。すると上福は「そういうのは他人に言われること!」。実は上福が団体で一番大人なんじゃないかとも思わせる。そんなところも東京女子プロレスの面白さなのだった。
文/橋本宗洋
写真/東京女子プロレス