個人や小規模事業者がECサイトなどを介して消費者と直接つながるビジネスモデル「D2C(Direct To Consumer)」が今、注目を集めている。
最大の魅力は、広告やマーケティングなどのコストを削減できること。そのため、アパレルやコスメなどを中心に活用が広がっている。
■「副業で作り始めた水着を深田恭子が」「ECとの違いは“双方向”」
D2Cビジネスに詳しいフラクタ代表の河野貴伸氏は、既存のECとの違いは“双方向”と説明する。
「実店舗や中間業者がない分コンパクトに、そして低リスクで始められる。また、対象となるお客様が明確に定義されるので派手に売りに走ったりせず、着実にビジネスが展開できる。そして単に商品を販売するだけではなく、体験も販売するので、顧客満足度が上がり熱狂的なファンを作ることができる。特に若い方々の中にはサステナビリティやエコに共感も広がっている。直販の場合、単に商品を置いて売っているだけになってしまうが、D2Cなら顧客の声を取り入れて商品を改良することもできる」。
水着販売のD2Cブランド「88°F SWIM」の渡部里美さん(32)の本業は薬剤師。3年ほど前、“尻トレブーム”、“フィットネスブーム”がメディアで取り上げられているのを見て、「ブラジリアンカット」と呼ばれる、お尻の部分が強調されたちょっとニッチな水着の商品化を思いついたという。
商品の製造だけは業者に依頼しているものの、宣伝はインフルエンサー、Instagramを活用しているため、広告代理店は不要だ。販売はネットショップの「STORES」を利用、わずか1年ほどで、深田恭子が写真集で着用するほどのブランドに成長した。
■“応援してます” ニッチな商品でも売れる?
顧客と直接つながることができるため、ニッチな商品でも着実に売れるというのも特徴だ。
「HANARIDA」のKENTさん(23)が花言葉から花を選べる本の販売を始めたのは大学4年生のとき。「花って1週間くらいで枯れてしまうので、だったら発売期間も“枯れて”いいのかなと思って」と購入できる期限を1週間に設定した。この独自の世界観が受け入れられたのか、売上は130万円を記録したという。
また、左利き向けの文房具やキッチン用品を扱う「左ききの道具店」の加藤礼さん(41)は「Twitterで知ってくれるお客さんが一番多いと思うが、感想を積極的に聞くようにしている。お手紙を郵送で頂戴することもある。“応援してます”という声をたくさんかけてくれる」と話す。
■サブスクリプションとの組み合わせも
そんなD2Cブランドの一つ、「GREEN SPOON」は、顧客の生活や体質にマッチした食材をスープやスムージーの形で販売している。担当する具嶋友紀さん(28)の前職は、『ABEMA Prime』の番組ディレクターだ。「経済や流行、色々な人の取材をさせてもらう中で、自分でもやってみたいという思いが出てきた。そして、仕事をする上で、健康でありたいと思っていたし、ハードに働く人が手軽に食べられる健康的な食品がないかと思っていた。そんな時に社長に声をかけてもらった」。
「GREEN SPOON」はプランを選択すれば商品が自宅に届けられるサブスクリプションモデルを採用、「日本サブスクリプションビジネス大賞2020」ではシルバー賞を受賞した。
「コンビニや百貨店に卸す場合、この価格では絶対にできなかった。それがD2C、サブスクリプションで買ってもらうことで、通常なら苦しい原価率でも事業として成り立たせることができる。去年の3月に始めた事業だが、コロナで社会のあり方が変わってくるタイミングとマッチしたということもあり、比較的スタートがうまくいった。飲食店の場合、どうしてもその日その日の売り上げや従業員の時給換算といった部分で見ることも多いと思う。しかしD2Cならお客さんが将来どれくらい使うのか、LTV(Life Time Value)を見てロングスパンで事業を描くことができる。投資やサービス開発の観点でもメリットが大きい」。
■情報感度の高い人にしか届きにくく、規模拡大が難しい?
さらにD2Cが普及した市場においては、これまで中間を担っていた広告代理店などが変容を迫られることになるという。「言い方は悪いが、右から左に流しているだけの中間業者は仕事がしづらくなっていると思う。その一方で、イベントを開催するなど、場作りをするような中間業者、D2Cブランドをプロデュースしたり、D2Cブランド同士をつなぎ合わせたりする部分でビジネスを作っていく会社が残ってくる」(河野氏)。
また、リディラバ代表の安部敏樹氏は「百貨店のようなリアルな店舗、楽天のようなプラットフォームは届けるコストの部分を一緒に負担してくれるので、より普及しやすいという側面がある。しかし情報感度の高い人にしか届きにくく、世界観を維持したまま事業として規模感を出すのが難しいし、広告やマーケティングにコストをかければかけるほど、その分だけ原価を下げなくてはいけなくなる。“どこまで伸ばせるか”、という点が課題として出てくるだろう」と指摘する。
前出の河野氏も「共感してくれる一定数の顧客と深い関係を築く、という部分を重視した手法なので、逆に広く速く認知獲得させるのは難しいところがある。変に広げてしまうことで、インディーズレーベルのミュージシャンがメジャーになって人気がなくなる、というのと同じような現象が起きてしまう可能性もあるのが難しいところだ」との見方を示した。
バラの栽培から製品の企画・開発、販売を手掛ける「ROSE LABO」代表の田中綾華氏も、D2Cを活用しているといい「以前は法人に卸し、小売店に販売してもらっていたが、それだけではお客さんが本当に満足してくれているのか、なぜ私たちのブランドを知ってくれたのかといったことがヒアリングできなかった。一方で、やはりリアルで体験できる場も必要だ。匂いを嗅げる、試食ができるというのは、大きな店舗の価値だ。EC、D2Cとの両立が一番強いと思う」と話していた。(ABEMA/『ABEMA Prime』より)
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