「キャンセル・カルチャー」は社会をより良い方向に導くムーブメント? それともネットを利用した弾圧? 石川優実氏と考える
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 「文化的配慮を怠った」「環境に優しくない」「差別をした」などの理由から、SNS上で頻繁に巻き起こっている企業や個人に対する糾弾、そして不買運動。

・【映像】SNSで広がる不買運動&キャンセルカルチャー #KuToo石川優実と議論

 それらは「キャンセル・カルチャー」と呼ばれ、昨年にはAmazonがある国際政治学者をCMに起用したところ、Twitter上には「#Amazonプライム解約運動」というハッシュタグとともに、「徴兵制主張者をCM起用する外国企業への不買運動に賛同します」「この人を起用するなんてがっかり!」といった意見が投稿された。

 運動への賛同者たちがとりわけ問題視していたのが、国際政治学者が著書の中で軍国主義への回帰ではなく、国民の間に負担共有の精神を甦らせ、平和を担保し、戦争を抑止するための試みとして徴兵制の象徴的な意義を問い直していた点だった。論争からまもなく、Amazonは「当初の予定通り」としてCMの放送を終了した。

 こうしたキャンセル・カルチャーは企業活動や社会をより良い方向に導くムーブメントとなるのだろうか。それともネットを利用した“弾圧“なのだろうか。

■参加者

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・石川優実 (フェミニスト/アクティビスト、『#Kutoo』運動の発信者)

宇佐美典也(元経産官僚、コンサルタント)

乙武洋匡(作家)

・佐久間由美子(米国在住の文筆家、著書に『Weの市民革命』)

夏野剛(慶應義塾大学特別招聘教授、ドワンゴ社長)

・はましゃか(マルチクリエイター)

平石直之テレビ朝日アナウンサー)

・渡辺瑠海(テレビ朝日アナウンサー)

■アメリカで先行する「キャンセル・カルチャー」

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まず、アメリカでの「キャンセル・カルチャー」の動向について佐久間氏に話を聞いた。

佐久間:アメリカには人種差別やヘイト発言などを直接的に糾弾する「コールアウト・カルチャー」があり、それとは異なる方法として登場してきたのが「キャンセル・カルチャー」という言葉だ。

具体的にはトランプ大統領に政治献金を行ったホーム・デポに対する不買運動、Black Lives Matter(BLM)のムーブメントへの連帯を表明しようとする従業員がBLM商品を着用するのを禁じようとしたスターバックスへの不買運動などが挙げられるし、奴隷制があった時代の偉人の銅像が破壊・撤去されたりしているのもその一つの例だ。

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乙武:全ての事例を同一に論じるのは難しいと思う。例えば企業がトランプ大統領に政治献金するのも、トランプ大統領のことが嫌いな人がその企業の商品を買うのをやめるのも、それぞれの自由だろう。一方で、従業員が政治性を出すことの影響を企業が懸念するのは当然だろうし、そこに対する不買運動は、むしろBLMを応援することを企業に強いることにも繋がってしまう。それはさすがにやり過ぎなのではないか。

宇佐美:これは古くて新しい問題だ。日本にも“糾弾”という文化のようなものがあったし、自分は声を上げているだけ、買うのをやめただけ、というのはいい。ただ、“この不買運動に参加しない人は悪です”というようなレッテル貼りをして、自分とは異なる意見を潰そうとするのは問題だと思う。

佐久間:キャンセル・カルチャーという言葉が、どちらかと言えば“そういう言動はけしからん”と思う人たちが作った言葉だというのがポイントだと思う。そもそも不買、あるいは購買によって自らの意思を表明するのは、アメリカでも日本でも昔から行われていたことだし、キャンセルしろ、潰せということでは全くない。もちろん、そういうことを言っている人が一人もいないとは言わないが…。

■石川氏“賛同している人は表明してほしい”という意味だ

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日本で記憶に新しいのは、ストッキングやタイツを製造するATSUGIが人気イラストレーターとコラボして制作した女性のイラストの問題だ。これらが性的な描写を連想させるなどとして批判が殺到、同社はイラストを使ったキャンペーンを1日で取りやめた。「#KuToo」署名発信者の石川優実氏もATSUGIを批判するキャンペーンに賛同した一人だ。

石川:私がATSUGIの運動に賛同した理由は大きく三つある。一つ目は、私は思ったことをつぶやくスタイルだから。このときも単に自分の“表現の自由”を行使したということだ。二つ目は、あのPR方法が社会に与える影響の大きさを考えれば、個人の好き嫌いの問題ではないと感じたから。三つ目が、タイツを履いている=エロいという風潮によって、女性が安全にタイツを履く権利が侵害されそうで怖いと感じたから。わざわざTwitterでつぶやいたのも、それが私一人の問題ではないということを社会にもATSUGIにもわかってほしかったから。

ただ、“買うな”と他人に強制したことも、“買う人は悪だ”と言ったこともない。“賛同する人は表明をしてください”と言っただけだ。その数が大きくなっていくことで、“だったらこれは問題かもしれない”と皆が思うということだ。そもそも賛同しないのなら表明する必要もない。

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平石:自分に賛同してくれる人がたくさんいた方がATSUGIにも知ってもらえる、という考えでやっていた。つまり自分の“不買行動”が他人を巻き込んだ“不買運動”になっていくことを望んでいたのであれば、やはり石川さんは運動、ムーブメントを率先していたということではないか。

石川:“賛同してほしい”ではなく、“賛同している人は表明してほしい”だ。おかしいと思った人がどれだけいるのかが可視化されることによって、“消費者の1人がわがままを言っているな”と済まされてしまったかもしれない問題が、ようやく議論につながっていく。

平石:私は運動そのものを否定しているわけではないが、ボイコットではなく、バイコット(購買運動)という考え方もある。ネガティブな方向、潰そうという方向ではなく、ポジティブな方向、よくやっているところを応援したり、提案したりする形にした方がいいのではないか。

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宇佐美:“これはダメだ”という方向性のままでは、受け止めた側は“自分たちは攻撃を受けている”と感じ、反発してしまうと思う。アメリカの分断も、それによって起こっていると思う。そうではなく、“これを増やしていこう”という方向性の方が効果もあることが実証されている。

石川:別の企業のタイツを買おうという動きもあったし、どちらもやればいいのではないか。

■「優しい表現の方がいい」は「トーン・ポリシング」だ

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石川氏は去年、ラジオ番組で「コロナで貧困に陥った女性が風俗に」などと発言した芸能人に対し謝罪や出演番組からの降板を求める声が上がっていたことを受け、その芸能人を起用した上で、女性の貧困問題やフェミニズムについて学べる番組を制作・放送してください、とするキャンペーンを立ち上げてもいる。 

石川:私は降板や謝罪を求めるキャンペーンにも署名したし、そのように思っている人がたくさんいるという表明も必要だと思っている。同時に、何が問題点かがわからなかったという人も多かったと思う。私自身、セックスワーカーについての勉強が足りていない部分もあった。そうだとしたら安易に批判することはできないし、自分も同じような発言をしてしまう可能性もある。それなら彼に謝罪や降板を求めるよりも、彼と一緒に学べた方が良いのではないかと考え、署名を立ち上げた。反響をいただいた。

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平石:ご本人は謝ってらっしゃるのに「#○○学べ」というハッシュタグだった。短い方が刺さりやすいとは思うが、“○○さんと学ぼう”というように、もう少し優しさがあっていいとは思う。

はましゃか:それはよく言われる「トーン・ポリシング(主張の内容でなく話し方や態度を批判すること)」ではないか。運動している人たちに対して、もう少し柔らかい言い方にしろ、というのがあるが、言い方は自由ではないかということだ。

石川:私もそう思う。丁寧に言っても全く聞いてもらえなかった女性たちへの差別の問題は今も続いている。芸能人本人の謝罪も聞いたが、そもそも何が問題なのかわかっていないのだろうなと感じた。本当は自ら学ばなくてはいけなったことを学ばないまま番組で女性を傷つける発言をした人に対して、“学ぼう”では優しすぎるし、“学んで下さい”とお願いするようなことではない。“いや、これは学ぶべきことだよ”という思いを表現しようとした言葉だ。言い方は自由ではないか。

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乙武:僕も頭に血が上ることがある。差別的な表現で批判された『新潮45』の記事を読んだ時には“ふざけるな”と思ったし、なんなら「廃刊になれ」という、キャンセル・カルチャーに近い感情すら抱いた。あの時ムーブメントやキャンペーンがあれば、賛同してもおかしくないくらいの気持ちだった。しかし本当に廃刊になってしまった後、なぜあの記事が出てしまったかを検証して、それを記事にして掲載すべきだったと思えるようになった。だからこの石川さんの行動を批判することはできない。

一方で、僕はこの中で唯一、キャンセル・カルチャーによって“キャンセル“されたことのある人間だ。「嫌だという個人の見解、感情を伝えているだけだ」というのはその通りなのだろうが、キャンセルされる側にとっては、小石でも無数に飛んでくると瀕死の重傷を負ってしまう。もちろん小石を投げる権利はあるが、それが無数に飛んでくる側の立場を考えてから投げるべきだと思う。

平石:佐久間さんも“潰す気はない、気付いて欲しいだけだ”とおっしゃったが、どのくらいの量の小石が飛んでいくことになるかは分からない。そこをコントロールできない以上、“潰す気はないと”簡単に言いきれるのだろうか。

佐久間:相手が一人の人間なのか企業なのかは違うし、現実の社会ではキャンセルされた会社が潰れるということはそこまで起きていない。あくまでも受け止めた側の企業が判断すればいいことだと思う。例えばATSUGIさんとは別の企業が“うちはこうやります”と言うことで売上が伸びるという、資本主義経済のような部分も出てくると思う。

■インフルエンサーの責任とは?

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慶應義塾大学の大屋雄裕教授(法哲学)は、キャンセル・カルチャーとSNSの相乗効果について次のように懸念を示す。「Twitterであればリツイートボタン一発だ。本来、それができることは悪いことではなかったが、深く考えずに反射的に軽くやってしまう。中にはこれまで商品を買ったことがない人、そもそも買うつもりもない人が大量に含まれている可能性もある。これはやはり運動としての本質を歪めてしまっていると思う」。

平石:石川さんはインフルエンサーとして、普通の人以上に影響力を持っていると思う。だからこそ、できればポジティブで、分断を生まない方向に導いていってもらえるといいなと思う。

はましゃか:石川さんのような発信をする人は、バッシングを受けることを前提に、覚悟を持ってやっていると思う。

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宇佐美:そうだったとしても、自分を信じている人たちの中には攻撃的な人もいるということを自覚してほしい。僕は石川さんの名前をTwitterで出さないようにしている。それは、石川さんに触れると攻撃的なリプライが来ると思ってしまうからだ。

石川:人に対してひどいことを言っている人を見かけたら、ちゃんと注意している。

渡辺:では、不買運動が世の中にどのくらい影響を与えているかということについてはどうか。問題提起のつもりでも、インフルエンサーが強い言葉を使うことによって、フォロワーや支持されている方の意見がもっと強くなってしまうこともあると思う。

石川:まずは問題点を知って欲しいというのが目的なので、結果がどうかまでは考えていないし、自分で思ったことを自分の意思で発信するわけで、そこは個人個人の責任でやるべきだと思う。私も誰かに影響を受けることはあるが、行動については自分の責任だと思っている。もちろん、不法行為などをしている人がいれば、ダメだと言う。

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佐久間:石川さんの発信に賛同した人たちの多くは、もう少し女性の気持ちを反映して欲しいといったことが伝えたかったわけで、ATSUGIを潰そうなどと考えていたわけではないと思う。あくまでも社会をもうちょっと女性にやさしい場所に変革しようという運動の一環であって、運動が大きくなるにつれて派生して出てきた攻撃も含めて石川さんの責任だという意見には違和感がある。

確かにSNS時代になったことで、安易に乗っかる人が出てきているのは確かだと思うが、市民運動というのはそれぞれが自分の意思で参加するからこそ意味がある。そもそも何のために声を上げたのか、というところから気を逸らされない方がいいと思う。

夏野:経営者としてはキツい。ATSUGIの場合も、意図的にやったわけではないし、プランを考えて作ったのも広告代理店など社外の人たちだ。それにGOサインを出したことが不買運動まで繋がるとは想像もしていなかったと思う。もちろん、世の中の流れを読み切れていなかったという問題はあるが、一方で大企業のことを叩けるからと乗っかってくるような人もネット上にはいっぱいいる。そういうことも踏まえ、最近ではリツイートした人も責任を負う、という流れに変わっては来ているが。

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乙武:年末にはファミリーマートの「お母さん食堂」というネーミングを変えてくださいという動きがあった。もちろんヘイトやフェイクを含むものは無くしていかなければならないが、僕は多様性や、選択肢をいかに増やすかということ考えてきた人間なので、あれもやめよう、これもやめようでは、どんどん選択肢が少なくなってしまうと思ってしまう。そうだとしたら、女性、母親に役割が固定されないよう、「お父さん食堂」を作ろう、と呼びかけた方が良かったのではないか。

あるいはルッキズムに反対する人たちがミスコン、ミスターコンの廃止を提案していた。これも気持ちや論理は理解できるが、僕はビジュアルという評価軸のコンテストがあるなら、別の評価軸のコンテストも立ち上げていこうという提案をした方が豊かな社会になると思う。つまりキャンセル・カルチャーではなく、カウンター・カルチャーを作っていく方がいい。(ABEMA/『ABEMA Prime』より)

▶映像:SNSで広がる不買運動&キャンセルカルチャー #KuToo石川優実と議論

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