驚異の、そして脅威の50代だ。パンクラス創始者の1人である船木誠勝が、ノアのリングで圧倒的な実力を誇示した。武藤敬司、丸藤正道らイニシャルMの強豪が集まるユニットM's Allianceのメンバーとしてノアに参戦している船木は、2月12日の日本武道館大会で拳王が持つGHCナショナル王座に挑戦する。
武道館大会に向けての最後の前哨戦と位置付けられた1月31日の後楽園ホール大会では、両者がタッグマッチで対戦した。パートナーは拳王が征矢学、船木は田中将斗。やはりM'sメンバーの田中だが、オールドファンにはたまらない、かつ信じられないタッグでもある。新日本プロレスでデビューしUWF系で活躍、ヒクソン・グレイシーとも対戦した船木に対し、田中はFMW出身。田中自身も「歩んできた道が正反対」と言う。そんな2人が2021年に、しかもノアでタッグを結成するのだから感慨深い。
「タッグとして成立するのか」という不安もあったという田中。しかしいざ試合をしてみると「心強かった。危ないと思う場面はなかったですね」。48歳にして最前線で活躍、1日にZERO1で世界ヘビー級王座を奪還したばかりの田中はもちろん、船木のコンディションも抜群だった。
1969年生まれ、51歳の船木は拳王と対峙すると打撃、テイクダウンと妥協のない攻防を展開。マウントポジションから腕十字を取り、拳王をロープエスケープさせる。ここは船木の土俵とも言える部分だったが、拳王も蹴りやサブミッションは得意なだけに悔しいはず。今回のやり取りが本番のタイトルマッチにどう影響するか、興味深いところだ。
さらに拳王をグラウンドでコントロールした船木は、試合後半も掌底の打ち合いに応じると浴びせ蹴りをヒット。拳王がこのところフィニッシュにしているスリーパーはバックドロップで切り返した。
そのまま拳王をターゲットにした船木はランニングキックを叩き込み、プロレス復帰後に必殺技にしてきたハイブリッドブラスター。ここでフィニッシュかと思いきや、さらにスリーパーで絞め上げて試合を終わらせた。
スリーパーのダメ押しは余裕のアピールか、この技を使う拳王への挑発か。パンクラス旗揚げ時は「チョークスリーパー」導入が話題になったことを考えると、当時の“モード”で闘うというサインと読むこともできる。ともあれ、この勝利のインパクトは凄まじく大きい。
「今日のままであれば(拳王が勝つのは)難しいでしょう。前哨戦なんで出してないものもあるかもしれないけど」
インタビュースペースでは、落ち着き払った口調で手応えを語った船木。パートナーの田中にも「メチャクチャ楽でしたね。もう一試合くらいいけそうですね」と語りかける。そして再度、こう言うのだった。
「今日のままだと負ける気しないですね」
50代にして、船木は凄まじい殺気を感じさせた。防衛ロードで難敵・桜庭和志をも下した拳王だが、武道館には秘策を持ち込む必要があるだろう。そうでなければ勝てないと思わせるほど、この日の船木は強烈な力を見せつけた。
文/橋本宗洋