「ボーっとしているだけでお金がもらえる」医薬品の被験者として生計を立てる“プロ治験プレイヤー”を私たちは批判できるのか?
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 「治験一本で生活をしている、“プロ治験プレイヤー”だ」「抗がん剤もやったし、心臓病の薬もやった。あとは尿酸値を下げる薬、アルツハイマーの薬。てんかんの薬も」。そう話すのは、山田剛士さん(仮名・20代後半)だ。6年前から医薬品の被験者に対して支払われる「謝礼」だけで生計を立てている。

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 私たちが使う医薬品は、研究・開発を終えてすぐに世の中に出回っているわけではない。安全性、有効性を確認するための過程をクリアし国の承認を得て、動物、そして人への臨床試験が行われているのだ。そのプロセスの一つが、健康な成人に対して実施される治験だ。

■「入院期間、通院が少ない案件がコスパがいい」

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 山田さんが最初に治験にチャレンジしたのは学生の頃。「バイトする時間はない、だから楽してまとまったお金を稼ぎたかった。Googleに“治験 募集”と打ち込んで、出てきたサイトに行って、勢いで応募した。グレーなイメージもあったが、あまり可視化されていない世界を見てみたい気持ちもあった」。

 ネット上に数え切れないほどあるという治験の募集。「治験バイト」「高収入」といったワードも並ぶが、支払われるお金は、あくまでも時間や拘束することなどに対する「謝礼」で、相場は入院1泊当たり2万円ほどだという。「治験は仕事ではなく、あくまでもボランティアという位置付け。だから“給与”ではない」。また、拘束される期間も様々で、入院の上、採血や尿検査などを繰り返し、経過観察することもある。「通院型の場合は拘束期間が長くなるので、入院期間、通院が少ない案件がコスパがいい」。

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 山田さんの元には、協力費32万円の治験、アメリカで行われる、34泊で120万円以上の治験など、登録済の企業から次々と案内のメールが届く。これまでアメリカのほか、イギリス、フィリピン、韓国での治験にも参加した。山田さんは「ついでに旅行できるのもメリットだ」と話し、5000ウォン札の束を手に、「17泊の入院が終わったら、はい、これって60万円ポン!。本当、ニヤけますよね、これ」。

 治験を終えてから次の治験を行うまでには、「休薬期間」もある。それでも山田さんは「3~4カ月間は次の治験に参加できない。でもそれは日本のルールであって、例えばアメリカなら、基本的に1カ月経てば、合法的に受けまくることができる」と言及した。

■「医療機関に行くバスに、坊主のやつらがギュウギュウ」

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 山田さんが撮影した動画には、「投薬お願いします。じゃあお薬お願いします。このまま口に入れて下さい。じゃあお水をゆっくりで良いので全部飲んで下さい」と指示する医療機関のスタッフ、そして、自身がゴクゴクと飲み込む音が収められていた。

 一方、検査の合間はネットやゲーム、漫画を楽しむことができ、3食が付いてくる。「豚のごまだれドレッシング。厨房にコックさんがいて本当にレストランの食事みたいな。これはステーキに色々な野菜が付け合わされている」「これ!昼ごはんこれだけだ!野菜が桜漬け大根だけ(笑)」と、これまでに撮影した“治験メシ”を披露した。

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 “わざと骨折させられる”という都市伝説もあるが…。そう尋ねると、山田さんは一蹴。「骨折した人を対象にした治験はあるが、倫理的にわざわざ骨折させるようなことはない。ただ、育毛剤などの治験に、丸刈りの坊主にして参加したことはある。医療機関に行くバスに、坊主のやつらが30人くらいギュウギュウに乗っていて、あれは異様な光景だった(笑)」。

■被験者であり続けるため「メチャメチャ節制している」

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 とは言え、当然のことながらリスクも伴う。過去にサインした同意書には、参加はあくまでも「本人の自由意志」、そして、副作用の可能性についても言及されていた。「不安がないと言えばウソになる。鬱病の薬を飲んだ時には、自分の意思ではどうにもならない感じでストンと眠りに落ちたこともある。ただ、副作用が起きたのは全体の2~3%くらい。ほぼないと考えていいのではないか。それよりも背に腹はかえられないというか、真面目に働くことに対してちょっと馬鹿らしさを覚えているというか。寝ているだけでお金がもらえるから」。

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 今の暮らしについて、「一度甘い蜜を吸ってしまうと、ボーっとしているだけでお金がもらえるので、続けてしまう」と話す山田さん。被験者になるためには、健康であることが必要だと指摘、「選抜されるためには基準値に達していないといけない。だから日々の運動であったり食事であったり、そういったものはメチャメチャ節制している」とも話した。

 また、これから先も治験を受け続けるのかとの質問には、「高齢者になるにつれて募集は少なくなるので、だいたい40歳が一つの“定年”だ。だから将来のことは少なからず不安になる」と話していた。

■「社会に貢献ができる人たちだ」

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 治験が安全に円滑に進むよう調整などを行っている株式会社薬理研の岩上一真社長は、山田さんのような治験ボランティアについて「動物試験の後、世界で初めて投与される人たち、社会に貢献ができる人たちだとその意義を強調する。

 また、副作用については「日本の新薬開発には蓄積された長い歴史があるので、副作用が起きる確率も非常に低くなっていると考えられる。ただ、治験期間を過ぎてから副作用が起きるリスクももちろんあるし、次の薬との相互作用で効き過ぎたり効かなかったり、あるいは副作用につながる可能性もある。休薬期間というのは、それを防ぐために前の治験薬を体内から排出する期間。絶対に守って欲しい」と訴えた。

■山田さんを批判することはできるのか?

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 また、治験の課題について山田さんは「人が集まらないことには始まらないので、病院と人を集める個人ブローカーみたいな人たちが結託して、特定の被験者さんをいろんな医療機関に回す、というようなことも少なからずある」と明かすと、大学生の頃に一度だけ治験に参加したという慶應義塾大学の若新雄純特任准教授は「4万円くらいだった。僕はそれっきりだし、それくらいがちょうどいいと思っている。山田さんには申し訳ないけれど、リスクがあることを考えれば、 “あの人に頼めばまたやってくれるんじゃない?”となって同じ人が受け続けたり、まして “プロ化”を推奨したりしてはいけないのではないか。ただし、逆に“あんなのやばいからやめておきな”と言って誰かに押し付けるのも間違っていると思う。むしろ、社会に必要なものであればこそ、広く薄く、みんなで負担していかなければならないものだと思う」と指摘。

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 ジャーナリストの佐々木俊尚氏は「日本社会は“ゼロリスク信仰”が強く、新型コロナウイルスのワクチンに対してすら、怖い、怖いと言っている人がいっぱいいる。若新さんが言うことは理想論としてはそうだと思うが、山田さんのような人たちがいるのなら、それを受け入れた方がいいと思う。きちんとお金を払い、40歳以降は年金をたくさん払う、という仕組みを作ってもいいかもしれない。あくまでボランティアだ、職業ではないと怒る人もいるとは思うが、よくわからない情報商材を売って儲けている人と、世の中のためになる治験の謝礼で稼ぐ人と、どちらがマシなの?と考えると、簡単には判断が付かないのではないか」と話していた。(ABEMA/『ABEMA Prime』より)

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