2月12日、プロレスリング・ノアが11年ぶりに日本武道館大会を開催する。“名門復興”を象徴する大舞台だ。
その主要対戦カードは、いわゆる“ノアらしさ”とはタイプが違うものになった。GHCヘビー級選手権が潮崎豪vs武藤敬司、GHCナショナル選手権は拳王vs船木誠勝に決まった。現タッグ王者は杉浦貴と桜庭和志。今のノアはレジェンドレスラーの活躍が目立つ。そんな状況について、中心選手であり運営会社Cyber Fhghtの副社長でもある丸藤正道はこう語る。
「ノアはレジェンドレスラーも、いい意味でゲスト扱いをしないんですよ。武藤さんも桜庭さんもそうですけど、ノアのプロレスを楽しんでくれてるなと」
1月4日の後楽園ホール大会では、6人タッグマッチで馳浩と対戦した丸藤。すでに政治家のイメージも強い馳だが、その実力を体感した丸藤はこう言う。
「どんな感じなのかなと思って、手探りから始めようと。ところが向こうは決めるところをガッチリ決めてきた。変な言い方ですけど、その場しのぎの動き方をしていないというか。一つ一つをしっかり決めてきて“これに対応できないなら終わらせちゃうよ”というものを出してきたんですよ。やられたなと思いましたね。そしてこっちが返そうとした時にパッと離れられてしまった。今度リングで会う時があったらそうはさせないぞという感じですね。やってて楽しかったですよ。“そうくるか”と」
武藤は58歳で王座挑戦、馳は今年、還暦である。にもかかわらずリング上で“強さ”を見せてくる。
「何かそういう“魔力”みたいなものがプロレスにはあるのかもしれない。他のスポーツ、格闘技だったら一線を退くどころか現役でプレーしてない年齢じゃないですか。それができるレスラーがいるんですよね。そういう意味では、武藤さんたちも昔のままじゃないんですよ。今だからこその魅力がある。それは今のノアでしか見れないんです」
本人は「僕はそこまではやらないんじゃないかな」というものの、丸藤もその“魔力”を備えつつあるように見える。ケガもあり、若い頃と同じ動きができるわけではない。それでもベテランとしての力をしっかり見せている。
「レスラーには分岐点があるんですよ。僕の場合は大きなケガがあった。そこで諦めるか、自分にできることを見つけてそれを伸ばすか。僕は後者だった。そこには“プロレスしかない”という考えもあります。プロレスをやらなくなったらどうやって生活していくんだと。プロレスをしていない自分の想像がつかないんですよ。だからこだわりを持ってプロレスをすることができた。他に何か保険があったら、なんとなくでやっていたかもしれないですけど」
最近では、トップコーナーの相手を引きずり下ろしながらカウンターで決める虎王(ヒザ蹴り)を披露している。得意技のアレンジバージョンだ。
「今の時代、これだけ技がある中で新しい技を出すっていうのはなかなか難しい。だから状況に応じていかにオリジナリティを出すか。まして僕は小さいので、相手を持ち上げる技は難しい。ボディスラムはもう10年くらいやってないですよ。そこで、相手をいかにコントロールするかにポイントを置いた試合をするようになりました」
2.12武道館、丸藤は秋山準と組み、清宮海斗&稲村愛輝と対戦する。ノアを離れ全日本プロレスで社長を務め、現在はDDTの秋山にタッグ結成をアピールしたのは丸藤自身だった。
「秋山さんとの対戦は、節目節目でやってますからね。シングルマッチをやっても、どうなるかだいたい想像ができるなと。それよりも組んだほうが、プロレスを楽しみながら何かが生まれる気がするんですよ。横に並んだ時の雰囲気とかも含めて“何が生まれるんだろう”という部分ではタッグのほうがいい。
あの人がノアにいた時も、ほとんど組んだことないですからね。めっちゃギクシャクするかもしれないけど、それはそれで面白い。何も言わなくてもタイミングがバッチリかもしれない。予想できないところがいいんじゃないかと」
秋山と組むことでノアの歴史を感じさせながら“今”を見せたいという思いも強い。だからこそ、相手は20代の清宮と稲村なのだ。
「思い出に浸るだけじゃ面白くないですからね。今のノアをしっかり見せたいし、若い選手と秋山さんの対戦は新鮮だと思います。彼らにとっては、もの凄く貴重な経験になるはず。上り調子の2人が秋山さんと当たって、プロレスの奥深さを感じたら一気に成長しますよ。試合をした瞬間に成長するくらいの感じでしょうね。
僕も秋山さんと闘って成長させてもらいましたから。(ジャイアント)馬場さんに手取り足取り全部教わった人ですからね。テクニックだけじゃなく間の取り方、空気の作り方、いろんな“プロレスの宝”を持ってるんです、秋山さんは。そんなに持ち上げたいわけじゃないけど(笑)、本当にそうなんで」
勝ち負け、内容はもちろんのこと、清宮と稲村がこの試合で何を感じ、それをどう活かすかが大きなポイントになりそうだ。つまり重要なのは“武道館以後”でもある。
「何かの記念興行でもないですし、過去を振り返るための武道館大会ではないと思ってます。今のノアをしっかり見せて、その上で未来につなげたい。これがスタートですよ」
若い選手たちは、武道館大会を定期的に経験することでレスラーとしても人間としても大きくなれるだろうと丸藤。
「すべての歯車が噛み合えば、ノアはもっと大きくなれる。まだまだ入り口です、今は。ただ、その歯車は揃ってると思います」
そしてその軸には、GHCヘビー級王者の潮崎豪がいる。
「今のノアは潮崎豪ですよ。そこに立っているだけで“ノア”ですね」
絶対的なチャンピオンがいて、ベテランがいて新星がいるのが丸藤の言う「今のノア」だ。そのすべてが輝くことで、ノアの未来は照らされる。
文/橋本宗洋