プロレスリング・ノアの頂点GHCヘビー級のベルトを巻く潮崎豪は、昨年1年間で6度の防衛に成功している。藤田和之との無観客試合での初防衛戦から代々木第一体育館の杉浦貴戦まですべてが激闘。それらはコロナ禍での闘いでもあった。
次の防衛戦は2月12日の日本武道館大会。久々の“武道館帰還”を前にインタビューを行ない、コロナ禍に団体を引っ張る王者としての心境を聞いた。
「去年は新型コロナウィルスの影響があったというかありすぎて。予定通りにいかないことが本当に多かった。そういう中でもノアは止まらずに、無観客でも大会をやってタイトルマッチも。そこに意味があったし、結果としてベルトの価値を上げることができたと思ってます。他団体が試合できていない時にタイトルマッチができた。自分自身にとっても、おかしな言い方かもしれないですけど貴重な経験になりました。自分にしかできない防衛戦だったなと」
コロナ禍でも無観客試合を重ね、動きを止めなかったノア。その王者である潮崎には「コロナ禍だからこそ」という意識も強かった。
「もちろんプレッシャーはありました。でも“会場は無観客でも放送、配信で見てくれる人はいるんだ”と。だから“見られている”という感覚はこれまで以上に強まったかもしれない。そこで意識したのは、GHCヘビー級チャンピオンとしてみんなに希望を与え続けること。そういう立場だと思ってますから。戦後、敗戦で沈んでいる日本を勇気づけたのは力道山のプロレス。当時は街頭テレビで見ていた人も多かった。それと似てますよね。中継の画面を見ている人にプロレスを届けたい、伝えたいと。そして見た人が“自分も頑張ろう”と思ってもらえたらいいなと思って試合をしてきました」
過去にもGHCヘビー級王座を獲得している潮崎だが、2020年にベルトを巻くのはやはり特別なことだったのだ。試合中も、映像で“伝わる”ことを意識したという。チョップ、ラリアット中心の迫力に満ちた試合は潮崎の真骨頂であり、カメラの向こうに届けるためのものでもあった。
「これまで通りお客さんが会場にいる状態だったら、技や動きで新しいことをやっていってたと思います。ただ映像で見てくれている人たちに対しては一発の迫力を見せる闘いが一番伝わりやすいかなと。新しいこと、変わったことよりもシンプルな闘い。僕がファンの頃から見てきたノアがそうでしたから。一つ一つの技の凄味が伝わるプロレス。それは受けるほうもです。“なんであの技を食らって立ってこれるんだ!?”というものを見せたい」
2.11武道館大会は、愛するノア、誇りのこもるGHCヘビー級王座の価値をさらなる高みに引き上げるための闘いだ。挑戦者はレジェンド・武藤敬司。2021年に武藤とタイトルマッチを行なうとは、潮崎自身も予想していなかった。だが同時に「運命」を感じているとも。
「日本のプロレスの絶頂期、その一つを作ってきた選手ですよね。もう名前だけでとてつもなく大きい。“プロレスラーと言えば”で出てくる選手の一人でしょう。そういう選手とベルトをかけて闘って勝つ意味は大きい。武藤選手がGHCを巻いたことがないから獲りたいという物語もありますけど、自分はそこに付き合うつもりはない。勝つことでGHCの価値を上げさせてもらいます」
新日本プロレスのIWGP、全日本プロレスの三冠ヘビー級王座を獲得してきた武藤が“3大王座”全奪取なるかというテーマもあるこの試合だが、潮崎は武藤というレジェンドを“食う”ことでGHC王座の養分にしてやろうというわけだ。確かに武藤はそれだけのバリューがある相手であり、その意味でも武道館で対戦するにふさわしい挑戦者だろう。
1月4日の前哨戦では、潮崎がムーンサルト・プレスで勝利。しかし武道館で対峙する武藤はさらに強いだろうと見ている。
「今の武藤敬司は全盛期ではないかもしれない。とはいえタイトルマッチの武藤敬司は普段とは違うでしょう。これまでにない力を出してくると思うし、自分と闘うことで全盛期以上の力を出させたい。それを味わった上で勝って、GHCと潮崎豪の価値を上げます」
ベルトを守り続け、I am NOAHと言い続けた男。その責任感は誰が相手でも揺るぎない。
文/橋本宗洋
キャプション
武藤との異色の防衛戦に臨む潮崎