ギリギリの勝利だった。2月12日に開催された、プロレスリング・ノア11年ぶりの日本武道館大会。セミファイナルに登場したGHCナショナル王者・拳王は船木誠勝を下し防衛に成功している。
前哨戦ではスリーパーホールドで絞め落とされ「このままでは無理でしょう」と挑戦者に切り捨てられた。ベルトをかけての“本番”でも船木が圧倒する場面が目立つ。
序盤、掌底のコンビネーションで打撃勝負を仕掛ける拳王。パンクラス旗揚げメンバーでありヒクソン・グレイシーとの対戦でも知られるレジェンドに対し、いわば“格闘戦”を挑んだ形だ。
しかし船木はそれに付き合おうとしない。あっさり組み付きテイクダウン、マウントポジションを奪っていく。拳王が挑んだものとはまだ別の“強さ”を示したのだ。船木が一枚上手というしかなかった。
さらに船木はマウントから掌底で側頭部を張っていく。KOを狙うというより、ダメージで相手を動かし、そこからサブミッションを狙いにいく攻撃だろう。あるいは精神的な屈辱を与えているようにも見えた。
腕十字はロープに逃げた拳王。その後も鋭い蹴りを食らったが、この大会だけは負けるわけにはいかなかった。現在のノアで誰よりも先に「あの場所」すなわち日本武道館を目指すと公言したのが拳王だった。そんな夢の大舞台でギブアップはできない。スリーパーは形に入った瞬間、必死にロープへ。
船木はトドメを狙ったか掌底の打ち合いに応じる。ここに拳王の勝機が生まれた。一瞬の隙を突いてハイキック、そしてドラゴンスープレックス。船木が蘇生する前に3カウントを奪ってみせた。
「最後まで目が死んでなかった。(前哨戦ではなく)武道館で勝つことしか考えてなかったんでしょう」
敗れた船木はそう言ってチャンピオンを称えた。拳王はリング上でファンに語りかけた。
「ずっと夢を唱え続けて、ようやく来たぞ、日本武道館に。夢は願えば叶う。言い続ければ叶う。それが今日、分かっただろ」
思いのこもったマイクだった。前回は桜庭和志、今回は船木誠勝。2戦続けて格闘レジェンドに勝ったことにも意味がある。
次の挑戦者には、ケンドー・カシンが名乗りをあげた。拳王に倣い、さっそく「夢」を語り出すカシン。
「俺の夢はチャンピオンになること。そのナショナル王座がほしくてプロレス界に入ったんだ」
このベルトができたのは一昨年なのだが、カシンともなれば時空を曲げるのもお手の物。クセモノ中のクセモノと言ってもいいベテラン相手に、しかし拳王の自信は揺るがない。
「今まで手強い相手に防衛してきた。今回はちょうどいい相手だろ」
ノア、杉浦軍でのカシンの立ち位置は“ジョーカー”。油断ならない相手なのは間違いないが、拳王は正面突破を確信している。
文/橋本宗洋
写真/プロレスリング・ノア
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高速のドラゴンスープレックスで逆転勝利