かの天才棋士よりも、超早指し戦において高い適性を見せた棋士がいる。タイトル2期の実績を誇る広瀬章人八段(34)だ。順位戦A級でもすっかり常連となり、いずれ名人挑戦するだろうと言われるトップ棋士。昨年行われたプロの団体戦「第3回AbemaTVトーナメント」では、個人戦だった第1回、第2回大会を連覇した藤井聡太王位・棋聖(18)に、初めて三番勝負で勝利した棋士になった。前回に続き、「第4回ABEMAトーナメント」でもリーダー棋士として参戦するが、今年はどんなドラフト指名でチームを構成するのか。
若手有利と言われる超早指し戦で、いきなり強大なインパクトを与えたのが広瀬八段だった。永瀬拓矢王座(28)、増田康宏六段(23)と優勝候補筆頭のチームを組んだ藤井王位・棋聖に、大きく立ちはだかった。今や二冠保持者の若き実力者を寄せ付けず、見事に2連勝。その後も予選で勝ちまくり、本戦にも進んだ。「思った以上に活躍できて、大会に爪痕は残せたかなと思っています。思ったより、このルールに向いているところがあったのかなと思います」と、自分でもびっくりの好成績だった。
自分の成績、他者の成績を踏まえ、感じたことがある。持ち時間5分・1手指すごとに5秒加算というルールへの適応力についてだ。「若手有利なのかなとずっと持っていたんですが、森内(俊之九段)さんとか三浦(弘行九段)さんとか、かなり活躍されていたので、そうでもないのかなと思った印象でした。サンプルが少ないのでわからないですが、やっぱり早指しも、しっかり強くて、直感力が優れている人が強い気はしています」。若さゆえの瞬発力だけで勝てるほど、この超早指しは甘くない。むしろ時間が加算されることも考えると、よりタイムマネジメントが必要になる。つまりは「地力」も大いに試されるのだ。
冷静に大会を振り返ったが、今回はどういうチームで行くのか。前回は青嶋未来六段(26)、黒沢怜生五段(28)を指名し、麻雀をテーマに「チーム大三元」を作った。「一応、構想上では、自分に縁があるチームになれたらいいなと思います。ドラフトですから、やっぱり思い通りに行かないこともあり得るので。でも出来上がったら『おお!』ってなると思います」と、語る本人が一番楽しそうだ。「ヒント言うと一発でバレちゃいますね(笑)。自分が誰を取るのか、周りから予想しにくいかなと思うので、ちょっと意外じゃないかなと思っています」。どうやら何かしらのテーマが明確にあるのは間違いなさそうだが、本人が言うようにこれだけでは予想しようにも難しいところだ。
チームのテーマこそ決めてはいるが、エンタメに走りすぎるつもりはない。「やるからには台風の目というチームになりたい」と、ダークホースのポジションを狙っている。「このルールはとにかく波乱というか、安定して勝つのが難しいところもある。競った中で勝っていけるチームになって、勢いに乗れればなと。その先に優勝があれば理想ですが、あまり高望みせずに、チームとして団結力を増しながら勝ちたいです」と、勝ちながら強くなるチームを目指す。
最後に、藤井王位・棋聖との再戦について聞くと「なるべく当たりたくないです。勝ち逃げしたいです」と笑ったが、もしまた当たった時には、笑顔の裏の刃でばっさりと斬りつける。
◆第4回ABEMAトーナメント 前回までは「AbemaTVトーナメント」として開催。第1、2回は個人戦、第3回からは3人1組の団体戦になった。チームはドラフト会議により決定。リーダー棋士が2人ずつ順番に指名、重複した場合はくじ引きで決定する。第3回は12チームが参加し永瀬拓矢王座、藤井聡太王位・棋聖、増田康宏六段のチームが優勝、賞金1000万円を獲得した。第4回は全15チームが参加。14チームは前年同様にドラフトで決定。15チーム目はドラフトから漏れた棋士によるトーナメントを開催、上位3人がチームを結成する。対局のルールは持ち時間5分、1手指すごとに5秒加算のフィッシャールールで行われる。チーム同士の対戦は予選、本戦トーナメント通じて、5本先取の9本勝負に変更された。予選は3チームずつ5リーグに分かれて実施。上位2チーム、計10チームが本戦トーナメントに進む。