ゼロリスクや両論併記を求めすぎた政治とメディア…「福島の処理水と甲状腺検査の問題は、コロナ対策への教訓でもある。もう卒業しよう」細野元環境相
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 「デマを拡散したり、非科学的な、とんでもないことを言ったりする人もいた。しかし“こっちには責任があるから…”と丁寧な説明をするに留め、反論することができなかった。でも、それはもう卒業しよう。明らかに間違ったことを言った人に対しては、政府がきちんと踏み込んで反論した方がいい」。

 東日本大震災から10年、民主党政権下で原発事故収束担当大臣を務めた細野豪志衆議院議員は先月、『東電福島原発事故 自己調査報告』を上梓した。

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 「原発事故後の対応について検証した事故調査報告(2012年)の中でも相当話をしているが、その後の1年ぐらいで行った除染や廃棄物、さらに処理水についての政策決定がどのような影響を及ぼしていて、どのように解決していかなければならないのか、それをできるだけ詳しく書き残したいと思っていた。やはり人間の記憶には限界があるし、この10年というタイミングを逃すと、検証の機会も減っていく。だから自分の政策決定についても、かなり批判的に検証するつもりで書いた」。

 そんな細野議員が「新型コロナウイルスのワクチンの問題にも繋がってくる教訓だ」と話すのが、汚染水や、甲状腺の問題だ。

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 「確かに当時、いわゆる放射性物質の拡散については分からないところもあったし、今も科学は万能ではない以上、言い切ることはできないが、“およそ大丈夫だ”ということが分かってからも、リスクヘッジのために“両論併記”で情報を発信し続けてしまった。しかし問題を収めていくためにも、特に責任ある立場にいる人は、コンセンサスがある程度取れていることについてはきちんと言った方が、事態はいい方向に行く。

 実際、“今にして思えば”、というタイミングが何度もあった。避難についても、最初は何もわからなかったから仕方がないが、“もっと早めに戻ろうよ”と言えば良かった。しかし、“まだ除染が終わっていない。色んなリスクもある、こういうことが整っていない…”と遅らせた結果、再生が遅れてしまった自治体もある。避難を繰り返した結果、“災害関連死”という形で命を落とした方々もいる。処理水の問題でも、“トリチウムはおよそ大丈夫だ”と分かっていたにも関わらず言葉を濁していた結果、問題の解決が先延ばしされてしまった。“ゼロリスク”を求めるあまり、もっと大きなリスクが顕在化してしまって犠牲になった人が非常に多かったということも、あの原発事故の大きな教訓だ」。

■「皆さん“美味い、美味い”と大間のマグロを食べているのではないか」

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 原発から発生する「汚染水」から放射性物質の大部分を除去した「処理水」。政府は去年、これをさらに薄めて海に放出する方針を示したものの、処理しきれない放射性物質「トリチウム」が残っていることから農林・水産団体などとの調整が難航している。背景にあるのは、海洋放出が農林水産物の“風評被害”に拍車をかける懸念があるからだ。

 一方、処理水は日々増え続けており、貯蔵タンクの容量は来年後半には限界になると言われている。梶山経済産業大臣は9日、「関係者との協議などもしているし、全ての状況を見ながら適切なタイミングで。できるだけ早くに、という思いも変わらない」との考えを示している。細野議員はこの問題について、次のように訴える。

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 「原発の大熊町側の敷地にタンクが並べてあるが、このままだと双葉町側にも並べざるを得なくなってしまう。そうなれば他の廃棄物や、これから取り出す予定の溶融したデブリなどを置く場所がなくなり、廃炉に向けた作業の障害になってしまう。加えて、現在の設備は決して恒久的ものではなく、安全性に懸念がある。実は1日に少なくとも2回、タンクに水漏れがないか人が調べて回っている。先日、福島で大きな地震が起きたが、タンクが破損して処理水が流れ出していないか心配になったが、ものすごく大きなコストとリスクをかけ、なんとか維持している状態だ。

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 さらに言えば、国内で最もトリチウム水を出したのは青森県の六ヶ所村だ。十数年前、福島で溜まっている量よりも多い量を1年で出している。この事実は全てが公開されているが抗議した人は、当時ほとんどいなかったのではないか。そして、この沖合では“大間のマグロ”が獲れるが、皆さん“美味い、美味い”と食べているのではないだろうか。福島について出ている案は六ケ所村よりも少ない量を何十年もかけて流すという案だし、他国も海洋放出をしている。にも関わらずダメだというのは偏見じゃないか。そういうことが伝わっていないがために、“貯めておけるなら、とりあえずこのまま貯めておいてくれ”という考えになってしまっている。しかし、今のままでは良くないんだ、ということだ。

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 私も仲間を増やそうと永田町で頑張ってみたが、言っても得にならないし、心配する人たちの声の方が大きいから、なかなか協力してくれない。事故を起こして信頼を失ってしまった政府としても、なかなか言い切れずにきた。それでも10年が経ったし、情報も公開している。それでもできるだけ味方を、理解者を増やしたい。そして、メディアにも責任はあると思う。心配をする人がいるのも分かるが、そのことだけを報じるのはフェアじゃない。トリチウム水については安全性がこれだけ確保されていて、海外でも流しているということを短くてもセットで流さないと、単に風評被害を拡散しているだけになってしまう。

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 ちょうど親潮と黒潮がぶつかり合う海域ということもあり、もともと福島の魚介類は高級だった。しかもこの10年間、ほとんど漁をしてないから魚体が大きく、漁獲量も多い。だから最近では近県の船が福島沖で獲って、福島以外の港に揚げているということも行われているはずだ。政府と民間が一緒に努力をし、狭くなってしまった販路を再び拡大させていけば、ものは良いわけだから風評被害もかなり防げるのではないか。それでも被害が生じた場合は補償する。そうした仕組みを作るべきだが、議論にすら入れていない」。

■「手術の必要がないかもしれない子どもまでもが手術を受けさせられてしまう」

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 さらに細野氏が懸念するのが、被曝による健康被害に関する議論だ。福島県では放射性物質の拡散や避難などを踏まえ、県民の被曝線量の評価や健康状態の把握を目的に「県民健康調査」を行ってきた。「低線量被曝」の懸念や子どもの甲状腺異常が報じられるなどしてきた。しかし細野氏は、これ以上の検査の継続は、倫理的に問題があると指摘する。

 「検査は私が環境大臣だった時代に始まった。当時も“このレベルであれば、おそらく大丈夫だろう”と思ってはいたが、そこのことをきちんと証明する必要があった。また、福島の方々が非常に心配されていたこともあったので、不安に寄り添うという意味では良かったと思う。しかし2014年くらいから“過剰診断”、“過剰治療”があるという指摘が出るようになった。

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 “がん”と聞くと、命に関わる深刻なものだと思ってしまいがちだが、実は亡くなった人から甲状腺を取り出して調べてみると、10%くらい、厳密に調べると30%くらいの人が甲状腺がんにかかっているという調査もある。つまり甲状腺がんというのは命に関わることが非常に少なく、体調に異変が出るなどの症状が出てから手術をしても間に合う病気だ。ところが福島では徹底的に調べてしまっているために、本来は手術の必要がないかもしれない子どもまでもが手術を受けさせられてしまうということだ。

 希望した人が検査を受けるのはいいと思うし、特に原発事故があった福島では無料で受けられた方がいい。ところが当時0~18歳だった若者全員を検査するに近い形で行うことは本当に必要だろうか。今も小中学生の9割程度が授業時間中に健康診断のように受けている。そうすると、何人かに1人は甲状腺がんが発見されて、手術を受けることになる。しかしクラスのみんなが検査を受けているのに自分だけ受けないとなれば、“なんで?”と言われることになる。だからみんなが受けることになる。でも放課後に実施するようにするだけで状況は変わるはずだ。私の妻も甲状腺の手術を経験しているが、傷跡が残るし、薬を飲み続けなければならない。しかも成人後、がん保険に入れなくなってしまう。私はこの問題にも早急に決着をつけたいと思っていて、本に書いた。数年前から何度も担当者と話をし、やり方を考えてくれと言ってきたが、まだ変わらない。

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 ここは福島県だけにお任せするのではなく、政府が前に出た方がいい。先日、小泉大臣に聞いてみた。“私は自分の子どもには検査を受けさせない。小泉さんのお子さんだったら?”と。 小泉さんは、国がきちんと決めるべきだと考えてくれた。国が、誰かが“任意のものにします”言わなければダメだが、必ず出てくる“健康被害が出ているのに、政府が隠そうとしている”という批判に晒されるのが怖い。また“両論併記”をしたくなる。しかし“大丈夫だ。国際社会もこう言っている”、と勇気を持って言わなければならない。ちょうど国連の科学委員会(UNSCEAR)が、“被曝による健康被害は生じていない”とするレポートを公表した。“いや、科学的にはそういう可能性もある”と言って、精神的な部分も含めて福島の若者たちに背負わせるのはもうやめた方がいい。私も本に書いただけでは意味がないし、実現するのが仕事だと思っている」。(ABEMA/『ABEMA Prime』より)

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