2月12日の日本武道館大会で、王者・潮崎豪に“奥の手”フランケンシュタイナーを決めて破り、GHCヘビー級王座を奪取。58歳にして、新日本プロレスのIWGPヘビー級、全日本プロレスの三冠ヘビー級と合わせて、史上3人目となる3大メジャー王座制覇「グランドスラム」を達成した武藤敬司。
今回、ノアとしては約10年ぶりに開催となる3月14日福岡国際センターでの初防衛戦で、自身の息子と同い年である34歳下の若き元王者・清宮海斗を迎え撃つと、またしてもファンの記憶を刺激し、驚かせる技で試合を自分のものにしてみせた。
序盤、ペースを握ったのは清宮だった。7カ月前、8月10日横浜文化体育館で行われた初対決では、武藤のグラウンドレスリングに翻弄された清宮だが、この日は逆に執拗なヘッドロック、スリーパーホールドでねちっこく武藤のスタミナを奪っていく。
これに対し武藤も、得意のドラゴンスクリューから反撃に転じようとするが、清宮は足4の字固めをフロントネックロックで切り返し、流れを引き戻す。前半戦は、清宮の成長と研究の成果が存分に発揮された。
しかし、ここから武藤は劣勢を挽回すべく、技術の引き出しをひとつずつ開けていく。まず、ブレーンバスターの体勢から、清宮の両足をトップロープに乗せると、そのまま首へのドラゴンスクリューを決めるネックスクリューを解禁。さらに串刺しシャイニングから、雪崩式フランケンシュタイナーを決めてみせた。
この技は、プロレス大賞「年間最高試合」を獲得した99年5月3日のIWGPヘビー級タイトル戦で、武藤が当時49歳の天龍源一郎に決められた技。武藤はのちに「天龍さんの雪崩式フランケンは、不格好だけど味があるんだよな」と語っていたが、あれから22年後、同じ福岡国際センターで、58歳になった武藤が“味がある雪崩式フランケン”を決めてみせたのだ。
ここから会場の空気は、武藤の押せ押せムードとなっていく。それでも清宮は、ミサイルキック、ジャーマンスープレックス、さらに花道を駆け抜けてのウルトラタイガードロップなど、大技の波状攻撃で食らいつく。そしてダイビングヘッドアタック3連発から、25分すぎ、ついに必殺のタイガースープレックスホールドを決めるが、これはカウント2.9!
切り札を返され不用意にロープに飛んだ清宮に対し、武藤は潮崎を破ったフランケンシュタイナーを炸裂。清宮はこれをカウント2で返すが、武藤はすぐさま腕ひしぎ逆十字! 清宮はなんとかロープに逃れるも左肘に大ダメージを負ってしまう。
武藤はこの機を逃さずシャイニングウィザードを連発すると、清宮は必死にブロックするが、痛めた左腕に直撃し悶絶。そして武藤はセカンドロープから左腕に向けてミサイルキックを放つと、ドラゴンスクリューから今日5度目となるシャイニングウィザード。腕が上がらない清宮は、これをまともに顔面に食らいダウン。そこにトドメの腕ひしぎ逆十字を極めて、武藤はついに清宮からギブアップを奪取。30分超えの熱闘を制し、見事GHCヘビー級王座初防衛に成功した。
ともにフィニッシュホールドを決めることに成功した両者だったが、タイガースープレックスを返されたあとの次の一手が出なかった清宮に対し、フランケンシュタイナーを返されたあと、すぐさま、現在入院闘病中であるかつての師、アントニオ猪木の代名詞でもあった“腕殺し”という引き出しを開けてみせた武藤。最後はその差が、勝敗を分けたと言えるだろう。
試合後、GHCタッグ王者のマサ北宮がリングに上がり、武藤をサイトースープレックスで投げ捨て、次期挑戦者に名乗りを上げた。北宮は、武藤の心の師である故マサ斎藤の最後の愛弟子。「片っ端からやってやりますよ」という武藤は、次もファンの記憶を刺激しながら、現在進行形の闘いを見せていく。
文/堀江ガンツ