LINEの中国の子会社が利用者の個人情報にアクセスできる状態だった問題で、行政機関の利用の停止が相次いでいる。
こうした動きについて、情報法制研究所(JILIS)理事長の鈴木正朝・新潟大学教授は「個人情報や情報セキュリティの問題ではなく、安全保障、国防の問題だ。一方、今回のことが極端なデータローカライゼーション規制や排外主義的なところに流れては全体が不幸になる。問題の所在の見極めが重要」とコメント。
サイバーセキュリティに詳しい森井昌克・神戸大学大学院教授は、中国の「国家情報法」を念頭に、「中国にあるデータに関しては中国の法律が適用され、すべてが中国政府側に公開されてしまう可能性がある。同様の法律があれば、それは他の国でも同様だ。今回、海外のサーバーにどのようなデータがあり、どういうふうに守られていたのか、そして情報漏洩は本当に無かったのかが問題だ。さらに言えば、LINEという企業は最初の時点から韓国の資本で成立している、いわば韓国企業のような状況で、情報が出ていっているのではないかという話もあったわけだ。しかしLINEは自分たちは日本企業であり、個人情報も日本の中で処理して守っていますよと言ってきた。にもかかわらず、なぜこのような状態になっていたのか、という問題もある。
LINEとYahoo!が経営統合したZホールディングスのサービスは、さらに国の重要なインフラになってきている。また、現実的にはGAFAも含め、海外の企業ともうまく連携を取っていきながらやっていかざるを得ない。だからこそ、国は“多くの人が使っているから乗っかっておけばいい”という考えではなく、どのように成り立っているサービスなのか、どのような方向性でやっていってもらうのか、ということしっかり考えておくべきだった。また、日本には素晴らしい人材もたくさんいるし、サービスの種も芽もある。セキュリティ技術も世界に誇れるものがある。しかし、それをきっちり使っていく枠組み、育てていくための政策がうまくいっていない」と指摘した。
ジャーナリストの佐々木俊尚氏は「特にGAFAと呼ばれるようなグローバルなプラットフォームの場合、個人情報が各国のデータセンターに分散して置かれているのも当然だよね、という意識があり、これまでそれほど問題にもされてこなかった。会見で出澤社長は(情報の移転先の国名を)書かなきゃいけなかったが、潮目の変化を見落としていた、と話していたが、規約を作った頃はそういう雰囲気だったのだろう。しかし近年、中国やロシアが軍事・経済的にも急速に大きくなる中で、経済安全保障ということが言われるようになった。LINEはYahoo!と合併し、さらに素晴らしい企業になっていくと思うが、そのプラットフォームにデータを置かれる行政やユーザーとしては、果たして情報を託して大丈夫なのか、という話になってきたということだ。
また、ちょうどデジタル庁ができて巨額の予算が投じられようとしているが、まさにYahoo!・LINE連合はそこに食い込もうとしていたし、政府の側も唯一の国産プラットフォームだと期待をしていたので大打撃だ。かといって、日本の古臭い大手ITゼネコンを使うということでいいのか。あるいはLINEやYahoo!を超える、行政がDXに使いたくなるようなITプラットフォームが出てきたとして、それが他国の企業だったらどうするのか。その意味では、日本発の素晴らしいITサービスが少ないという不甲斐ない状況があるということも考えなくてはならない。警戒するあまりビジネスの成長を阻害しないよう、バランスが大事だと思う」との考えを示した。
リディラバ安部敏樹代表は「LINEは行政の防災サービスやいじめ相談窓口としても使われているので、それが止まってしまったことで不利益を被っているユーザーもいると思う。そういうサービスだからこそ、行政は予めLINEに対してセキュリティのガイドラインを示しておくべきだったと思う。しかしCOCOAの問題で分かったように、発注する側がよくわかってない。だから下請け、孫請け…という構造にもなってくる。そこは政府が数千万円の年俸を出してでも良い人材を確保しなければいけない。
加えて、IT市場の中でプレイヤーを育てていくという経済政策の視点で考えると、中国のゲームは日本の市場にどんどん入ってくるのに、日本のゲームは中国で使ってもらえないという現状もある。ここも政府は外交、産業振興の一環としてリーダーシップを取ってやっていくべきところだ」と話していた。(ABEMA/『ABEMA Prime』より)
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