「格闘技界にもファンにもケンカを売る」
卜部功也はそう言って試合に臨んだ。3月21日の『K'FESTA.4 DAY.1』。これが復帰2戦目になる。Krushで初期から活躍し、K-1では初代スーパー・フェザー級王者に。2018年にはライト級タイトルも獲得した。しかし2019年はベルトを奪われ、連敗も。欠場期間中に自身のジムをオープンした。
ベテランが連敗しジムを作る。最前線から一歩引く典型的なパターンに見える。だが、そんな見え方には抗いたかった。だから「ケンカ」なのだ。まだまだ終わるつもりはない。選手としては一度完成し、ピークを迎えたという自覚もある。2階級制覇後は、出来上がった自分を「消費」しているような感覚だった。だがジムを作り、練習環境を変えたことで新たな気づきがあった。
「新しいトレーナーから教わったこともあって“まだこんなにできてないことがあるじゃん”“まだまだ格闘技のこと知らなかったな”“俺はまだやり切ってない、まだいける”と思うようになったんです。だから今、一周まわって楽しいですね(笑)」
昨年9月の復帰戦では新しい闘い方を試したが、納得のいかない内容だった。先制のダウンを奪ったものの最終ラウンドにバランスを崩してダウンを取られ、延長戦にもつれこんだ末の判定勝ち。“しっかり構えてしっかり打つ”スタイルを試したのだが、結果として持ち味の柔らかい動きが失われていた。
「新しいことをやろうとして、もともとの強みを捨ててしまっていたんですよね。だから延長戦から軌道修正しました」
今回の試合も、まずはかつての自分の強みを取り戻すことがテーマだった。つまりテクニカルで柔軟性のある動きだ。
「試合勘や距離が狂っていたので、そこを戻す必要もありました」
対戦相手がハードパンチャーの蓮實光だったから、余計にテクニシャンぶりが際立った。判定勝利は文句なし。しかし「技術で制する内容」だけでは観客の満足度が低いだろうということも分かっている。
「長期のプランで考えて、今回はこういう試合をしよう、と。だから次の試合まで見てもらえると嬉しいです」
いわば“卜部功也復活3部作”。本来の動きに戻し、その上で次の段階に進む。
「もともとのスタイルを確かめながら、新しい武器も試しながら、余計なものを省いて細かい修正もして、というのが今回の試合でした」
そういう作業だから、1試合だけで完成させられるものではないわけだ。新しい武器の一つは、サウスポースタイルからの左ストレートを軽くジャブのように打つこと。
「左ストレートは相手が警戒してくるので、思い切りじゃなく軽く打つほうが当たるなっていう。これからは同じことを蹴りでもやってみたいんですよね。60(%)くらいで打つほうがいいのかな、と。そうやって考えると、まだやってないことがたくさんありすぎるんですよ(笑)。それに僕はサウスポーに構えてずっとやってきたので、オーソドックスで闘ったらどうだろう、とか。これからのK-1は構えを固定せずに、左右スイッチしながら闘うのが普通になってくると思います」
K-1ルールはヒジ打ち禁止というだけでなく組み付きも完全になし。独自のルールだから闘い方、必要な技術もこれまでのキックボクシング、ムエタイとは違って当然だ。
「だからK-1ルールの技術にはまだまだ未知のところがあるし、伸びしろがあると思うんですよ。それを今、自分の体で実験してる感じもありますね。K-1という競技の未来を見据えて。それは指導する時も活きると思うので」
新たな卜部功也を見せる。K-1の未来を先取りする。今の彼はそのために闘っている。その闘いにはもちろん“倒す”ことも含まれる。
「ポイント取って勝つっていうことなら、今でもできるんですよ。だけどK-1はお客さんを盛り上げるものでもある。それに“KOはしなくていいや”となったら成長が止まってしまうし、K-1の技術としても可能性を閉ざしてしまうじゃないですか」
今、功也が考えているのはK-1の可能性そのもの。ベルト以上にそこを意識しているという。
「K-1の闘いはこれからも変わっていくし、もっと自由にできると思います」
まだ復活の途中ではある。しかし見据えている世界は他の選手以上に大きい。
文/橋本宗洋