2020年10月よりシリーズ第3期が放送されている大人気TVアニメ『おそ松さん』。
松野家の6つ子たちを中心として、ハイテンション、シュール、ブラック、オマージュ……なんでもありな展開で毎回楽しませ、時にホロリともさせてきた『おそ松さん』。第3期では、新キャラクターであるAIロボット「オムスビ」の登場も、新たなエッセンスとして話題となった。
ABEMA TIMESでは、そんな『おそ松さん』第3期の最終話を前にキャストやスタッフにインタビュー。今回は第1期から『おそ松さん』の音楽を担当している橋本由香利さんに、音楽面についていろいろとお話をうかがった。
“なにを想像させたいのか”を伝えつつ、やり過ぎないようにギリギリを狙いました
――まずは、どのような経緯で『おそ松さん』の音楽を担当することになったのかお聞かせください。
橋本:プロデューサーが私の参加した作品を見てくださっていたみたいで、橋本に頼んでみようと推薦してくださいました。その時に『おそ松くん』ではなく『おそ松さん』として新しいシリーズになるとお聞きしたんです。私は『おそ松くん』を知っている世代なのでちょっとビックリしましたね。
――『おそ松さん』の内容については、どんな印象でしたか?
橋本:大人になったおそ松たちが描かれるということで、正直どうなるんだろう?と(笑)最初に「こういうものを作りたいです」とコンテやシナリオをいただいたのですが、昔の『おそ松くん』とはテイストが全く違っていて。6つ子ひとりひとりに個性があるのが、大きな違いだなと思いました。
――実際に曲を制作していく上で、特に意識したところを教えて下さい。
橋本:『おそ松くん』からの流れもあるので、サウンドに昭和っぽいテイストはあった方がいいのかなと思いました。あとは、ギャグアニメらしく、バラエティっぽい手触りも欲しいだろうなと。
――シーンに対する音楽やキャラクター固有の音楽など、作品によって発注内容はさまざまだと思いますが、『おそ松さん』の場合はどうだったのでしょうか?
橋本:「汎用曲」「キャラクターに対する曲」「こういう内容の話数なのでこういう曲を使いたい(話数の専用曲)」、その3つが大きなくくりになりますね。
――有名作品をオマージュした話数もありますし、曲を作るのは面白かったのでは?
橋本:面白かったですね。(劇中アニメで使う曲など)その話数の専用曲に関しては1期の頃は戸惑いもあり、どうしていいかわからないことも多かったです。でも、やっていくうちに、どういうところを誇張していけば映像やストーリーに合うのかわかってきて、楽しんで作れるようになりました。経験が積み重なったおかげだと思います。
――具体的に挙げると、第3期では第3話の「マジック天使 マジヘライッチー」は魔法少女モノで主題歌も本格的なことに驚きました。こちらはどのように誕生したのでしょうか?
橋本:「マジヘライッチー」は(曲を作る段階で)内容やコンテがあがっていて、「魔法少女モノにピッタリなものをお願いします」との発注でした。でも、最初は歌ではなく、インストの予定だったんです。打ち合わせをしていく中で、やはり劇中のオープニングに歌が必要だよね、となりました。
――完全に80年代の魔法少女モノのテイストで面白かったです。
橋本:制作していても面白かったですね。この曲はインストとして劇中や変身シーンでも使うと監督がおっしゃっていたので、間奏部分を変身シーンで使えるように作っています。
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――そのほか、第3期の前半となる第1クールで印象的だった曲や話数はありますか?
橋本:第8話の「南へ」で歌が流れるシーンは印象的でした。この曲も打ち合わせでインストにするか議論があって、最終的に歌を入れた方がいいとなったんです。
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――あのハリウッド映画をほうふつとさせますからね。第12話の「AI」では6つ子の格好からも『キャッツ・アイ』をオマージュしていましたし、発注段階から「○○のような感じで」と言われるわけですよね?
橋本:そうですね。発注はそういう感じでいただきました(笑)。
――雰囲気を出すのが本当に上手だなと感じます。
橋本:そういう曲は“なにを想像させたいのか”がはっきりしているので、聴いている人(視聴者)に伝わらなければ作る意味がないと思うんです。ただ、やりすぎると「これはダメです」となっちゃいますので(笑)、そのギリギリを狙う感じですね。
――『おそ松さん』でも、やり過ぎちゃったことはあるのですか?
橋本:何回かありました。これはやり過ぎですと(笑)。
――作品的に、なんとなく許されそうな雰囲気もありますけど。
橋本:それでもダメな時はありましたね。もう少し汎用性のある感じにしてほしいと言われて。でも「これって!?(あの作品の曲のオマージュだよね)」と必ず伝わるところは残していきたいと思いながら作っています。
オムスビの専用曲は今までになかったような音色に

――第2クールも、そのような歌をはじめ印象的な曲が多数ありました。橋本さん自身が作っていて特に面白かった曲をあげるならどれでしょうか?
橋本:第2クールでは、「やめておけ」(第18話)で、チョロ松が特急に乗って海外を転々とする描写で流れる曲とか「実コップ」(第16話)、「やりたい刑事」(第22話)などは作っていて面白かったですね。
――オマージュ元となる作品は、もともとご覧になっていましたか?
橋本:はい。世代的には私に近い作品が多いですから。むしろ、藤田(陽一)監督やシリーズ構成の松原(秀)さんはもう少し下の世代だと思うのですが、昭和の作品をよくご存知だなと思いますね。それに、視聴者で10代の方はわかるのかな?とたまに思ったりもします(笑)。
――そうなんですよね。昭和を生きてきた人間からすれば当たり前でも、先ほど名前を挙げた『キャッツ・アイ』ですら知らない可能性がありますから。
橋本:今は動画配信サイトで昔のアニメを見ることができますし、親が見ていて知っていた人もいるかもしれないですよね。

――ちなみに、第1期、第2期、第3期の音楽でなにか変化したことや、このシーズンはこういうことを意識した、といったことはあるのですか?
橋本:第1期や第2期のものを第3期のBGMとして使うこともあるので、曲のテイストや楽器の編成は違和感がないようにしています。第1期のここで使われた曲が第3期ではここで流れた、みたいなことに気づいていただけたら、個人的にすごく嬉しいですね。
ただ、その時々でストーリーなどが違いますので、例えば第3期から登場したオムスビの専用曲は少しテイストを変えています。その話数で出てきた新しいものに対する曲に関しては、今までと毛色を変えたりもするんです。
――オムスビの専用曲はどんな発注で、どのように作っていったのでしょうか?
橋本:「あまり情感がないように」「デジタルだけどちょっとレトロにして欲しい」との発注でした。なので、ちょっと懐かしいような音色でテクノっぽい曲を作るといいますか、今までになかったような音色で作った感じですね。
――同じように、キャラクターやシーンの専用曲の発注で印象深かったものがあれば教えて下さい。
橋本:(第3期では第16話の「実コップ」に登場する)1期で作った実松さんの「実松専用曲」は結構汎用性があったので今も色々なシーンで使われていますけど、「暗いもの」「あまり救いがないタイプの音楽を」との発注でした。なので、そういう感じに寄せて作っています。
――第15話の「てやんでぇいメイド」で流れたチビ太のメイドの曲もインパクトがありました。
橋本:『おそ松さん』では私が歌詞を書くこともあるのですが、松原さんの脚本に書いてあった言葉を使って曲を作ることも結構あるんです。この曲も最初に言葉があって、使える尺も短かったので、コンパクトに作ってくれとのことでした。「マジヘライッチー」もそうですが、「劇中の曲だから尺はあまり使えないけど歌モノで」というのは、曲を短いサイズにまとめるのが難しいんですよ。そこが苦労しましたね。
――とてもキャッチーで、スーパーのおでん売り場で流れるのも合いそうだなと(笑)。
橋本:そういう歌詞ですからね。ぜひ使って欲しいです(笑)。
6つ子の専用曲を作るとしたら……?
――橋本さんはこれまでアニメだけでなく実写の音楽もやられてきて、最近では連続テレビ小説の音楽も担当されました。実写ドラマとアニメの音楽を作る上で、なにか違いはあるのでしょうか?
橋本:実写とアニメでは流れる時間や間合いが違うと感じます。人間が(実写で)演技しているものは、ものすごく情報量が多いので、後ろで流れる音は極力それを邪魔しないようにと考えるんです。でも、アニメでは(音楽で)いろいろな説明をしていくこともあるので、ディテールをなるべく強く出していくことが多いです。特にギャグアニメはカット周りがすごく早く、パンパンパンと切り替わっていきますよね。それについていくテンポ感や、画面の中で今どういう状況になっているのかを説明するために、音楽も振り切る部分が必要かなと思っています。
――『おそ松さん』の音楽制作に際して、橋本さんが好きな音楽やよく聴いてきた音楽は何か影響を与えたのでしょうか?
橋本:『おそ松さん』に関しては自分の好みをフィードバックさせるよりも、 “自分が昭和を生きてきたこと”、それ自体だと思います。当時見ていたバラエティ番組などは、すごくフィードバックされている感じがします。
――先ほどおっしゃっていたように、作品自体が昭和のテイストを上手く活かしていますからね。
橋本:たまたまですけどね。たまたま昭和のわかる人間に依頼が来たんじゃないですかね(笑)。
――では、いち視聴者の目線で構いませんので、特に好きな話数やシーンを教えて下さい。
橋本:曲の話でも出た、オムスビたちを助けにいくシーン(第12話「AI」)が好きですね。あと、第3期は一松がすごく活躍したなと思います。ラジオのDJをやったり、おむすびたちに声をかけたり、だんだんと心を開いていったり、いろんなことがあって。改めて一松の良さを感じました。
――ちなみに、6つ子それぞれの専用曲はあるのですか?
橋本:もともとの発注としては、ないです。カラ松が出る時によく流れているマカロニ・ウエスタン調の口笛の曲を「カラ松の曲」だと思っている人も多いと思います。でも、あれは音響監督の菊田(浩巳)さんが「カラ松が出るたびにその曲をかけ続けたら、そういう風になった」とおっしゃっていて。そんな感じで派生していった曲も多いんですよ。映画では、同じメロディに高校生の6つ子それぞれのテイストを入れた曲を作ってください、との発注はありましたけどね。
――もし6人の専用曲を作るとしたら、どんなイメージの曲にしましょうか。
橋本:そうですね。カラ松は今言った、テーマだと思われている曲。チョロ松はアイドル好きだから、電波系の曲かな。一松はちょっとダウナーな曲、十四松ははっちゃける系か、スポーツやラジオ体操のような曲になると思います。トド松はカフェで聴けるような雰囲気の曲ですね。おそ松は……おそ松が一番難しいかもしれないです。おそらく、PVで使っている曲がイメージに近いと思います。
――作品そのものの曲が、おそ松のイメージなのかもしれないですね。
橋本:そんな感じがします。
――では、これまで数多くの作品の音楽を手掛けてきた中で、橋本さんにとって『おそ松さん』はどのような存在でしょうか?
橋本:『おそ松さん』の音楽を通して私を知ってくださった方がすごく多くて、『おそ松さん』がオンエアされた前と後では皆さんからの認知度が違うと感じています。そういう意味でも、とても大きな存在です。
――最後に、『おそ松さん』の第3期をこれまでをご覧になり、最終話を楽しみにしている方へメッセージをお願いします。
橋本:今はこういう世の中ですけど、『おそ松さん』を皆さんが心から楽しんで、癒されていただけたら本当に嬉しいです。
取材・テキスト:千葉研一
TVアニメ「おそ松さん」第3期 3月29日(月)深夜1時35分よりテレビ東京ほかにて最終回放送!
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【第5松】4月23日発売!
発売元:エイベックス・ピクチャーズ
(C)赤塚不二夫/おそ松さん製作委員会
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