信じられないような強さと勝ちっぷりだった。3月28日のK-1日本武道館大会のメインイベントとして行われた、スーパー・フェザー級タイトルマッチ。チャンピオンの武尊は最強の挑戦者と言えるKrush王者レオナ・ペタスを2ラウンドKOに下した。
魔裟斗をはじめ「武尊不利」を予想する識者もいる対戦だった。レオナは武尊が手こずった村越優汰をKOするなど、説得力抜群の勝ち星を重ねてタイトル戦にたどり着いている。
一方、武尊はケガもありこれが1年ぶりの試合。那須川天心戦への機運が高まっている状況もあり、魔裟斗は「先を見てたら足元をすくわれる」と指摘してもいた。その那須川が、この日はリングサイドで試合を見ている。凄まじいプレッシャーだ。試合前の数週間、武尊は「不眠症になりました」。だがそれでも、彼は勝った。
序盤はカーフキックから。リーチの長いレオナ相手に、武尊は打ち合いを避けて“削る”作戦だったという。だが気づけば展開は打ち合いに。レオナのパンチをもらうとすかさず前進し、パンチを振るう。その顔には笑みが浮かんでいる。
「仲良くなれる人って、フィーリングですぐに分かるじゃないですか。それと同じで、レオナ選手は思い切り殴り合える選手だなってすぐ分かりました」
結果、作戦を無視したと武尊。打ち合いの中、左フックを見事に決めてダウンを奪う。2ラウンドになると連打でレオナが崩れ、またダウン。最後は右のクロスをねじ込んだ。前のめりにヒザをついたレオナは「失神したので試合の記憶がない」そうだ。おそるべきKO劇だった。
「殺されてもいい覚悟で殺しにいきました」
試合後の武尊からはそんな言葉も。絶対に負けられない状況の中で守りに入らず「殺されてもいい」と思えてしまう、その精神性が想像を絶する。単に選手として強いというだけでなく、人間としてとてつもないレベルにある。
「1回でも負けたらやめるつもりなので、負けられなかった。次のことは考えられなかった」
一夜明け会見では、試合に向かう悲壮な決意を振り返ってもいる。魔裟斗の指摘通り、那須川戦のことを意識して勝てるような試合ではなかったのだ。だが勝ったからこそ、今は那須川天心戦に向かうことができる。
リング上から対戦をあらためてアピールすると、インタビュースペースでは次の試合でやりたいとも。理由は「自分が一番強い時にやりたい」からだ。
もちろん対戦について、現時点で何かが決まっているというわけではない。本格的な話し合いができる状況になった、というところだ。ファンからしても本人にとっても長く待っている状態。しかし2月の那須川vs志朗、3月の武尊vsレオナを経て、武尊vs那須川への期待感はさらに上がったと言っていい。今がベストのタイミングだと思える。どちらもそれだけの強さを見せてくれたのだ。
打ち合いを好む武尊にとって、那須川のカウンターテクニックは脅威そのもの。逆に言えば、武尊の打ち合いを止められるのは那須川のカウンターだけかもしれない。と同時に、武尊の前進力と連打なら、那須川のカウンターを突破して拳を叩き込むことができるかもしれないという幻想もある。その幻想は、レオナ戦でさらに高まった。
武尊は一夜明け会見で、レオナ戦について「真剣で斬り合うような恐怖」があったと語った。そこに楽しさ、充実感があったと。天心と闘う時もそうなるのだろうか。リングで向き合ってみなければ分からないと武尊。
ただ「(那須川も)真剣を持っている選手。いい試合になると思います」としている。こうして相手のことを語ることができるところまできた。武尊は自分の実力で、強い覚悟でここまでの道を作ってきたのだ。“裏事情”の余計な憶測はいらない。今はとにかく実現を待ちたい。
文/橋本宗洋