昨年4月に施行された香川県のネット・ゲーム依存症対策条例が、憲法13条が保障する幸福追求権を侵害しているとして、母親とともに県に対する損害賠償請求訴訟を提起している渉さん(18歳)。今月15日には、県議会の条例検討委員会が条例の素案について意見を募った「パブリックコメント」に関する疑惑の調査を進めるため、警察に告発状を提出した。
県議会側は昨年、寄せられた2600件超のパブコメのうち、実に8割以上が賛成意見だったと公表していた。ところが通常よりもパブコメ数などが著しく多く、怪しいと思った渉さんが情報開示請求を行ったところ、同一の表現の“賛成コメント”が書かれたものが100以上も存在、さらに2週間の募集期間のうち、“賛成意見”の5割以上が2月1日に投稿されていたことがわかったという。
「もともと僕や報道機関や個人が開示請求を出しても“黒塗りが間に合わないから出さない”と答えていたのに、可決されるとすぐ出してきた。何かあると感じていた。民意を偽造してまでも通すべき条例だったのだろうか。何かしらの力が働いたのであれば、それは誰の力なのか、というところが一番気になる。名前は伏せるが、僕としては県議だと思っている」。
渉さんは28日、夜行バスで上京すると、これまで訴訟を支援してきた藤末健三議員のもとを訪れた。「不正はあったと思う?」と尋ねる藤末議員に、「あったと思う。(不正によって)民主主義を揺るがすような人に議員でいる資格はない。もし立件され、県議が関わっていることがわかったとしたら、即刻辞めるべきだと思う」と渉さん。「本来は議会事務局等がきちんと調査すべきもので、わざわざ告発状を提出するようなものではない。ただ、このようなことは他の自治体でも起きうるものだと思う」と指摘した。
資料を目に通した藤末議員も、「実際に見てみると、本当に同じ文章が2分後、3分後にどんどん入ってきていた。誰かが同じ文章を“コピぺ”して送ったと考えるのが自然で、疑わしいことをされた可能性がある。民主主義の原則をあまりにも軽く見ていると私は思う。もう完全に犯罪だ」と漏らした。
「そもそもパブコメというのは、行政が“こういう制度、予算、あるいは条例を作るので、意見をください”と集めるもの。数を競うものではないし、採決に影響は及ぼすようなものでもない。しかし今回のパブコメは、通常であれば1カ月は期間を設けるところ、2週間だった。同時に、全国の人が対象だったのが、今回は香川県民に制限した。まさに自分たちに都合のいいように手続きを変えている。
渉さんは議員の暴走があったのではないかと考えているが、県議会事務局の中から“おかしい”という意見が出なかったことも問題だったと思う。民主主義は手続きなので、それを明確にしておくということが大事だ。パブリックコメントについても、国は行政手続法、地方自治体は一般に行政手続条例で決められているので、香川県民の皆さんは“条例に基づいてきちんと運用されていない”、と声を上げていかなければいけないと思う」。
さらに藤末議員は「ネットの力が政治を変えるということは始まったばかりだと思うし、オンラインで色々な意見集めること自体はいいことだと思う。私自身、休止になったコミケに対し、何とか支援できないかということで、SNSを使って意見を集めた。10日間で411件の意見が集まったので、議員連盟の仲間と20人くらいで官邸に提出しに行った」とも話していた。
リディラバ代表の安部敏樹氏は「どんな論点があるのか、こういう見方もあるのか、ということを知るために実施するのがパブコメであって、国も自治体も、担当者たちは真摯に見ていると思う。それを“これだけの人が賛成しています”と署名や住民投票のように使うのはおかしいと思う」と指摘。
ジャーナリストの佐々木俊尚氏は「確かに最後は投票、多数決で決まるのが民主主義かもしれないが、その過程でこぼれ落ちる様々な意見をいかにすくい上げるかが大切で、“数こそ正義だ”という考え方は危険だ。パブリックコメントも、選挙以外にも政治とつながる回路を増やしたほうがいい、という問題意識から90年代に設けられたものだ。しかし、多数になれば圧力になるということで、まさにTwitterではトレンドに上がる=民意のように見えてしまい、ハッシュタグの投稿数を競う闘争が生じてしまっている。パブリックコメントについても、本人確認などもなく、同じものを複数投稿できてしまうような仕組みも含め、制度の限界が出てきたのかもしれない」と話していた。(ABEMA/『ABEMA Prime』より)
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