やりたい仕事のためにはフリーになるべき?アナウンサーたちの“生存戦略”は…元キー局アナが座談会
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 「AIが進化すればいらなくなるでしょ」「タレントみたいな事しかしてないのに必要?」「自分の意見は言うべきじゃない」など、視聴者から様々な意見がぶつけられる「アナウンサー」。今年も多くの新人アナウンサーがデビューする一方、局アナの立場を捨て、あえて「フリーアナ」という道を選ぶアナウンサーたちもいる。

 3月31日の『ABEMA Prime』では、去年9月に日本テレビを退社した青木源太アナ、2011年にフジテレビを退社した宮瀬茉祐子アナ、2017年にテレビ東京を退社した大橋未歩アナを招き、司会進行のテレビ朝日平石直之アナウンサー、佐藤ちひろアナウンサーも交え、「これからのアナウンサー」について議論した。

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■局アナの仕事に違和感を覚えたことも…

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 3人は、なぜフリーアナウンサーになる道を選んだのだろうか。現役時代のエピソードも含めて話を聞いてみると、理由は3者3様のようだ。

 大橋アナは「会社員時代は仕事を自分で選ぶということはまずできなかったし、本音では断りたい仕事も多少はあった。キャリアの相談はあっても、やはり自分がしたい仕事をするためには、その他のしたくない仕事もある程度は許容しないといけない。中には、なんでこれがアナウンサーの仕事なのかな?と思うこともあった。

 例えば番組を盛り上げるためという大義名分の下、“業務”としてグラビア撮影をしたこともあった。そういうことをしつつも通勤電車に乗っているということへの違和感はあった。報道記者の場合も、ずっと報道記者としてやっていくわけではなく、ジョブローテーションで回っていく。そういう日本のテレビ業界全体の構造的なひずみが、アナウンサーという職種にも現れているのかなと思う。

 そして一定の年齢になると、ワークライフバランスとの兼ね合いで時間が取れなくなり、選択も迫られるようになる。そういうところで悩んでいた時期もあったが、貯蓄もあったし、収入よりも“何かを伝える”、ということの優先順位を高くしようと思った。その点、フリーになれば自分のペースで、やりたい仕事ができる。そして局アナでやっていたことと同じことをしては意味がないと思ったので、辞めるにあたってはもうグラビアはやらないとか、分断を煽るような番組には出ないとか、“しない”ということを決めた。今はネット配信もあるし、テレビ以外にも出る場所が増えてきていると実感している」。

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 宮瀬アナは「フジテレビの場合、新人は女性アナウンサーの方が推されて、華々しくデビューさせてもらえる。私の最初の仕事はバラエティー番組で、バックダンサーとしてキャラクターと一緒にライブに出るというものだった。研修が終わるとリハ室に行ってダンスの練習を繰り返す日々に、“なんのために入ったのだろう”とも思った。ただ、新人のうちから視聴率の取れる番組に出演させてもらえたり、一流の人たちと仕事をさせてもらえたりするのは、チャンスをいきなりつかめるということにもなる。今考えると、甘かったのかもしれないが、それらを天秤にかけた時に、20代の私としてはメリットの方が大きいと感じていた。

 一方、男性アナウンサーはその頃、本当に一生懸命に努力して修行している。そして年齢が上がってくると、MCのトップを張るのは男性アナウンサーになっていく。もちろん私たちの努力不足もあったのかもしれないが、やっぱり男性中心の社会だということが番組にも反映されていたのかもしれない。それでもフリーになるということは全く考えていなかった。結婚して海外に行く夫に付いていくために退社してみると、テレビ局以外の方々と接する機会が増えた。自分はなんて狭い世界で生きてきたんだろうと感じた。それで帰国後は色々な会社の中途採用を見るようになった。ただ、30歳くらいになると、他の職業にいきなり転職することの難しさも感じた。やはりそれまでの経験を活かすのが近道だと考えて、フリーになることにした」。

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 他方、青木アナは「例えばオリンピックやサッカーW杯の中継など、やはり局アナでしかできない仕事もたくさんある。そして日本テレビでは上司との面談が年に一度あって、自分のしたい仕事と、会社がしてほしい仕事についてのすり合わせをしていた。入社6年目くらいまでは巨人戦の実況や箱根駅伝の実況などの仕事が多かったが、面接で“情報番組をやりたいと言って日本テレビの門を叩いた”と伝えたところ、そちらの方向に導いてもらえた。だから私の場合、局アナ時代は葛藤したり、忸怩たる思いをしたりすることはなく、ありがたいことに色々なジャンルの仕事もさせていただいた。

 ただ、“働き方改革”を自分に落とし込んだとき、会社員という立場ではなくフリーランスの方が向いていると思った。大橋さんと近いが、私も限られた時間をどの仕事に使っていくかということを、自分でジャッジしたいと考えたということだ。例えば労働時間のキャップがあるので、朝の情報番組のMCをやっていると、夜の仕事は入りにくい。あるいは好きな映画の舞台挨拶の司会の仕事があったとしても、やっぱり日テレが出資している作品でしか仕事はできない。でもフリーになれば違う。BSもある、CSもある、地方局もある、今ならネット配信番組もある。可能性が広がったし、楽しい」。

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 ここで乙武氏にフリー転身の意向を尋ねられた平石アナは「宮瀬さんの言うように、局に新卒で入社する“メリット”というのはあると思う。いわばシード権だ。ほとんど素人なのに、訓練をしながら、いきなりいいところからスタートさせてもらえる。それはすごく大きいと思う。やってみたら自分に向いていないということが分かったり、逆に予想以上に面白いと感じたりというのも、仕事を割り振られる会社員ならではだと思う。ただ、年次が上がると、画面に出ること以外にも、様々な仕事が降ってくるもの。この歳になって感じるのは、会社にぶら下がっているだけではいけない、“お荷物感”が出てきてはいけないということ。“やってもらわないと困る”と言われるようにならなければならないという危機感はものすごくある」と話し、苦笑しつつも退社を否定した。

 そんな平石アナの指導も受ける、この4月で入社2年目になるテレビ朝日の佐藤ちひろアナは「今はまだフリーになれるだけの能力もないし、やっぱり収入が安定していた方がいいなとは思ってしまう(笑)。できればアナウンサーでいたいとは思っているが、局なら部署異動によって様々な仕事をする機会もある」と話した。

■「AIアナウンサー」に負けないためにできること

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 そんなアナウンサーという職業に対し、“AI脅威論”も出てきている。これからのアナウンサーの仕事について、3人はどのように考えているのだろうか。

 ドワンゴ社長で慶應義塾大学特別招聘教授の夏野剛氏は「ニコニコ生放送でも政治家や“喋り”を仕事にしている人たちが出演している場合、やはりMC経験のあるアナウンサーの方じゃないと仕切るのは難しいと感じている。特に与党と野党が出てくるネット党首討論会になると、元日本テレビの馬場典子アナウンサーがいるからこそ成り立つ。公平に意見を聞いていかないといけないし、職業的に自分を中立にできる特殊能力のある方が必要だからだ」と指摘する。

 宮瀬アナは「自分の意見も交えつつ、いかに議論を広げていくかという、ファシリテーター的な役割が求められる場面もある。むしろそういう能力を身に着けないと、ただ原稿を読めるだけではAIによって淘汰されてしまうかもしれない。そして、自分自身で仕事を作り出していく時代に入ってきたとも思っている。私自身、4月から会社を立ち上げて、ウェブマガジンをオープンさせてみた。アナウンサーだって、他の会社員の方同様、副業やパラレルキャリアをやっていてもおかしくないと思う」と話す。

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 大橋アナは「今のところAIが通用する分野は、スポーツ、バラエティー、そして報道の中のストレートニュースを繰り返し読むというところだと思う。まだまだほとんどの仕事は取られないと思っている。ただ、肩書きではなく、名前で仕事をするということが必要だと思う。よく“タレント化”していると言われるが、アナウンサーの形も時代と共に変化していく。だから最終的には自分の名前で仕事するということが大切だし、辞めたいと相談してくる後輩には“社会課題を持ちな”と言うようにしている。タレントというのはある意味で消費されてしまうが、社会課題はなくならないし、そこにコミットし続けることが個性につながるんじゃない、ということだ」。

 青木アナは「アナウンサーというのは、基本的にクライアントのオファーがあっての“受注”の仕事だから、その要求にどう応えるかだし、できないと思えば断るし、ということだ。そして宮瀬先輩みたいに、そこからさらに枠を広げて自分で仕事を作ろうという人もいる。例えば元TBSの安東弘樹先輩は車に詳しいので、関係するイベントの司会をやられている。公正中立な進行の仕事に加えて、個性として専門性を持っていればクライアントも安心して任せられるということも出てくる。だからアナウンサーの存在意義とか、“こうでなくちゃいけない”ということをあまり考える必要はないと思う」。

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 平石アナも「現場取材をする時には、ディレクターであり、記者として行っているわけで、むしろアナウンサーだと思わないことが新しいアナウンサー像を作るのではないかと思うようになった。だから“アナウンサーはこうあるべき”だとか、“これはやるけどこれはやらない”という枠を自分で作ってしまってはダメだと思うし、AIに負けないためには何でもやるということだし、“淡々と事実を伝えていればいい。意見を言うことで偏った放送になってしまう”といった意見に負けてはいけない。常に現在進行形の、この先どうなるかわからない仕事だから、常に“脱アナウンサー”を意識していなければいけないと思う」と話していた。(ABEMA/『ABEMA Prime』より)

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