ミャンマーで軍事クーデターが勃発してから、およそ2カ月、事態は悪化の一途をたどっている。地元の人権団体によるとこれまでに530人以上が命を落としている。

【映像】銃撃戦も…軍事クーデターが勃発したミャンマー

 国軍はアウン・サン・スー・チー氏に対し、新たに政府の機密情報を漏洩した罪などで訴追。最大で14年の禁固刑が下る可能性も浮上している。一方、スー・チー氏率いる国民民主連盟側は、軍事政権下で制定された現行憲法を廃止し、「統一政府」を樹立する計画を明らかにし、内戦の懸念が高まっている。

 イギリスのウッドワード国連大使は「ミャンマー国軍の暴力行為は到底容認できるものではなく、国際社会が強いメッセージを発信することを要求する」と述べ、非公開の緊急会合を開催。しかし、中国の国連大使が制裁に反対するなど、足並みは揃っていない。

 ミャンマーに対し、国際社会はどのような対応をすべきなのだろうか。ニュース番組『ABEMA Prime』では、専門家と共に考えた。

■ 長引くミャンマーの内戦 国軍の弾圧はなぜ起きた?


 分断の深まりによって「武力と武力の内戦になるのでは」と、懸念の声も上がっているミャンマー情勢。元国連難民高等弁務官事務所の駐日代表を務め、現在は東洋英和女学院大学の客員名誉教授を務める滝澤三郎氏は「そもそもミャンマーは、何十年も内戦が続いてきた」と話す。
混とんするミャンマー情勢 国連はなぜ足並み揃わない? 日本人が抱く国連への“誤解”とは
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「ここ10年ほど、ミャンマーの内戦は一時的に小康状態にあった。国軍と少数民族の武装勢力との戦いだ。国軍、少数民族の武装勢力、国民の3者が構図にいて、10年ほどの間は、国民と国軍の距離が比較的近かった。国民は少数民族に対しては冷たく、例えば、ロヒンギャ(ミャンマーのラカイン州に住む人々)は『国民じゃない』と言っていた。これがガラッと変わった。『国軍が自分たちを弾圧している、自分たちを殺している』と言われるようになって、国軍への支持が失われた。今はむしろ逆に少数民族を支持するような形で、少数民族と国民の距離が近づいている。国民対国軍という、今までの内戦を超えた戦いに発展する可能性がある」

 ジャーナリスト・講談社特別編集委員の近藤大介氏も「国軍はここまで2カ月もこういった状況が続くとは恐らくは予測していなかっただろう」と語る。

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「国軍としても非常に焦りがあるのだろう。誰が国軍の首に鈴をつけられるか。(解決策の)1つ目は今月行われる予定のASEAN首脳会議に国軍のミン・アウン・フライン司令官もしくはミャンマーの軍側の代表者が出てきて、きちんと話ができるかどうか。2つ目は中国の王毅外務大臣、もしくはそれに類する人がミャンマーに入って話ができるかどうかだ」

 ミャンマー国民は事態をどのように考えているのだろうか。滝澤氏は「国連に助けてほしい、保護する責任の下で介入してほしいという非常に強い願いがある」と明かす。その上で“国連に対する誤解”に言及する。

「これはミャンマーだけではなく、世界的に特に日本でも国連に対して誤解を持っている人がいる。国連が強力な単一の政府で、悪いことをする国に介入するイメージがあるかもしれないが、実は違う。国連はあくまで193の国の集合体であって、特にその中の5つの常任理事国が強い力を持っている。単なる“5人”の委員会だ。よって“5人”の意見が一致しない限り、強力な制裁などを行うことができない。内在的な制約がある」

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 ミャンマー国民は事態をどのように考えているのだろうか。滝澤氏は「国連に助けてほしい、保護する責任の下で介入してほしいという非常に強い願いがある」と明かす。その上で“国連に対する誤解”に言及する。

「これはミャンマーだけではなく、世界的に特に日本でも国連に対して誤解を持っている人がいる。国連が強力な単一の政府で、悪いことをする国に介入するイメージがあるかもしれないが、実は違う。国連はあくまで193の国の集合体であって、特にその中の5つの常任理事国が強い力を持っている。単なる“5人”の委員会だ。よって“5人”の意見が一致しない限り、強力な制裁などを行うことができない。内在的な制約がある」

 滝澤氏の説明に慶應義塾大学特任准教授でプロデューサーの若新雄純も「そもそも国連は、フェアな民主主義的な選挙をちゃんと行って、民主的に政府が作られている国だけを加盟させているわけではない。独裁的な国であっても国連は加盟を認めている」とコメント。国連には193の国が加盟しているが、全ての国が民主主義国家ではない。

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 東アジアと西アジアの間に存在し、米中にとって要衝と言えるミャンマー。中国にとって、ミャンマーはどのような存在なのだろうか。近藤氏は「中国にとっては北朝鮮、ベトナム、ミャンマーの3つが“砦”だった」と語る。

「ミャンマーは軍事国家だが、独裁を維持してきた強権国家。しかし、2011年にミャンマーをアメリカにひっくり返された。前のテイン・セイン政権が民政移管のときに中国からアメリカに寝返って、中国としては非常に悔しい思いをした。中国には『今度こそはアメリカよりもミャンマーの手綱を取って、主導権を握りたい』という思惑がある。だから今日まで4カ国の外務大臣を中国に呼んで、根回しを行っている」

 すると、ネット掲示板『2ちゃんねる』創設者のひろゆき氏は「軍の反発がいくらあろうと軍を倒せる民衆はいない。時間が経てば経つほど、みんな諦めると思うが、どうか」と近藤氏に質問。

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 ひろゆき氏の疑問に、近藤氏は「ミャンマーは1962年と1988年に国軍クーデターが起きたが、1日で軍が制圧して終わっている。2カ月も続くとは予期していなかっただろう」と答える。

「近いところでは2014年の5月にタイで同じような軍事クーデターがあったが、軍側があっという間に制圧して終わった。(ミャンマーのクーデターも)同じように2月1日に起きて、遅くとも2月1日の午後のうちに全部制圧して終わると軍は考えていた。しかし、国民の反発がものすごく強かった。これは、10年間のうちに広がった民主化の影響だ。ちょうどアメリカで人権を重視するバイデン政権が始まった流れもある。問題が非常に大きくなって、焦って発砲に走ったり、空爆を行ったり、思いがけない局面に入ってしまった」

■ 若者中心に民主化や言論の自由を求める声「日本も発信を」


 依然、ミャンマーで続いている軍の空爆や銃撃。ひろゆき氏は「諸外国は文句を言うだけで、他国籍軍を送り込むことはやらない。結局は時間の問題になるのか?」と続けて質問。近藤氏は「それはそうかもしれない。だが、アメリカはすでに制裁を宣言している。諸外国が制裁を加えると、兵糧攻めのようになって、最終的に中国とロシアしか助けてくれない状況に陥るだろう。国軍側はそれを『避けたい』と思っているはず。欧米の制裁を受けていると、経済発展ができないから心配していると思う」と回答。

 欧米の経済制裁が続けば、ミャンマーは中国やロシアと密にならざるを得ない。ミャンマーの主導権を狙っている中国にとってはメリットだが、近藤氏によると「まず中国は政権の安定を望んでいる」という。

「去年1月に習近平主席がミャンマーを訪問した。当時はアウン・サン・スー・チーさんが最高権力者だったが、スー・チーさんとの間で『中国とミャンマーは運命共同体である』と宣言し、非常に親密な関係になっている。中国は国軍との関係だけでなく、スー・チーさんのNLD政権(国民民主連盟)とも非常に関係が良かった。だから、中国は(政権の)安定を望んでいる」

 前述の滝澤氏も「ミャンマー国軍は必ずしも中国が大好きというわけではない」と話す。

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「国軍は両方を見比べながらうまく世渡りしている面がある。ここ10年間、民主化が進み、特に若者が大きく変わった。私は毎年、2013年から2019年まで毎年夏に学生を連れてミャンマーに行っていたが、ヤンゴン大学の学生を見て、2013年から2019年にかけて、ものすごく変わったと思う。みんなが自分の意見を言って、自由を楽しんでいた。そういう自由を知った若者たちが、いきなり全てを忘れて、かつての軍政のように言論の自由も何もない国に戻れと言われても、それは無理だ。今回のデモは単にヤンゴンやマンダレーなどの都市だけで行われているのではない。都市から遠い村でもデモが行われている。簡単に治められないだろう」

 自由を求める国民、少数民族の人権、国連の限界……すべてにおいて難しい局面に立たされているミャンマー。問題の“落とし所”はどこにあるのだろうか。滝澤氏は「ミャンマーの国民が決めること」として「国軍とその関係者以外はまとまっている。ビルマ人だけではなく少数民族も、今までずっと迫害されてきたロヒンギャも手を結びつつある。つまり、ミャンマーの全国民的に『私たちは自由が欲しい、去年までの体制が欲しい』と言っているわけだ。この願いを叶えるようにするのが国際社会の役割で、また国連の役割でもある」と述べる。

 さらに、視聴者から寄せられた「日本がミャンマーのためにできることは?」という質問に滝澤氏は「もっと発信すべきだ」と提言。

「日本政府はもっと発信すべきだ。周りの国がどう言うか、待った上で批判するのではなく、例えばオーストラリアなどの中堅国家と一緒になって、ミャンマーに対して『人権弾圧を許さない』とはっきり言うべき」

 クーデターによる混乱が続くミャンマー。国際社会がどのように振る舞うのか、また日本政府は今後どのような発信を行うべきなのか、対応が問われている。

ABEMA/『ABEMA Prime』より)

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