「さらに多くの社員が辞めなければ黒字にならない」「現役記者たちは鬱々と…」週刊文春・しんぶん赤旗のスクープ報道を後追いする新聞社、逆転の道は
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 一人暮らし世帯の増加やウェブメディアの台頭などにより、最盛期には5377万部を誇っていた発行部数が約3500万部にまで減少している新聞業界。各社は減資や早期退職者の募集を行うなど、経営環境も年々厳しさを増している。

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■「非常に追い詰められている感じがする」

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 そんな業界の20年間を追った『2050年のメディア』の著者でもあるノンフィクション作家の下山進氏は「2020年の上半期の業績を見ると、例えば産経新聞は売上高が2割減。朝日も同じく2割減で、だから今回早期退職者を計300名募っているが、2020年3月末時点の平均給与は1223万円。不動産での売上を踏まえても、さらに多くの社員が辞めなければ黒字にはならない計算だ。崖っぷち、持続可能性がない状況だ。

 また、販売店は個人事業主だが、収入の大部分は折込広告だ。皆さん本当に一生懸命にやっていて、頭が下がる思いだが、例えば宅配の仕事を受けたりもしているが、決まったところに決まった時間に配る新聞とは全く違うし、販売網が維持できなくなりつつある」と話す。

 その上で、「それでも日本経済新聞は2010年に始めた有料電子版の契約者数が75万人に達している。そのメディアでなければ読めないコンテンツをとことん考えていけば、不可能ではないと思う」とも話した。

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 1年前に朝日新聞を退職、記者時代にはボーン・上田記念国際記者賞も受賞したジャーナリストの村山祐介氏は「かつて800万部も発行していた朝日新聞だが、500万部を切り、これからも加速度的に減っていくだろう。それに伴う広告収入の減少とコロナも重なり、2020年の中間決算では最終赤字が419億円に達した。この衝撃的な数字に、社長が引責辞任することにもなった。

 給与水準も下げ、早期退職制度によって人員を削減、自分たちの新聞購読も自腹にするという話まで出た。非常に追い詰められている感じがするし、現役の記者たちと話していても、鬱々としている感じが伝わってくる。本来は紙の購読、いわばサブスクリプションで失われた部分をデジタルのサブスクリプションで取り返していくところに活路があるはずだが、硬直的なところもあり、打つ手が見当たらない感じがする」と明かす。

 ジャーナリストの堀潤氏は「僕は一度生まれたメディアは死なないというのが持論だ。電子ペーパーのようなものも開発されていくだろうし、一覧で見ることのできる新聞の便利さのようなものは残っていくと思う。ただ、日本の新聞はグローバルでは弱い。日経も英FT(Financial Times)を買収し、外への目線も持っているとは思う。しかし日経自体は国内の経団連系の社長に向けて書かれているようなところがあるし、他の新聞も従来の記者クラブ制度の中で、誰に向けて書いてるの?というところがある。そして、ニューヨーク・タイムズがデジタルで成功した要因には、経営にBBC会長や伊藤穰一氏を引き抜いてきたということもあると思う。日本の新聞社も、デジタル対応やグローバル対応を仕切れる経営陣にガラッと変われば、息を吹き返すかもしれない」との見方を示した。

 しかし下山氏は「それは不可能だ」と言う。「新聞社は株主について新聞業に携わるもの、または社員、というように定款で定めてしまっている。だからワシントン・ポストがジェフ・ベゾスに買われたようなことは起こり得ない。その意味では、“外圧”もないということだ」。

■「その記者、メディアでなければできないことは何なのか」

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 今年に入り、政治・経済でのスクープ報道は『週刊文春』の独壇場で、新聞社はその“後追い”になる一方だとの指摘もある。

 下山氏は「例えば総務官僚への接待に関する報道では、『文春オンライン』が“公益性がある”として現場で行われた会話の音声を公開した。元編集長の新谷学氏が『月刊Hanada』で語ったところによれば、近くのテーブルから録った音声データを数十万円かけて復元したという。こういうことを朝日新聞がやれるかと言えば、“盗聴じゃないか”と指摘されることを恐れてやれないだろう」と話す。

 「『週刊文春』は30人ちょっと。桜を見る会のスクープを報じた『しんぶん赤旗』も同規模だろう。この2社が国政を動かすようなスクープを出し続けているのに対し、朝日新聞にいる1000人以上の記者のほとんどは警察や官僚への“夜討ち朝駆け”をし、取った情報を“前打ち”する、あるいは記者クラブで広報発表を受ける“定点観測”する、というのが新聞社の伝統だ。

 それらは紙であれば人々も読むが、Yahoo!ニュースという巨大プラットフォームができて以降、そうした情報は無料でどんどん流れるし、いくら速く書いても、すぐに追いつかれてしまう。だからこそ、このシステムにビルトインされていない『週刊文春』、『しんぶん赤旗』が本当に必要な話を調査報道によって表に出せている、という構図だと思う。やはり、その記者、メディアでなければできないことは何なのか。それをとことん考えることだ」。

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 村山氏も「やはりスクープこそお金を払ってでも見たい、最強のコンテンツだ。しかも、それを紙だけでなく、ネット、動画とも連動させているのが理想形だと思う。私もライターなので現場でメモを取りながらICレコーダーで録音するし、写真や動画も撮る。そして、紙にもネットにも出す。スクープに限らず、それらを色々な形で出す、というのがデフォルトになりつつある。それらがテレビ番組のドキュメンタリーになることもあるし、裏話をポッドキャストやClubhouseで話すこともあるだろう。そういう時代になれば、もはやテレビの記者なのか、新聞の記者なのか、ネットの記者なのかというのは関係ない。素材をどう料理して、どう世の中に伝えていくのか、その“異種格闘技”のためのインフラはでき上がっている時代だ」と話す。

 堀氏は「先週、ニューヨーク・タイムズのコラム記事の所有権(NFT)が売りに出され、日本円で6000万くらいの値が付いた。そういう新しいことができるのも、経営陣も含めて現場を見ているからだと思う。例えば東京新聞の記者が聖火ランナーの映像をSNSにアップしたところ、バズった。ところがIOCの“72時間ルール”があるからと削除せざるを得なくなった。記者は“公道で行われていることなのに”と悔しそうだった。つまり、ここで記者がゴネれば、仲間たちがオリ・パラの取材ができなくなるかもしれないからだ。マスメディア企業は往々にして巨大官僚組織なので、どこか組織防衛の方に走ってしまいがちだ。特ダネを取ってきた記者をちゃんと守ってくれるだろうか」と訴えていた。(ABEMA/『ABEMA Prime』より)

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