秋篠宮家の長女・眞子さまとのご結婚について小室圭さんが文書を発表した8日、政府では「皇位継承に関する有識者会議」が開催された。論点となっているのは、“皇位継承権を女性・女系にも広げるべきか否か”という問題だ。小泉総理(当時)は「今の時代、仮に女性天皇が現れても国民は歓迎するのではないだろうか」として有識者会議を設置。女性・女系天皇の是非などについて議論が繰り返された。
平沼赳夫衆院議員(当時)が「守るべきことは断固命を懸けて守らなければならない」と話すなど反対論もある中、吉川弘之座長は「皇位継承資格、これについては現行の男系・男子というのを見直し、女子や女系の皇族にも拡大するということが適当であるという結論に達した」と述べた。
ところがその後、秋篠宮家に悠仁さまが誕生すると議論が沈静化。それでも上皇陛下が生前退位され、天皇陛下が即位されると、皇位継承をめぐって議論が活発になってきた。7日の『ABEMA Prime』では、今回の有識者会議のメンバーでもある八木秀次・麗澤大学教授に話を聞いた。
■「女系天皇」、そして「女性天皇」とは何か
まず、「女系天皇」、そして「女性天皇」とはどういうものなのだろうか。八木氏は現在の仕組みである「男系継承」を踏まえ、次のように説明する。
「例えばこの系図で説明すると、まず女子Aは父方が天皇(男子)なので“男系女子”、そして男子Bを“男系男子”となる。一方、女子Aが皇族の以外の方と結婚して生まれてきた子どもは母方が皇族になるため、男子Cは“女系男子”、女子Dは“女系女子”となる。その子どもたち(男子G、H)、さらに男子Bの子どもの女子Eと孫の男子I、男子Fの子どもの女子Jも含め、女系は皇族の身分から離れ、民間人になるのが今の仕組みだ。
そして残った“男系男子”である男子B、男子F、男子Kの3人だけが、11人いる天皇の子孫のうち、皇位継承資格がある、ということになる。これが“男系継承”と呼ばれる、天皇になる資格を持つ者を絞り込む仕組みだ。一般の家庭の場合、女子が跡継ぎになったり、他家の男子に養子を迎えて跡継ぎになったりすることがある。ところが天皇の地位だけは完全に男系の血統、血筋を継ぐ者のみが皇族となり、天皇になれる正統性があるということになっている。これは他の国の王室とは異なるもので、遺伝子、極端に言えば育てられた環境や能力とも関係がない。
ここに対して“女系継承”を認めることになると、11人全員に皇位継承資格を持つことになる。そのことにより、確かに安定的にはなるが、65、66世代前の天皇の子孫にまで対象が広げてみると、多くの民間人、おそらく我々にも皇族、皇位継承資格があるということになってしまう。それでは皇室というシステム全体が壊れてしまう。
例えば、仮に秋篠宮家の長女・眞子さまと小室圭さんがご結婚されたとして、お二人の間に生まれてきた子どもが天皇になった場合、“女系天皇”ということになるが、1700年以上にわたり一度の例外もなく、そういう方々は皇室から出られて民間人になってきた。逆に言えば、“女系天皇”という言葉自体、最近になって作られた言葉だということだ。血統によって“誰も取って代わることができない”ことになるからこそ特別の扱いされ、敬意、敬愛の念を抱いてもらえる。“男系継承”でなくなった場合、そういったことが果たして可能なのかということだ。
他方、愛子さまを始めとする、“男系女子”である内親王が天皇に即位した場合、“女性天皇”ということになる。今の皇室典範では認められていないもの、歴史上、8人が女性天皇になっていて、うち2人は2度即位しているため、8人10代いたということになる。
ただし、この女性天皇と皇族以外の男子との間に生まれた子どもは“女系男子”もしくは“女系女子”になるため、皇位継承資格はない。つまり、1代限りの仕組みということだ。仮に女性天皇を認めることになったとしても、女系継承を認めなければ1代だけ先に延ばすだけということになる。つまり、これも安定的な皇位継承にとっては本質的な解決策にはならないということだ」。
■「旧宮家の皇籍復帰」論も
一方、「女系天皇」「女性天皇」に対し、旧皇族である旧宮家の“男系男子”を皇室に復帰させるべきだ、との主張もある。これについて八木教授は、次のように説明する。
「男系継承を続けていくのはものすごく難しいことなので、かつては祖先を同じする、別の血筋の系統が用意されていた。例えば後桃園天皇の系統は男系が途絶えてしまったため、曽祖父にあたる東山天皇の弟の男系の孫にあたり、7親等も離れた光格天皇が跡を継いだ。皆さん、ひいおじいさんの弟の孫に会ったことはあるだろうか。しかし、これが男系継承ということだ。
(8日)の有識者会議でも議論が出たが、室町時代に分かれた伏見宮の系統があり、例えば明治天皇には内親王が4人いたが、いずれも伏見宮の系統の皇族と結婚されている。いずれの宮家も昭和22年10月に皇籍離脱によって民間人になったが、今も子孫は存在している。そこから継承してくるという考え方もあるということだ」。
ただ、そうまでして守りたいものは何なのか、そしてジェンダーの問題が世界的に注目を集める中、日本国民が女系天皇、あるいは女性天皇を認めることが様々なメッセージになりうる、あるいは認めないことが男性優位、男尊女卑の社会を残すというメッセージになりうる、という意見もあるだろう。
アメリカ合衆国出身のパックンは「日本の憲法には、“天皇は国民の象徴だ”と書いてある。その国民の半分は女性だし、国民の7割以上が女系天皇、女性天皇を認めるべきだと答えている。自分たちの象徴には誰がふさわしいかと国民に聞けば、顔も見たことのない伏見宮家の子孫よりも、天皇陛下の娘であり、子どもの頃から見守ってきた愛子さまの方が納得できるのではないか」と疑問を呈する。
これに対し、慶應義塾大学の若新雄純・特任准教授は「パックンの仰っていることは極めてまともで賢い、現代的な意見だと思う。僕も合理的、論理的に考えれば、基本的にはパックンと同じ考えになるだろうし、そもそも僕は古いものが嫌いで、そういうものは全て壊して皆が自由に生きるべきだと考えるタイプだ。
ただ、この“象徴”というのは、そもそも国の起源や国家、国民とは何か、何によって日本という国を国たらしめているか、というところにポイントがあるのだと思うし、そこには非合理・非論理的で、説明できない部分が出てくる。そして、“そういうものなんだ”ということによって国が分裂しないようにするシステムの存在も重要だ。
もちろん、総理大臣など時の政権を選ぶ場合は、フェアで合理的で、みんなが納得できる方法にすべきだ。しかし歴史上、政府が分裂し、どっちに正統性があるかという時には、時の天皇がどちらを任命するか、ということが担保になってきた。例えば将来、政府が分裂して、お互いに“こっちが日本だ”と主張したとする。ここで女系天皇もアリになっていたとすると、どこかの誰かを担ぎ出してきて、“何をもって天皇とするか”という争いにもなってしまう。そうならないためにも、あえて賢くないやり方で保っておくということだと思う。そこに一抹の美しさや伝統のみたいなものを感じるかどうか、ということだろうし、その点で、僕は今の制度に賛成だ」と反論。
八木氏は、むしろ“男系継承”にこそ合理性があるのだと強調、「これも有識者会議で議論になったことだが、日本国憲法14条1項ではジェンダー平等も含めた法の下の平等を定めた規定だが、憲法の第1章が定める天皇の規定全体はその例外で、別の制度、枠組みだと理解するのが多くの憲法学者、そして政府の見解だ。そう理解しなければ、システム全体を完全に組み替える必要があり、場合によってはシステムそのものが壊れるということになる。世論調査では7割以上の国民が女系天皇、女性天皇に賛成していると言うが、ほとんどの人が説明してきたような皇位継承の仕組みをよく知らないまま答えているという問題があると思う」と主張した。(ABEMA/『ABEMA Prime』より)
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