「労働基準法に基づいた普通の働き方を」「少しでも良い形で若手に“バトン”を渡したい」… #教師のバトン で炎上する教育行政へ、“前川喜平氏と現職教員が直言”
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 “教師不足”の解消に向け、現役教員に仕事の魅力などを発信してもらおうと文部科学省が始めたハッシュタグ「#教師のバトン」。ところが蓋を開けてみると、狙いとは真逆の、教育現場の厳しい実情を訴える、叫びにも似たツイートの数々が発信されてしまった。

・【映像】前川喜平氏と現役教師が提案!学校の働き方改革

 長時間労働や残業代の問題、心身を病んでしまう教員の問題など、その“ブラック”ぶりが盛んに報じられてきた学校現場。それでも学校教員の「働き方改革」は進まないのだろうか。7日の『ABEMA Prime』では、教育行政のトップ文部科学事務次官を務めた前川喜平氏を招いて考えた。

■「#教師のバトン」への投稿、文科相はきちんと受け止めて

 教員になって3年目、教職に関する漫画も描いているネコ先生は、「#教師のバトン」を知り、「“あとにして”。その言葉に何度、心を置き去りにされただろう。“あんな大人にはならない”。そう心に誓った」「大人になって、教師になって、わかった」「あれもして、これもして、足りない、時間、おわらない」「“あとにしてよ”。気づけば僕は、あの日忌み嫌った大人たちの言葉を口にしていました」というセリフの続く悲痛な作品を投稿した。

 「これからもっと仕事は増えてくだろうし、この先も続けられると、自信をもっては言えない。いま教育現場に必要なのは、子どもたちとじっくり関わりあえる余白ではないか」(ネコ先生)。

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 また、この春、小学校の教員になったばかりの北川湧大さんは、「子どもたちが少しでも成長できたなって時があると、すごくやりがいを感じると思う。楽しみな気持ちでいっぱい」。そう期待に胸を膨らませながらも、「Twitterでこのハッシュタグが出てきて、正直、不安になったところもあった」と胸の内を明かした。

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 福井県の公立中学校教師の江澤隆輔さんは、教鞭を執る傍らYouTubeチャンネルや書籍を通して教師の労働問題を発信してきた。「働き方改革のため、何か行動に移せるかと言えば、移せない。やることが多すぎてそんな時間はないし、“去年と同じでいい”と考える方が楽だ。それでも欅坂46の『サイレントマジョリティー』じゃないけど、意見を言わなかったら同意とみなされちゃう。勇気を出して、声を上げていくことが大事だと思った」。

「#教師のバトン」問題について尋ねてみると、「目の前にいる子どもたちが伸びていくのは楽しいし、面白い。ただ、言い方は悪いけど、それにつけこんで、“残業代なしでもいいじゃん、人手不足でも頑張れるでしょ”という雰囲気を感じてしまう。たくさんのネガティブな発言があるが、これらは本当に全国の学校で起きていることだと思う。きちんと受け止めてほしい」と指摘。

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 その上で「僕は教員を13年やっているが、この10年くらい、仕事が積み上がっていき、大変になる一方だ。クロールを息継ぎなしで泳いでいる感じが毎日続いているようなものだ。実際、中学校教師では、半分が過労死ラインを超えているという調査結果もある。他にこんな職種はないと思うし、しかもそれが教育現場だということが問題だと思う。中でも部活動の負担は大きい。“外部化”といって、地域の人材に入ってもらったり、クラブチームにしていくという取り組みもあるが、地方では人材もなかなかいないので、10年、20年という時間がかかると思う。その意味では、教員免許の更新を改善するのが早いかもしれない」と訴えた。

■文科相が財務省と闘うには、“政治”という助っ人が必要だ

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 「#教師のバトン」について前川氏は「教師という仕事の魅力、生きがいを先輩から後輩、あるいは“卵”である学生さんたちに伝えようという趣旨だったと聞いているが、要するに、その“あて”が外れたのだろう」との見方を示す。

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 「結果として、現場の声がたくさん寄せられたということはいいことだと思う。もちろん、こうした問題は今までも溢れんばかりに報道されてきたし、“教師の多忙化”という言葉も20年くらい前からある。文部科学省だって勤務実態などは把握しているので、少なくとも数字の上ではわかっていることだ。

 そもそもこの20年くらい、“教育改革”が常態化している。政権が変わったり、文部科学大臣が変わる度に新機軸が打ち出され、学校現場にやらせる仕事を政策的に増やしてきた。

 例えば生徒、教師、学校を細かく評価するという風潮もその一つだ。そのために計画を立て、実施状況についての報告書を作るというような、“役所の仕事”みたいなものが大量に学校現場に降りてきている。しかし、そういう文書を誰が読むのかと言えば、ほとんど誰も読まない。今一度、“こんな報告書いらないだろ”、というのを洗い出す作業が必要だ。

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 それから、実は授業時数も増えている。2000年代までの“ゆとり教育”が批判を受けた結果、2010年くらいを境に時数を増やそうという動きがでてきて、実際、それから2度にわたる学習指導要領改訂では、いずれも時数を増やす方向になった。昨年度は新しい学習指導要領の本格実施年度だったが、一段と時数が増えた。

 1学級あたりの児童・生徒の人数も5年かけて35人に減らしていくことになっているが、これも他国に比べると多すぎる。加えて、江澤さんがおっしゃった部活動だ。バレーボールをやったことのない先生がバレーボールを指導するなんておかしいし、教員の本来の仕事ではない。ここは部活のための指導者を入れるべきだ。

 しかし日本の学校現場は他国に比べてそうして教員以外のスタッフが際立って少なく、事務職員と用務職員くらいしかいない。アメリカやイギリスでは、スタッフの4割が“non teaching staff”、つまり教員ではない職種で占められている。文部科学省としても“部活動指導員を置くことができる”と法令改正をしたが、配置がまだ進んでいない。

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 やはりこうした問題を解消するためには、財務省に掛け合って予算を取ってこないといけないい。この壁が分厚く、ガチンコで勝負したら100戦100敗で文科省が負けてしまう。僕も教職員定数を担当する課長をやったことがあるが、なかなか財務省を崩せなかった。

 つまり文科省には助っ人が必要で、それが政治だ。“これからは教育が大事だ。だからもっと先生を増やそう”という動きが政治の世界でも出てくれば、“ほら、そう言ってるじゃないか”と財務省を説得することもできるし、それが35人学級にもつながった。ただ、背景にはソーシャルディスタンスが大事だよね、という意識が出たからという面もあり、なかなか“政治の風”は吹いてこない」。

■少しでも良い形で若手に“バトン”を渡したい。

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 一方、祖父、両親が教育者だったというパックンは「アメリカなら労働組合が声を上げてくれる。それも、学校に対すしてではなく、政治に対してだ」と疑問を呈すると、両親、おじ、さらに妹が学校教員だという慶應義塾大学特任准教授でプロデューサーの若新雄純氏は、冗談も交えながら次のように説明する。

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 「僕は江澤さんと同じ福井出身だし、友人でもあるが、どの地域でも、先生というのは地元で一番の進学校を出た人がなるものだ。つまり、いい子だね、優等生だね、言われて育った“いい人”たちなので、“嫌だ”とか“無理”とか言わないし、反抗するとか、異議を申し立てるみたいなことをする人は少ない。

 これが普通の企業ならば自分たちの権利や労働環境について訴えるかもしれないが、先生たちは目の前の子どもの指導があるのに、そういうことに時間を割いていいのかという発想になってしまう。しかも先生というのは自治体ごとに採用され、転職もない世界だし、地方では大企業並みの給料がもらえたりもするので、不満なんて言うべきではないという発想になってしまう。だから保守的な福井という地域でこんなに声を上げている江澤さんは目立っているし、異端児だ(笑)。

 しかし、日本社会はそういう先生たちに甘えてきたということだ。それでも先生だって労働者だし、このままでは将来の子どもたちのためにも良くない。だから江澤さんには“うざい”と言われても頑張ってほしい」。

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 若新氏の“エール”に対し、江澤氏は「はっきりしたことは言えないので、お察しください」と苦笑しつつ、「閉鎖的な面があることは間違いないと思う。でも、それ以上に目の前に子どもがいて、やればやるほど伸びていく。だから何かやりたくなる。だから自分自身で積み上げていってしまうということがあるのも確かだ」と答えた。

 一方、前川氏は「教師は聖職者なのか、それとも労働者かという議論があるが、やはり目の前に子どもがいる限り、24時間、365日、教師は教師であり続けるのだろうし、労働者としては主張もするべきだし、組合を結成してもいい。

 今は組合の組織率も下がって、加入している先生は3割くらい。支援している野党も弱い。しかしかつてはほとんどの先生が加入していて、組織力も大きかった。1960年代には、残業代が出ないのに残業しているじゃないかと、日本中の教職員組合が音頭を取って訴訟を起こし、教育委員会がバタバタと負けていった。それで頭を抱えた当時の文部省が、人事院と相談して“残業代の代わりに本給の4%を払う”ということで手を打ってもらおうと考え、給特法という法律を作った。

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 ただし、労働基準法に基づく時間外勤務手当ではなく、この4%の教職調整額になってしまった背景には、教師は聖職者であって、時間で仕事を切り売りしないものだ、というような理論があったことも確かだ。それでも、もうこの仕組みは変えるべきだ。文科省が給特法改正をやったが、これはまやかしだ。“1カ月の残業時間は45時間に収めましょう”と言っているが、“残業は教員の自発的勤務だ”という前提の考え方を捨てていない。つまり、自己規制しなさいと言っているわけだ。そんなことできるんだったらとっくにやっている。

 それから、学期の間は週45時間くらい働いてもらって、その代わりに夏休みに休める日を作りましょうという変形労働時間制という話が出ているが、実際、夏休みに休めているのか、そもそも年間20日間の年を消化できているのか、という話で、これもまやかしだ。

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 これらの改革が、むしろ事態を悪化させる危険性すらある。“教師の特殊性だ”と説明されるが、国立学校と私立学校には労働基準法上の時間外勤務手当が出ているが、公立学校だけ出ていない今の仕組みは、やはり異常だ。制度の存在理由が破綻している以上、労働基準法に基づいた普通の働き方にした方が、抑制効果も持つ」との考えを示した。

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 最後に江澤さんは「大学を卒業し、すぐ先生になって学校に入ってくるので、みんなが過労死ラインを超えるような、この働き方が普通なんだなと思い込んでしまう。しかし、この異常な環境を当たり前にしない、ということを忘れないでほしい。教師という仕事は、大変だが楽しい。やりがいすごくある仕事なので、ぜひ目指してほしい。シンプルに、労働環境さえ改善してくれれば、自ずと教員になりたいという人は増えていくはずだ。今はまだ“バトン”は重たいので、若手にそっとは渡すことはなかなかできないが、少しでも良い形で“バトン”を渡したい。そのためにも声を上げ続けたい」と呼びかけた。(ABEMA/『ABEMA Prime』より)

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